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12話

卒業式の日。


体育館の空気は、少しだけ重かった。


式が終わって、教室に戻って、最後のホームルームも終わって。


「写真撮ろー!」


そんな声があちこちで上がる中、

美桜は、ひとりで廊下に出た。


(……今しかない)


逃したら、もう話すことはない気がした。

関根くんを探していると、廊下の奥。

窓の近くに、1人で立っていた。

少しだけ迷って――歩き出す。


「……関根君」


名前を呼ぶ。

関根くんが振り返る。

一瞬、驚いた顔。


「谷川?」


久しぶりに、ちゃんと向き合う。

心臓がうるさい。


「ちょっと、いい?」


「うん」


短い返事。

それだけで、少しだけ救われる。

数秒の沈黙。

何から言えばいいのかわからない。


でも――


「……ごめんなさい」


先に出たのは、それだった。

関根くんが少しだけ眉を動かす。


「なにが」


「一年のとき」


言葉を探しながら続ける。


「急に、避けたりして」


「……ああ」


思い出したように、小さく息を吐く。


「別に、いいって」

「よくない」


思ったより強く出る。


「ちゃんと話せばよかったのに、逃げて」


視線を落とす。


「ずっと、気になってた」


その言葉で、空気が少し変わる。

関根くんは、何も言わない。


「だから……ちゃんと謝りたくて」


やっと顔を上げる。


「ごめんなさい」


まっすぐ言う。

関根くんは少しだけ黙ってから、


「……そっか」


と、短く返した。

それだけなのに、胸の奥が少し軽くなる。

でも同時に、


(これで終わりなんだ)


って、わかってしまう。

少しの沈黙。

何か言わなきゃと思うのに、言葉が出てこない。


本当は――

言いたいことは、他にあるのに。

でも、


(今さらだし)


そのまま飲み込む。


「じゃあ、私行くね」


小さく言う。

背を向けようとした、そのとき。


「谷川」


呼び止められて、振り返る。

関根くんが、少しだけ迷った顔で立っている。


「……あのときさ」


「え?」


「なんで避けてたの」


今さらの問い。

でも、ずっと残ってた疑問。

少しだけ迷って、それでも、美桜は答える。


「……周り、気にしちゃって」


小さく笑う。


「変なこと言われてて」


関根くんの表情が変わる。


「……は?」


「気にしなきゃよかったんだけどね」


軽く言う。

でも、声は少しだけ震えている。


「それで、話せなくなって」


一生はしばらく黙って、それから低く言った。


「言えよ、そういうの」


「……そうだね、ごめんね。」


少しだけ笑う。


「……でも、楽しかったよ」


美桜が言う。


「一緒に話してたの」


一瞬、目が合う。

そのまま、少しだけ逸らして、


「じゃあね」


今度こそ、歩き出す。

呼び止められない。

もう振り返らなかった。


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