9話
二年になって、クラスが変わり、
顔を合わせることも、ほとんどない。
それでも――
「ねえ、聞いた?」
昼休み、前の席の子が振り返る。
「二組の関根くん、彼女できたって」
その名前に、手が止まる。
「……へえ」
できるだけ普通に返す。
「なんか、結構前から仲よかった子らしいよ」
「そうなんだ」
それ以上、聞かない。聞きたくない。
でも、
(彼女、できたんだ)
その言葉だけが、頭の中で何度も繰り返される。
放課後。
昇降口で靴を履き替えていると、
少し離れたところから声が聞こえてきた。
「関根くんと、彼女じゃない?」
反射的に、視線が動く。
(見なきゃいいのに)
そう思うのに、目は勝手に探してしまう。
――いた。
関根くんが、笑っている。
その隣に、女の子。
何かを話しながら、同じタイミングで笑う。
自然に並んで歩いている。
それだけなのに、距離が近く見える。
(……そっか)
胸の奥が、静かに沈む。
痛い、というより、ただ、重い。
視線を外して、そのまま外に出る。
風が少し冷たい。
(関係ないし)
もう、とっくに終わってる。
そう自分に言い聞かせる。
でも――
(……なんで、ちょっとショックなんだろ)
足が止まりそうになるのを、無理やり進める。
⸻
「一生ってさ、優しいよね」
隣を歩く彼女が笑う。
「そう?」
何気ない会話。
周りから見れば、普通のカップル。
でも、一瞬だけ、頭に浮かぶ。
(……あいつなら、なんて言うかな)
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
すぐにごまかす。
(なんで今さら)
もう話してない。
関係もない。
それなのに、消えない。
⸻
⸻
夜。
机に向かっていても、勉強に集中できない。
(別に、いいじゃん)
好きだったわけじゃない。
ただ、ちょっと気になってただけ。
そう思おうとする。
でも――
「……嘘」
小さくつぶやく。
本当は、わかってる。
ちゃんと好きだったことも、何もできなかったことも。
そして、
「もう、遅い」ってことも。
⸻
⸻
廊下で、またすれ違う。
関根くんの隣には、あの子。
目は合わない。
合わないようにしてる。
でも、
一瞬だけ、気配が触れる。
それだけで、胸の奥が、少しだけ痛む。




