ダイアログーその8
「思った通りだ。救いようのない貧困な想像力だな」
オレ様の声だ。
見ると、オレ様は同じ位置で仰向けになっていた。
僕はオレ様に近づく。
6本の脚がわずかに、ゆっくりと動いている。
「貧困な想像力って......オレ様がそうさせたんじゃないか。僕だって見たくて見たわけじゃ......」
「また始まりおった。オレ様は『オマエの想像力を試す』、そう言っただけだ」
「あんな貧困な想像しかできない、それが今のオマエの限界なんじゃ。なんでも周りのせいにするな」
「オレ様は、何を期待していたんだい? つまり、僕の想像力の何を......」
「何かを期待しておった訳じゃない。オマエがあまりにも惨めに見えたからのぉ、その惨めな人生を放棄して生まれ変わった体験をさせてやっただけだわい」
「......でもなんでアブラムシなんだよ? ぶっちゃけ、すんげぇ怖かったよ」
「だからそれがオマエの限界なんじゃよ。アブラムシになったおかげで、一本の木が『線』から『面』へ、『面』からオマエを取り巻く『空間』へと広がっていったじゃろうが」
「......」
「つまりだ、オマエに見えている世界のスケールが広がった、という事だ。ところがだ、オマエの想像力ときたらどうだ」
「バグのあるオマエの大脳にあるつまらん知識と記憶を引っ張りだして、せっかく広がった世界にただ並べただけだ。ありゃ、想像とは言わん」
「挙句の果てに、元の世界に戻ってすぐに、女に対する遺恨とは......」
「オマエはオレ様と入れ替わりたいようだったが、オレ様には大迷惑な話だ。死んだ方がましだ。実際、もうすぐ死ぬがな」
あんな怖い思いをさせておいて、今度は罵倒かよ。
ったく、こんな死にぞこないのセミにかかわらなきゃよかったよ、マジで...
「オマエは、昔勤めていた会社の誰かの話を思い出しておったろう」
「ありゃ、恐らくオマエ自身だな。オマエの『幼稚な願望』そのものだ」
「なんでも周囲のせいにしたがるオマエが作り出した自分の分身だ」
「じゃあ、いったい、どんな想像をすればよかったんだよ!」
「そんなもん、自分が気持ちよくなる想像に決まっておるだろうが」
「気持ちよくなる想像って......いったい…」
「まったく......つくづくなさけないヤツだのぉ、『メス』の想像に決まっとるじゃろうが!」
「『メス』......? つまり女ってことか?」
「そうだ」
「女の......女のどんな想像だと......」
「メスとの交尾に決まっとるじゃろうが!」
「はぁ!? 何言ってんだよ!この死にぞ......いや、オレ様ってヤツは!」
「オマエはどっからどう見てもメスから相手にされそうにない、だがオマエはメスを求めておる。だから......」
「分かってないな、オレ様。アブラムシは夏は交尾しないんだよ。アブラムシが交尾するのは秋......」
「だから想像しろ、そう言ったじゃろうが。下らん知識を持ち出すな」
「いいか、オマエはアブラムシの個体差が認識できないじゃろう。つまり、皆同じアブラムシだ。まさに誰かが言っておった『皆が同じスタートラインに立った平等な状況』じゃろう」
「メスに相手にされない人間のオマエが、アブラムシになって、優越の差がない世界で人生をリセットしてメスと交尾しまくる」
「想像するだけだ。簡単なことじゃろう。もっとも交尾に興味がないなら、話は別じゃがのう」
交尾って......セックスだろう......
したいに決まっているじゃないか――




