第63食 カツサンド
「……んんっ」
シャロは小さく背伸びをして、ゆっくりと目を開けた。
紫色に染まった不気味な草原の上に生やした、植物の葉で作った簡易的なベッドの上。
深く、温かく、そして何より恐ろしい夢を見ることのない、本当に気持ちのいい目覚めだった。
昨夜の第九層の恐怖を少しばかり洗い流してくれたかのように、シャロの体と心はすっきりと澄み渡っていた。
「……起きたか、シャロ」
静かな声に振り返ると、燃え尽きかけた焚き火のそばに座り、杖を膝に置いて周囲を鋭い目で警戒し続けていたヨシュアが、少しだけ安堵したような表情を浮かべていた。
「ヨシュア……おはよう、ぐっすり眠れたよ」
シャロが微笑みながら歩み寄ると、ヨシュアは小さく肩をすくめた。
「ふああああっ……よく寝たゾ……」
アグニが大きなあくびをしながら豪快に身体を伸ばし、その横でエミルも目を瞬かせながら上半身を起こした。
「二人とも、よく眠れたみたいだね」
シャロが声をかけると、アグニは満面の笑みを浮かべた。
「ああ!おかげで最高にぐっすりだったゾ!」
「……とりあえず、あれからまた襲ってくる奴はいなかったようだな」
エミルが剣を手に取り、状態を確認しながら、ヨシュアに尋ねた。
「ああ、あのナイトメアが特別だったようだ」
ヨシュアが焚き火の火を完全に消しながら答える。
「さて、とりあえず顔を洗って、準備が出来たら先に行くぞ」
エミルの号令で、4人は水魔法で顔を洗い、意識を完全に覚醒させた。
昨日までの死闘の疲れは抜けきっている、しかし、ここが誰も到達したことのない未知の第九層の奥深くであるという事実が、4人の顔を引き締めさせた。
こうして、4人は再び黒く沈んだ空と大地の広がる「闇の世界」を、慎重な足取りで進み始めた。
***
どこまでも続く紫色の草原を、無言で歩き続けること数時間。
周囲の不気味な静けさとは裏腹に、徐々にその景色の異質さが際立ってきた。
「……ん?おい、前を見ろ。草原が途切れてるゾ」
先頭を歩いていたアグニが立ち止まり、前方を指差した。
その言葉通り、足元を覆っていた紫色の草は不自然なほどスパッと途切れており、そこから先はゴツゴツとした茶褐色の荒野が広がっていた。
「これは……」
エミルが息を呑む。
その荒野は見渡す限りの広大な『墓地』だった。
朽ち果てた墓石や十字架が無数に乱立し、周囲には薄気味悪い青白い霧が漂っている。
「昨日は剣の墓場を通ったけド、今度は本物の墓場かヨ……不気味だゾ……」
アグニが顔をしかめる。
「ああ、確かに猛烈に嫌な感じがする……気を付けろ、また環境が変わったということは、ここに適応した『何か』が居るかもしれないぞ」
ヨシュアが杖を握り直す。
四人が警戒しながら墓地の中を静かに歩き進めていくと――突然、周囲の青白い霧が濃くなり、強烈な魔物の気配が立ち上った。
ズズズズズ……。
墓地の奥深くから、ズルズルとローブの裾を引きずるような音と共に現れたのは、ボロボロの黒いフードを被った『三体の骸骨の魔術師』だった。
