8話
放課後のあの日から、
ふたりは、ほとんど話さなくなった。
同じ教室にいるのに、距離だけが、少しずつ遠くなる。
一生は何度か声をかけようとした。
でも、そのたびに――
(またあの顔されるの、きつい)
踏み出せなくなる。
美桜も同じだった。
(話したい)
そう思うのに、
(でも、話したらまた――)
あの視線や、言葉を思い出してしまう。
結局、何もできないまま、時間だけが過ぎていった。
⸻
季節がめぐり、また桜の季節になる。
「クラス発表こっちだって」
誰かの声。
美桜は、賑わいの中で自分の名前を探した。
(……あった)
視線を横に動かす。
関根くんの名前は、そこになかった。
別のクラス。
わかっていたのに、胸の奥が、少しだけ空っぽになる。
新しい教室。
新しい席。
新しい人間関係。
全部が、普通に進んでいく。
美桜も、ちゃんとやれている。
(これでいい)
そう思う日が、増えていく。
でも、廊下ですれ違うことがある。
そのたびに、一瞬だけ視線が合う。
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――そして、すぐ逸らす。
お互いに。
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(……いた)
廊下の向こう。
すぐにわかる。
でも、声はかけない。
かけられない。
(もう、いいだろ)
あいつがそう言ったんだから。
それで終わりのはずなのに、目だけは勝手に追ってしまう。
(なんなんだよ、ほんと)
小さく舌打ちする。
でも――
その理由だけは、言葉にしなくても、わかっていた。
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⸻
⸻
(……いた)
見ないふりをする。
それが一番楽だから。
(これでよかった)
何度も自分に言い聞かせる。
でも、胸の奥に残っているのは、
うまく名前をつけられないままの感情だった。
⸻
入学式の日。
桜の下で、一瞬だけ、目が合った。
ただ、それだけのこと。
なのに、あのときのことを、なぜか、まだ覚えている。
それはきっと、何かが始まる前に、
終わってしまっただけの話で――
忘れるには、少しだけ、鮮明すぎた。
そんな春の記憶だった。




