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13話

「じゃあね」


美桜が背を向けて歩き出す。

その背中が、少しずつ遠くなる。


(……待てよ)


足が、一歩だけ前に出る。

呼べばいい。

名前を呼んで、止めて、さっき言えなかったことを、全部――


(言えよ)


頭の中で、自分の声がする。

でも。


(……今さら、何言うんだよ)


喉の奥が、詰まる。


“好きだった”

“ずっと気になってた”

“なんであのとき――”


言いたいことはいくらでもあるのに、どれも、遅すぎる気がして、足が止まる。

美桜の背中は、もう少しで曲がり角に消える。


(行けよ)


それでも、動けない。

――あいつは、ちゃんと前に進んでる。

さっきの顔を思い出す。

少しだけ寂しそうで、でも、どこか吹っ切れたみたいな表情。


(……あれ、壊すのか?)


自分が。

今さら、追いかけて。

「好きだ」とか言って。


(それ、自己満じゃねえの)


ぐっと奥歯を噛む。

足が、完全に止まる。


曲がり角。

美桜の姿が、見えなくなる。


静かな廊下。

誰もいない。


一生はその場に立ったまま、しばらく動かない。

それから、ゆっくり息を吐く。


「……遅えよ」


小さく、つぶやく。

自分に向けて。



頭の中に浮かぶのは、

一年の春。

桜の下で、目が合ったあの瞬間。

笑ってた顔。

話してた時間。

避けられた日のこと。

そして、さっきの言葉。


“楽しかった”


(俺もだよ)


声には出ない。


ポケットの中で、スマホを握る。

連絡先なんて、知らない。

知ろうともしなかった。


(なんで、あのとき聞かなかったんだよ)


今さら、どうにもならないことばかりが浮かぶ。


「……はあ」


短く息を吐いて、一生は、廊下を歩き出す。

さっきとは逆の方向へ。


卒業式後の喧騒が、遠くに聞こえる。

笑い声と、呼び合う声。

その中に、


もう“美桜と話す時間”は、ない。


それでも、さっきの数分が、やけに頭から離れない。


終わった、はずなのに、

胸の奥に残っているのは、

はっきりとした“終わり”じゃなくて、

言えなかった言葉のかたまりだった。

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