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11話

三年の夏休み前。


「一生くん、また別れたらしいよ」


その一言は、もう特別なものじゃなかった。


(……そっか)


美桜はノートに視線を落としたまま、小さく思う。

いつも通り。

そう思ったのに、それ以降、その名前を聞くことがなくなった。





二学期。


教室の空気が、少しずつ変わっていく。


「志望校どこにする?」

「模試どうだった?」


受験の話ばかり。


「一生くん、最近めっちゃ勉強してるよね」

「部活も終わったし、本気出してきた感じ」


(……受験か)


なんとなく想像できる。

今までとは違う顔で、机に向かっている姿。





廊下ですれ違う。

久しぶりに、ひとりの関根くん。

隣に誰もいない。

それだけで、少しだけ違って見える。



一瞬、目が合う。

前みたいに、すぐ逸らせない。

それでも、言葉は出ないまま通り過ぎる。





(……今の)


目が合った。

ちゃんと。


(変わってないな)


静かな雰囲気。

でも、前より少しだけ大人びた気がする。

足を止めかけて――やめる。


(今さら、何話すんだよ)


自分で思って、少しだけ苦くなる。





秋。


放課後の図書室。

ページをめくる音だけが響く。

美桜は、いつもの席に座っていた。

そして、少し離れた席に、関根くん。


偶然。

でも、お互い気づいている。


(……いる)


(……いるな)


空気だけが、少しだけ変わる。

話しかけない。

話しかけられない。


でも――

前みたいに、避けているわけでもない。

ただ、きっかけがないだけ。



ある日。


帰りの廊下。

人も少なくて、静かだった。

前から関根くんが歩いてくる。


(……どうする)


避けるか、そのまま行くか。

ほんの一瞬、迷う。

そのまま、まっすぐ歩く。

距離が近づく。

すれ違う――その瞬間。


「……元気?」


ぽつりと落ちた声。

美桜の足が止まる。

振り返る。

関根くんも、少しだけ振り返っていた。


「……うん」


短く返す。

それだけなのに、心臓がうるさい。

少しの沈黙。


「そっか」


関根くんが小さく頷く。

それ以上、何も言わない。

でも、さっきまでより、少しだけ、距離が変わった気がした。

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