ダイアログーその1
今年の夏は……違う。
透明度が低い。
密度が高い。
外が重い。
そして、中が軽いんだ。
午後四時半。
午後の散歩。
住宅街のいつものコース。
小さな商店街を抜ける。
変化がない。
刺激がない。
それがいい。
いや、それしか選べない。
幼稚園脇のピンクを基調とした綺麗な石畳の歩道を歩いている。
敷詰められた石達はそれぞれ微妙に色が違う。
そのせいか、バランス感覚が鈍る。
お迎えの親達が、幼稚園の門を潜っていく。
幼稚園を過ぎたあたりで、歩道の上の小さな塊に気づく。
セミだ、アブラゼミーー
仰向けだ。
死んでいるのか?
屈んで見る。
僅かに脚が動いた。
もうすぐ…死ぬんだなーー
セミに問いかけてみる。
なぁ、僕と入れ替わらないかい?
しばらくセミを見つめていた。
フっと笑って立ち上がる。
別にフっと笑う必要はないんだが、この方が収まりがいい。
セミから目を逸らし、立ち去ろうとした瞬間、声が聞こえた。
何故だ?
フっと笑って、再びセミの前で屈んだ。
何故だ? 見ての通り、オレ様はもうじき死ぬんだ。何故そんなオレ様と入れ替わりたいのだ。
なぁ、死ぬって、どんな感じなんだい?
バカなヤツだ。もうじき死ぬがまだ死んじゃいない。だから知る訳ないだろう。
今、痛かったり、苦しかったりするのかい?
本当にバカなヤツだな。オレ様はセミだ。今のオレ様の状態を人間の言葉で言語化できる訳ないだろう。
そうか…なぁ、今ひょっとして自分の人生、いや、生涯を振り返ったりしているのかい?
君は幼虫の状態で土の中に7年間、成虫になって地中から這い出て一週間で死ぬんだろう?
土の中の7年間はどんな感じだったんだい?
退屈じゃなかったのかい?
オレ様が土の中にいた期間など知らん。時間の概念など持ち合わせておらん。
逆に聞くが、退屈、とはなんだ?
つまり、面白い事が何もなくて、やる事が何もなくて、何で生きてるんだろう、とか考えることかな。
自分の場合は、「やる事がない」じゃなくて「出来ることがない」なんだけどね。
ならば、オレ様は退屈には無縁だ。
木の根を探して地中を動き回り、その木の根から汁を吸う。その繰り返しだ。
体を大きくする為だ。
つまり、生存競争における優位性をいち早く獲得することに忙しいのだ。
出来ることがない、と言ったが、それはどう言う意味だ。
オレ様の様に、空中を飛びたいが、出来ない、そんな話か?
手を繋いだ幼稚園児と母親が横を通り過ぎて歩き去る。
セミから目を逸らし、去っていく幼稚園児の後ろ姿を見る。
幼稚園児は盛んにこちらを振り返っている。
あぁ、聞こえるよ、聞こえる、
君の全身が言っているよ。
自分もこれから、生存競争の優位性を獲得するんだ、と。
そう、あの子には…未来があるんだーー




