ダイアログーその2
“オレ様”の羽がジジっと音を立てた。
何が、”君はこれから優位性を獲得する”だ。
オレ様の仲間の多くが、あんな親子連れどもにとっ捕まった。
恐らく、もう生きちゃいない。
僕も子どもの頃、セミ捕りやっていたな。
おい、もうあっちに行ってくれないか。
まだ答えを聞いていないよ。
オレ様とオマエが入れ替わる話か?
つくづくバカだな。
そんな不可能なことをいちいち考える訳がない、したがって答える訳もない。
考える、って言うけど、そもそも考える脳がないよね、だってセミだもの。
ほほう、そんなセミにバカ呼ばわりを連発されて、頭にきたか?
では聞こう。
考える、とはどういうことだ?
僕は空を仰いだ。
遠くに音のしない旅客機の姿。
10年前頃から、このあたりの上空は、羽田空港へ向かう旅客機の飛行ルートになったんだ。
この時間帯はほぼ十分毎に、旅客機が次々に流れ去っていく。
まるで、飛行機のラッシュアワーだ。
考えることとはーー
自分の五感で感じ取った情報を、言語化する作業、かな。
ほほう、では言語を持たない生き物は”考える”ことをしない、そういうことだな?
人間以外のことは……分からない。
もういい加減に言い飽きたが、救いようのないバカだな、オマエは。
では、何故、人間ではないセミのオレ様に意見を求めたのだ?
僕は再び空を仰ごうとして止めた。
ふん、どうした、考えているのか?
僕は、空を仰ぎたい衝動を抑えていた。
なんだ、答えられないのか。
いいか、セミであるオレ様には大脳がない。
不要だからだ。
オレ様には”何感”あるのか知らんが、基本的にそれを通じてインプットされる情報は、小さな脳や神経節で処理され、その多くが行動へと変換される。
オマエらのように、大量の情報を溜め込んで、いつまでもああでもない、こうでもないと考える必要がないのだ。
“オレ様”の羽が再びジジっと音を立てた。
ひょっとして、オマエはその大きな頭部の中の大きな大脳を劣化させないために、常に考え続ける必要があるんじゃないのか?
だから、セミのオレ様と入れ替わる、などという、下らん”考え”が浮かぶのだ。
生物学的には、そのバカデカい大脳は”バグ”じゃないのか?
哀れよのう。
僕はフッと笑ってしまった。
だって、虫に、僕の大脳そのものが“バグ”だって……
何をニタニタしてるんだ、オマエは。
いいか、一つ大事な事を教えてやろう。
僕は空を仰ぎ見た。
西側にオレンジの筋雲があった。
そしてーー考えるのを止めてみた。