空洞になった眼窩には、尋常ではない悪意に満ちた赤い光が宿っている。
「……リッチか!」
リッチ、死霊魔術を得意とする、スケルトン系の最上位魔物だ。
ヨシュアがその魔物の名を口にした瞬間、リッチがそれぞれ手に持っていた禍々しい杖を天高く振り上げると、周囲の地面の墓石から、無数の骨の腕が突き出し、大量の『スケルトン』の軍勢が現れた。
カタカタと骨を鳴らしながら、錆びた剣や槍を持ったスケルトンたちが津波のようにシャロたちへ襲い掛かってくる。
「数だけは一丁前だなッ!《オーラ・ナックル》!!」
アグニが魔力を纏った拳で数体のスケルトンを粉砕する。
「《リーフ・カッター》!」
「《ライトニング・スラッシュ》!」
シャロとエミルも次々と襲い来る紫の群れをなぎ払っていく。
スケルトン一体一体は非常に弱く、一撃で骨を砕くことができる。
だが、問題はその『数』と『再生力』だった。
粉砕したはずの骨がカタカタと自動で組み上がり、無限に蘇っては襲い掛かってくる。
いくら倒しても文字通りキリがない。
おまけに、遠くの安全圏からは、三体のリッチが杖を振りかざし、高火力の『闇の魔法』を容赦なく撃ち込んでくる。
「チィッ……鬱陶しいナ!これじゃジリ貧ダ!」
アグニが飛んできた闇の魔法の弾を間一髪で避ける。
「取り巻きを相手にしてもキリがない、本体を叩くしかない!空から一気に行くぞ!」
エミルの合図で、四人は一斉に魔力を使って宙へと飛び上がり、空からリッチに向かって急降下攻撃を仕掛けた。
だが、リッチは素早く避けると、再び杖を高く掲げた。
すると、地上の無数のスケルトンたちが一斉に空中に巻き上げられ、互いの骨を合体し始めた。
ズゴゴゴゴゴ……!!
骨と骨が組み合わさり、瞬く間に『三体の巨大なスケルトン』が完成した。
巨人ほどの大きさになったスケルトンは、空中のシャロたちに向かって、大木のような骨の腕を振り回して攻撃してくる。
「うおっ!?」
四人は巨大スケルトンの攻撃を空中でなんとか躱す。
巨大化したスケルトンの重い一撃による防壁と、奥から容赦なく雨あられと降り注ぐリッチの闇魔法のコンビネーション。
攻防共に隙が無く、本体のリッチに近づくことが極めて困難になった。
「俺とシャロ、ヨシュアで、あの三体の巨大スケルトンを相手して引き付ける!アグニは、その隙に本体のリッチを狙え!」
エミルの的確な指示で役割を分担する。
「任せロ!」
エミルが雷の剣技で巨大スケルトンの意識を引き付け、シャロが植物操作でその足止めを行い、ヨシュアが氷の魔法で援護する。
その間にアグニが巨大スケルトンの背後へと回り込み、リッチへと肉薄した。
リッチもアグニを近づけさせないよう、闇魔法を連打する。
必死にその闇魔法の弾幕を避けつつ、攻撃の隙を探す。
「今だッ!」
闇魔法の弾幕を掻き分け、間一髪のギリギリの隙を突いてアグニがリッチの懐へと潜り込む。
魔力を最大限に纏った右ストレートが、一体目のリッチの顔面にクリーンヒットした。
バキィッ!!!
