ダイアログーその5
目の前に、見たこともない景色が広がった――
茶褐色の大地。
いや、大地じゃない。
木の幹だ。
さっきまでヒダにしか見えなかったものが、巨大な尾根となって遥か上まで続いている。
尾根と尾根の間には、光の届かない深い谷。
樹皮のササクレが、巨大な岩盤のように斜めに突き出している。
見え方が……おかしい。
景色が細かい。
いや、細かいというより――近い。
目の前を見ているはずなのに、左右からも同時に何かが見えている。
世界が僕を取り囲んでいる。
あれ?ちょっと待てよ。
アブラムシの視力って…こんなに…
「また始まりおったわい」
オレ様の声だ。
「オマエの想像力を試す、そう言ったはずだ。余計な事を考えるな、感じろ」
ん……?
どっかで聞いたことがある言いまわしだけど…
あれ?
アブラムシって聴覚があるんだっけ?
オレ様の声が聴こえるってことは……
いや……考えるのはやめよう。
また、ドヤされるだけだ。
あれ?体が動かない。
動かし方がわからない。
ああ……そうだ、自分の体が見えてないからだ。
どこに脚や手が付いているのかがわからない。
あ、いや、手は無いか…
でも、人間だった頃、あ、今でも人間のはずだけど、自分の脚や手の位置なんて意識していただろうか…
アブラムシって昆虫だったよな。
だから脚が六本あるはずだ。
見えない…だから感じるしかないのか…
不思議な感覚だ。
自分の体のイメージが湧かないと、体って動かせないのかな……
頼みの綱は想像力か…
いや、そもそも脚が六本なんて、どんな順番で動かすんだ?
想像なんてできないよ。
……ムリ、無理、もうムリだよこんなの。
それに、変な振動がズンズン近づいてくるようだし。
オレ様〜、もう戻りたいよ。
僕、こんなのイヤだよ!
「それはおかしいじゃないか。だってオマエがオレ様と入れ替わりたいんじゃなかったのか? アブラムシはその予行演習だ」
「予行演習? あ、いや、そうだけど……こんなの想像してなかったんだよ。それにオレ様はセミじゃん」
「ほう」
ズン……
また振動した。
さっきより大きい。
「じゃあオマエは、何と入れ替わりたかったんだ?」
「何って……」
ズン……
「オレ様の何を知って、入れ替わりたいと言ったんだ?」
……
僕は答えられなかった。
その瞬間、僕は黒い大きな影に覆われた。




