ダイアログーその3
まだ青味の残された空のずっと向こうの西側にオレンジの筋雲があった。
筋雲は三本。
皆、綺麗に並走している。
筋雲の芯の辺りは炎のようなオレンジ色だ。
見ている景色がまるで文章が流れていくように言語化されていく。
これも…考えてる、ってことなのかな?
きっと、オレ様のいう通りなんだろうな。
だとしたら、人間が考えるのを止めたとき――それは生きることを放棄して死を待つとき――
だとしたら、僕はまだ生きることを放棄していない、ってことになる。
オレ様の声が――聞こえなくなった。
その瞬間――
園児たちの声。
その母親たちの甲高い笑い声。
バイクの通り過ぎる耳障りな音。
そして、セミの鳴き声。
それらが一気に耳から脳に流れ込んできた。
目の前の景色がブレる。
僕がまだ生きることを放棄していない、ということは、この生き地獄のような苦痛に耐えることを選んだ――ということ…か。
でも――なぜだ?
僕は望んだりしていない。
オレ様の言うように、確かにこれはきっとバグなのだ。
笑い事ではなくなってしまった。
"止めること"が許されていない。
呼吸が自律神経によって無意識にコントロールされているように、"止めること"も自律神経によって抑制されているのだろうか。
いや、呼吸は自分の意志でも動かせる。
僕は大きく息を吸って、ゆっくりと吐いてみた。
ほら、自分の意志で深呼吸ができるじゃないか。
目の前の景色はずっとブレている。
僕は再び屈んで、微かに、そしてゆっくりと動くオレ様の脚を見た。
オレ様、疲れてきたよ、だからもう帰るけど、その前に「大事な事」を教えてください。
音が――消えた。
景色のブレが――止んだ。
なんだ、オマエは死にかけているオレ様を踏みつぶそうとしていたんじゃないのか?
あの”これから優位性を獲得する未来のある子ども”とやらのようにな。
そんなこと……考えていない。
フン、どうだかな。
さて、オマエの後ろに、一本の細長い木があるだろう。
幼稚園のフェンスの内側のすぐ脇に立っている木だ。
後ろを振り向いた。
幼稚園のフェンスの内側に、まっすぐに上に伸びている木が見える。
幹は細く一本だ。
直径は…数センチ…くらい。
ここからだと、ほぼ一本の直線に見える。
高さは2メートルくらいで、木の天辺が枝分かれして、緑の葉が茂っている。
"大事な事"って...これ?
……まあいいや、考えるのは止めよう。
ああ、見えるよ、木が。
“オレ様”の羽がジジっと音を立てた。