強烈な衝撃と共に、リッチの骸骨の身体が粉々に吹き飛び、ローブの残骸だけがひらひらと地面に舞い落ちた。
「よしっ、勝った!」
アグニが拳を握りしめて喜んだ、まさにその直後だった。
――カタカタカタカタッ。
粉々に吹き飛んだはずの骨の破片が、何事もなかったかのように空中で寄り集まり、あっという間に元のリッチの姿に『再生』してしまったのだ。
「なっ……!?マジかよ、コイツもあのスライムみたいに、完全に消し飛ばさないとダメな奴か!?」
考えてる余裕は無い。
アグニはリッチの闇魔法の猛攻を紙一重でかわしながら、絶好のタイミングを待つ。
「今だッ!《超オーラ・バースト》!!」
アグニの魔力の波動が再びリッチを捉えた。
圧倒的な熱量とエネルギーが直撃し、今度は骨の一片たりとも残さず、リッチはその存在自体を完全に消滅させた。
「はぁ……はぁ……倒した……っ!」
だが、アグニの安堵は長くは続かなかった。
ズズズズズ……。
リッチが消滅した場所のすぐ後ろ、墓地の土の中から、全く同じ姿をした新しい『リッチ』が無傷でズルリと這い出してきたのだ。
「なんだこいつハ!?完全に消し飛んだのに、まだ生きてるのカ!?不死身カ!?」
アグニが驚愕の声を上げる。
空を飛びながらの回避と最大火力の連発で、アグニの魔力はすでに限界に近づいており、回避行動すらままならなくなってきていた。
「いや、違う……」
巨大スケルトンと交戦しながら、遠くからその光景を冷静に観察していたヨシュアが思考を働かせる。
「あそこまで跡形もなく完全に消し去って、それでも死なない奴など絶対にいない、何かタネがあるハズだ……!」
しばらく考え込むと、ハッと思いついたように叫んだ。
「わかった!アグニ!その魔術師は『本体』じゃないんだ!」
「なんだト!?どういう事ダ!?」
「奴はただの『ダミー』だ!本物の本体は、この墓地のどこかに隠れてるハズだ!そいつを叩け!」
ヨシュアの痛烈な推理にアグニの目が開かれた。
「だが、どうやって隠れてる本体を探せばいいんだヨ!?こんな広い墓場、しらみつぶしに探す気か!?」
アグニが悲鳴を上げる。
見渡す限りの墓地、この中から隠れた本体を見つけるなんて、一体どれだけ時間がかかるのか。
「アグニ!本体探しは私がやる!アグニは足止めをお願い」
「何か策があるんだナ!?わかったゾ!」
シャロの指示に従い、入れ替わるようにアグニが前線に参加した。
シャロは空からスッと地面に舞い降り、膝をついて、両手を黒い土の地面に深く突き立てた。
そして目を閉じ、自分の意識と同調させるように、ありったけの『植物の魔力』を大地へと流し込んだ。
「《ネイチャー・サーチ》……!」
シャロの両手から放たれた無数の『根』が、墓地中の地面の下を縦横無尽に張り巡らされ、微細な魔力の流れや震動を探知していく。
その間にも、三体の巨大スケルトンと、ダミーのリッチ三体から、容赦ない猛攻がエミルたちに降り注ぐ。
「くそっ、シャロ!なるべく急いでくれよ!」
エミルの雷撃と、ヨシュアの氷の魔法、アグニの拳が乱れ飛び、必死の防衛戦が展開される。
そして、数分後。
微動だにしなかったシャロが、カッと目を見開いた。
「……見つけた!!」
言葉と同時に、シャロがさらに強力な魔力を地面にドクンッと流し込む。
「そこだぁッ!!」
ズバアアアアアアンッ!!
シャロから数十メートル離れた場所にある、古びた立派な墓石。
そのお墓の地面の下から、極太の『茨の槍』が猛スピードで突き破って現れた。
そして、その茨の先端には――まるで『ネズミ』ぐらいのサイズしかない、見すぼらしくて小さな小さなスケルトンが、茨にグルグル巻きにされて捕まっていた。
「食らえっ!!《ネイチャー・ブレス》!」
シャロは大きく息を吸い込むと、ウッドドラゴンの力を解放し、捕らえた小さなスケルトンに向けて『炎のブレス』を鮮烈に放った。
「ギィヤァアアアアアアアアーーーッ!!」
耳障りな断末魔の悲鳴を上げ、ネズミのような本体のスケルトンは、炎のブレスによって一瞬で黒焦げになり、跡形もなく消滅した。
すると同調するように、エミル達を苦しめていた一体の巨大スケルトンと、一体のダミーのリッチが、まるで糸の切れた操り人形のようにバラバラと崩れ落ち、ただの塵となって消え去った。
