ダイアログーその11
えっと......僕は、何をしようとしていたんだっけ?
そうだ......
今年の夏は……違う。
透明度が低い。
密度が高い。
外が重い。
そして、中が軽いんだーー
そうだ、住宅街のいつもの散歩コースを歩いていたら、歩道の上の死にかけのアブラゼミを見つけたんだ。
それで、セミに問いかけてみたんだ。
なぁ、僕と入れ替わらないかい?
それから、そのアブラゼミといろいろ話した。
いや、話していたのはアブラゼミだ。
僕はただ、聞いていた。
そしてアブラゼミの言われるがままに......
いや、アブラゼミが話せるわけがないんだ。
じゃあ、僕は誰と話していたんだ?
声が...聞こえる...
「人間はね、人生100年時代、と言われているんだよ。」
誰の声だ?
人生100年時代?
そんなものが来るわけないだろう。
多くの老人は、その生活を医療システムに支えられているんだ。
これからどんどん高齢化社会が進む中で、医療システムの需要と供給のバランスはいつか臨界点を突破する。
医療システムからあぶれる人々が出てくるんだ。
そんな人々に対して"人生100年時代"なんて誰が言えるんだ?
ちょっと想像すれば分かることだろう。
それに、もっとよく現実を見ろ、っていうんだ!
また誰かの声だ...
「オレの家は貧乏だったから、オレは大学に行けなかった。
そのせいで、オレの会社での今の待遇は、同期で大卒の連中より遙かに低い。
今ここで、世界がひっくり返るような大惨事が起きて、皆が全てを失って同じスタートラインについて、生きるか死ぬかの世界が始まる。
そしたら、オレはヤツらの頂点に立って立場を逆転させる自信がある。
それを考えると、ワクワクするんだ……」
バカな。
生きるか死ぬかの世界が始まれば、全員が必死になるんだ。
そのヘンテコな自信の元になっている既成の予定調和なんぞ通用しない世界になるんだ。
それに...自分の不遇を認識していながら、安易な選択肢を自ら選び、思った通りの不利益を被っただけだ。
怖くて他のオプションを選択しなかっただけだろう。
いや、想像力が欠如しているから、他のオプションさえ手に入れることができなかっただけだ。
コイツも、もっとよく現実を見ろよ!
また別の声...
「この国ってさ、いろいろとアマイじゃん。
アマイし便利だからさ、スポイルされちゃって、生き抜く力が養えないじゃん。
骨抜きになっちゃうよな。
だからさ、ボク、海外に行くんだ。
生きるか死ぬかっていう状況さえあるかもしれない、海外の慣れない環境に身を置いて自分を鍛えるんだ。
生き抜く力をつけるために。」
よく言うよ。
こんなアマアマな世界でさえ何もできないヤツが、より厳しい世界に行けばどうなるか、一目瞭然だろう。
コイツの場合は想像力以前の問題だ。
ったく......!
今度は、女の声だ……
「わたし、そういう人って嫌いなの。
ごめんなさいね。
もう連絡しないでください」
そうだ。
思い出した。
この声を聞いた瞬間だった。
透明度が下がった。
密度が上がった。
外が重くなった。
そして、中が軽くなったんだーー
次回、最終話です。




