ダイアログーその10
「オマエ、自分で分かって言っておるだろう」
…何がだい……?
「この期に及んでまだ白を切るか」
だから、なに…
「オマエはな、自分のことをよくわかっておる」
「"無理せずに、自然に自分らしく生きたい"だと?」
「"人を不愉快にすることは、僕にとって不自然なこと"だと?」
「自分はそんなことは本気で思っていない、ということをよく分かっておる」
「本気で思っていないことを口にしてしまうことも、よく分かっておる」
そんなことはない。
無理すると、必ずどこかで破綻して、無理していた自分を後悔する。
人を不愉快にすると自分も不愉快になる。
それが嫌なんだ。
本気でいやなんだ。
「だとしてだ、わざわざ他者に言うほどのことか?」
「いいか、各個体の優先順位というモノはたいがい違っておる」
「例えばだ、生きるか死ぬかの瀬戸際に立っておる者に"無理せずに、自然に自分らしく生きたい"などと言うことに何の意味があるんじゃ?」
「ましてやこのオレ様は、今まさに死にゆく存在じゃ」
「"おお、それは素晴らしい!"などと言われるはずがない。少なくともオレ様は言わん」
「実は、オマエはそれをよくわかっておる、違うか?」
・・・・・・
「ふん、認めざるを得んようだな」
「では何故、無駄だと分かり切ったことを言ってしまうのか。これがオマエの最大の問題じゃ」
「オレ様に、"自分と入れ替わらないか?"などとホザイておったな。そんなことできるわけがないのを知りながらだ」
「それはな、頭では理解していながらも、"抑えきれない怒りや不満"、"淡い期待"、"低レベルな承認欲求"、そんな感情や衝動が理性を上回っている状態、とでも言っておこうかの」
「ところがだ。いざ想像しろ、と言われてオマエがやったことはなんだ?」
「無駄なことし放題な想像の世界に居ながら、自分よりデカいアリの前でビビりまくっとったな」
「いざ自分が窮地に立たされた瞬間に、乏しい知識を総動員して、そういった感情や衝動を払拭して、急に理性的になりおった」
「もしオマエが、あの瞬間に誰かに"無理せずに、自然に自分らしく生きたい"と言われたらどう思うのじゃろうなぁ」
ちょっと……僕には"話が長い"と言っておきながら、オレ様だって随分と話が長いじゃないか。
矛盾していないか?
「やれやれ、含意をよむ力も乏しいのぉ。当然、"無駄な"話が長い、と解釈すべきだろうが」
「だったら、オレ様の話で無駄だと思う部分を指摘してみろ」
・・・・・・
「ふん、また無駄話を一つ増やしおって」
「いいか、オマエの言うこと、やることは、すべてオマエが考えた予定調和の世界の域を脱しておらんのだ」
「"こんなこと言ったって、実際には起こらない"、これを分かったうえで言う」
「実は、そうやって自分らしく生きようとしているオマエは、そんなオマエ自身が嫌いなのではないか?」
「乏しい予定調和の世界でしか生きられない。それが、オマエの言う"自分らしく生きる"ということなのだろう?」
「だが、オマエはそんな自分を周囲に理解してほしい。できれば評価してほしい」
「ところが、オマエは周囲をひとまとめにして考えておる。つまり、自分とその他大勢じゃ」
「他者にはそれぞれ異なる事情があり、優先順位がある。何を評価するかも、個体によって違う」
「それなのにオマエは、他者が何を求め、何を評価するのかを知ろうともせず、自分らしく生きていれば、いつか誰かが評価してくれると期待しておる」
「だが、集団というものは、個体それぞれの優先順位を、そのまま受け入れてくれるわけではない」
「集団には集団の目的があり、その目的に役立つ能力や振る舞いが評価されることもある」
「もちろん、集団によって求められるものは違う。だからこそ、何を求められているのかを知り、自分に何ができるのかを考える必要があるのじゃ」
「ところがオマエは、そこから先を想像しようとせん」
「どんな能力が必要なのか。どうすればそれを獲得できるのか。そもそも、誰に評価されたいのか」
「そういうことを考える前に、あきらめてしまう」
「そして、"無理せずに、自然に自分らしく生きたい"などという、耳ざわりのよい言葉で自分を納得させる」
「オレ様には、そう見えるのじゃ」
「死にぞこないのセミに"入れ替わろう"とたわ言をほざく」
「その死にぞこないのセミに罵倒される」
「救いようがないのぉ」
ちょ、ちょっと待ってよ!
僕は頭がコンガラガッてきたよ。
だけど……オレ様は一体僕の何を知っていてそんなことを言うんだい?
どこにそんな権利……
「ふん、また無駄なこと言っていることに気づいて寸止めしおったか」
「まぁ、ちょっとは学習能力があるようじゃな」
「オレ様の話したことは、全てオレ様の想像によるものに決まっとるじゃろう」
「想像力の使い方の模範例の一つだ」
……ええっと……
僕は、今、なんでこんな目にあっているんだっけーーー?