「よしっ、一体倒した!後もう二体!」
シャロはそのまま地面に手を付け続け、再び意識を地中深くへと潜らせて索敵を再開する。
「よくやったシャロ!一体減ったおかげで、防衛は相当楽になったぞ!」
敵の数が半分になったことで、エミル、アグニ、ヨシュアの三人は一気に攻勢に転じ、残る一体の猛攻を余裕を持って捌き始めた。
数分後、再びシャロが声を上げた。
「……そこッ!」
今度は反対側にある朽ちた十字架の下から茨が突き出し、同様にネズミサイズの小さなスケルトン本体を捕らえ、空中に吊るし上げた。
「《ネイチャー・ブレス》!」
シャロの放つ炎のブレスが、再び虚空を焼き尽くす。
小さな本体が悲鳴と共に燃え尽きると同時に、一体の巨大スケルトンとダミーのリッチが消滅した。
「よし!残り一体!」
シャロが再び墓地を探知する。
「見つけたッ!!」
三回目はそんなに時間はかからなかった。
数十秒後にシャロが声を上げると同時に墓石の下から茨が突き出し、同じく小さなスケルトンを捕らえた。
「これで最後だッ!!」
シャロの放つ炎のブレスが、最後のスケルトンを焼き尽くすと、残っていた巨大スケルトンも、ダミーのリッチも、そして周囲の不気味な青白い霧も、全てが砂のように崩れ去り、幻影のように完全に消滅したのだった。
それと同時に不気味な墓地に漂っていた霧も、無数のスケルトンの軍勢も、全てが幻のように掻き消えた。
なんとかリッチの卑劣な罠を打ち破った四人は、大きく息を吐き出してその場にしゃがみこんだ。
「はぁ……はぁ……まさか、あんな搦め手を使ってくる魔物がいるなんてな……」
エミルが剣を鞘に収めながら、忌々しそうに汗を拭う。
「ヨシュア、よく気が付いたな!お前がいなかったら、アタシたち、魔力が尽きるまであの偽物を延々とぶっ叩いていたゾ!」
アグニがヨシュアの背中をバシバシと力強く叩いて労った。
「……あそこまで完全に高火力の魔法で消し飛ばしたのに、全くの無傷で再生するなんて流石におかしいからな。きっと『本体』は別の安全な場所に隠れて、遠隔からダミーを操作してるんだろうと思ったんだ」
背中をさすりながら、ヨシュアが冷静な分析を口にした。
「本当にここは油断できない階層だね……」
シャロが少し不安げに、真っ黒な空を見上げる。
「改めて気を引き締めないといけないな。次はどんな手で来るか予想もつかん」
エミルの言葉に、全員が無言で強く頷いた。
最深部が近いというプレッシャーが、重く肩にのしかかる。
「……まぁ、それはそれとして!頭と体を使ったから、やっぱりお腹が空いちゃった!食事にしよう!」
重い空気を吹き飛ばすように、シャロがポンと両手を叩いて明るく宣言した。
「おっ、そりゃ賛成だ! 疲れた時には美味い飯に限るからナ!」
アグニもすぐに立ち直り、満面の笑みで腹の虫を鳴らした。
シャロは、先ほどネズミ大のリッチの本体があった場所の土に両手を触れ、魔力を流し込むと、土壌から次々と食材が芽吹き、成長していく。
今回生え揃ったのは黄金色の小麦、香ばしいアーモンド、綺麗なキャベツ、玉ねぎ、それにつやつやした卵、そして最後は、立派な肉付きの豚だった。
まずはいつものように小麦を粉に挽き、キャベツは千切りに、玉ねぎは細かくみじん切りにしていく。
次に小麦粉に、塩と油、卵とミルクを加えて捏ねる。
生地が耳たぶくらいの滑らかな硬さになったところで、生地に魔力を流し込むと、生地はみるみるうちに大きく膨れ上がった。
生地を叩いてガスを抜き、もう一度魔力で膨らませる。
見事な大きさに発酵した生地の形を整え、鍋でじっくりと焼き始めた。
香ばしいパンの焼ける匂いが、剣の墓場である荒涼とした荒野にふわりと広がっていく。
「うおお……パンが焼ける匂いだけでお腹が鳴ってきたゾ……」
アグニがたまらず自分のお腹を押さえる。
「まだまだ!メインはこれからだよ!」
今度は鍋にたっぷりの油を注ぎ、火にかけて温め始める。
その横で豚を解体し、分厚いトンカツ用のサイズに豪快に切り分けていく。
筋を切り、塩と胡椒をしっかりとまぶして下味をつける。
小麦粉をまぶし、溶いた卵をくぐらせ、最後に細かく砕いたアーモンドをたっぷりまぶす。
そうしたら衣が付いた肉を高温の油の中に静かに沈めた。
ジュワアアアアアッ!!!!
食欲をそそる派手な揚げ音が周囲に響き渡る。
「ひゃーっ!なんていい匂いだ!これはヤバいゾ!」
油の中でこんがりとキツネ色に揚がっていく豚肉を見て、アグニが興奮気味に地団駄を踏んだ。
肉を揚げてる間にゆで卵の殻を素早く剥き、ボウルに入れてフォークで粗く潰していく。
そこにみじん切りの玉ねぎ、そして以前の料理でも使った「白ソース」をたっぷりと加え、塩胡椒で味を整える。
卵ソースを作っている間に豚肉がきつね色に揚がったので、一度油から肉を引き上げ、二度揚げする。
肉に火が完璧に通ったことを確認すると、シャロは油から肉を引き上げ、ザクッ!ザクッ!と小気味良い音を立てて分厚い油切り包丁でカットした。
断面からは、淡いピンク色の完璧な火の通りの肉と、キラキラと輝く肉汁が溢れ出している。
フワフワに焼き上がったパンを二つに切ると、断面にこれまた以前使った「黒ソース」をたっぷりと塗り、もう片方のパンには先ほど作った「卵ソース」をこれでもかと乗せる。
その上に、シャキシャキの千切りキャベツをこんもりと盛り付け、大本命である極厚カツをドスンと乗せた。
最後にもう一枚のパンでギューッと挟み込み、食べやすいように半分にカットすれば。
「お待たせしました!特製『厚切りカツサンド』の完成!!」
シャロが完成したカツサンドを木の皿に盛り付けて差し出すと、あまりのボリュームと破壊力抜群の匂いに、三人は目を奪われた。
分厚いパンの間からこぼれ落ちそうな千切りキャベツ、濃厚な黒ソースとまろやかな卵ソースが絡み合う美しい断層。
そして何より、真ん中に鎮座する分厚くジューシーな豚カツの存在感は圧巻だった。
「うおおおおっ!!す、凄いボリュームだゾ!!いっただっきまーすっ!!」
我慢の限界だったアグニが、巨大なカツサンドを両手でガシッと掴み、大きく口を開けて豪快にかぶりついた。
サクッ!ジュワアアアッ……!
「んんっっーーーーー!!?!?!」
カツサンドを頬張った瞬間、アグニの目がこれ以上ないほどに見開かれた。
「おいひいいいいッ!!!」
アグニは歓喜の叫び声を上げながら、咀嚼を続ける。
「パンが柔らかいし、肉はカリカリだし、このソースが美味しいゾ!最高だァ!」
アグニのあまりの美味そうな食べっぷりに、ヨシュアとエミルもたまらず自分たちのカツサンドを手に取った。
「よし、俺たちも頂こう……ん!?」
ヨシュアがカツサンドを一口かじり、直後に頬を押さえて驚嘆の声を漏らした。
「これは……凄いな……っ!」
普段は冷静なヨシュアでさえ、口元にソースをつけるのも構わずに無我夢中でカツサンドを頬張っている。
そして、エミルもまた。
「……ッ!!美味しい……!!」
エミルは目を閉じ、その至福の味をじっくりと堪能していた。
「ふふふっ、喜んでもらえてよかった!」
シャロも自分の分のカツサンドを両手で持ち、サクッと一口かじって幸せそうに頬を緩ませた。
無数の剣が墓標のように付き刺さる、第九層の不気味で荒涼とした荒野で……四人の楽しげな笑い声と、カツサンドを頬張る幸せな咀嚼音が、しばらくの間響き渡っていた。
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