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穀物転生  作者: リース
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第59食 チャーハン

神獣フェンリルとの絶望的な死闘を乗り越え、シャロたちは再び足取りも軽く氷の大洞窟を奥へと進んでいた。

鏡のような氷壁に囲まれた道を警戒しながら歩いていると、やがて開けた空間に出た。


ズシン……ズシン……


重い足音と共に巨大な青い龍アイスドラゴンが再び姿を現した。


「出たな、アイスドラゴン!全員、戦闘態勢!」


エミルの一声で、シャロ、アグニ、ヨシュアが即座に散開する。

アイスドラゴンは侵入者に向かって絶対零度の吹雪のブレスを吐き出してきた。


だが、シャロ達はまるで止まって見えるかのようにドラゴンのブレスの軌道を正確に見切り、楽々と回避していた。


「あったぞ!逆鱗だ!」


戦闘開始からわずか数十秒。

エミルの鋭い眼光が、ドラゴンの身体を覆う青い鱗の中に、たった一枚だけ逆さに生える『逆鱗』を見つけ出した。

以前は乱戦の中で死にかけながら見つけた弱点だが、今となっては軽々と見つけられる。


「もらった!」


エミルは風のようにドラゴンの懐に飛び込むと、渾身の力を込めた剣でその逆鱗を正確に貫いた。


「ギャアアアッ……」


悲鳴を上げたアイスドラゴンは、そのまま崩れ落ちて息絶えた。


「やったな!まさか、ドラゴン相手にこんなにあっさりと勝てるようになるとは思わなかったぞ」


エミルが剣の血を振り払いながら、驚きと喜びに満ちた声を上げる。


「ああ。本当に強くなったな、俺達。身体のキレがまるで違う」


ヨシュアも満足げに頷いた。


「へへっ、アタシたちの前じゃ、ドラゴンもただのトカゲだナ!もうこの第8層も楽勝だゾ!」


アグニが鼻息荒く凄んでみせた。


「さて、丁度いいし、食材を補給しよっか」


シャロは倒れたアイスドラゴンに手をかざし、いつものように食材を生やし、ミルクや砂糖といった食材やポーションを補充し終えると、四人はさらにダンジョンの奥へと足を進めた。


***


氷の回廊をしばらく進むと、やがて道が途切れ、ぽっかりと不気味な口を開けた巨大な下に続く穴が現れた。


「……ここか。これがそうなのカ?」


アグニが穴の底を覗き込み、ゴクリと喉を鳴らす。


「ああ。間違いない、これが第9層へと続く道だ」


ヨシュアが杖の先で深淵を指し示した。


「とうとう、第9層……これまで、この世界のどんな冒険者も到達したことがないっていう、未知の階層か……」


シャロが緊張した面持ちで呟く。


「……行こう」


エミルが力強い決心を込めて声をかけ、四人はその大きく暗い穴の中へと、一歩を踏み出した。


***


なだらかな下り坂の通路をしばらく歩き続けていると、やがて周囲を覆っていた氷が消え、通路の外――『第9層』の広大な空間へと出た。

そこに広がっていたのは、これまでの階層とは異質な『闇の世界』だった。


土の大地が広がっているが、周囲の景色が不自然なまでに黒い。

見上げる空も、地平の向こうも、ずっと黒い。

まるで景色を丸々切り取られたかのようだ。

だが、完全な真っ暗闇と言う訳ではなく、シャロ達の姿はハッキリ見えると言う不思議な空間だ。


「なに……ここ……」


シャロが思わず呟く。

あまりにも生気を感じられない、不気味な空間だ。


「これだけ深いダンジョンの最深部となると、こんな滅茶苦茶な環境もあるのか……」


ヨシュアが警戒を強める。


「なんだか、すごく嫌な予感がビンビンするゾ……寒くはないけど、背筋がゾワゾワする」


アグニが両腕をさすりながら、本能的な危機感を感じ取っていた。


「だが、それでも、ここを先に行くしかない。ヨシュア、調べてくれ」


エミルの声に頷き、ヨシュアは目を閉じて杖を掲げた。


「《サーチ》」


いつものように、ヨシュアがこのフロアの出口を探す魔法を発動する。

数分後、ヨシュアがゆっくりと目を開け、ある方向を指し示した。


「……あっちだ。あの方向に、次への階層への道がある。多分だが、この第9層の「次」が、このダンジョンの最深部だ」


「それじゃあ、あと少しだね!」


シャロが顔を輝かせる。


「ああ、行こう!」


エミルを先頭にして、四人は不気味な闇の世界を慎重に歩き始めた。


***


しばらく進んでいると、大地のあちこちに、ドロドロとした『大きな沼地』がいくつも点在しているのが見えた。


「その沼地には十分注意しろよ。なんだかすごく嫌な予感がする」


エミルの警告を受けて、四人は沼のふちを避けるようにして間を歩いていく。


だが、その沼地の間を縫うように歩いていた時だった。

真横の沼地から、強い魔物の気配が立ち上った。


「沼から何か出てくるゾ!」


アグニの視線の先で、ぬかるみの中から這い出してきたのは、ドロドロとした体を持つ『青色のスライム』の群れだった。


「なんだ、ただのスライムか!スライムなんて楽勝だゾ!」


アグニが安堵の笑みを浮かべ、一番手前のスライムに向かって、何の躊躇いもなく拳を振りかざして突進した。


「馬鹿、よせ!この層の魔物だぞ、ただのスライムなわけがない!油断するな!」


エミルの制止の声は、一歩遅かった。


「おらあッ!!」


ボンッ!

アグニの剛腕がスライムにクリーンヒットし、青い粘液が四方八方に飛び散る。

だが、その直後だった。


「あ、ぎゃあああああッ!!?」


アグニが、スライムを殴った己の右手を抑えて、地面を転げ回って痛がり始めた。

見れば、彼女の拳の表面が、ジュージューと嫌な音を立ててドロドロに赤く爛ただれているではないか。

おまけに、アグニの拳で四散したはずのスライムの破片は、うねうねと地面を這って再び一つの塊に集まり、何事もなかったかのように『再生』してしまった。


エミルが剣を抜いて斬りかかると、スライムの体を綺麗に両断するが――分かれた二つの体はそれぞれが独立して動き出し、今度は『二匹』に分裂してしまった。


「なんなんだこいつラ!?これ、どう考えても普通のスライムじゃないのかヨ!」


アグニが火傷した拳を庇いつつ悔しそうに叫ぶ。


「……恐らく、ただのスライムじゃない。スライムの原種『オリジンスライム』だ!」


ヨシュアが額に冷汗を浮かべながら、忌々しそうに説明した。


「スライムの、始祖……?」


シャロが首を傾げる。


「聞いたことがある、大抵の冒険者が最初に戦う最弱モンスターのスライムだが……その原種は、ドラゴンよりも強くて厄介だと……っ!」


エミルが剣を構え直し、後ずさりしながら言った。


「その通りだ。奴らが持つ青い体液は『何でも溶かす』極大の酸だ。さらに、今のお前達の攻撃を見てもわかる通り、打撃斬撃といった物理攻撃は一切効かず、並の魔法も通じん、厄介な魔物だ……!」


「じゃあ、どうやって倒せばいいんだヨ!?」


アグニが苛立って声を荒げる。


「特大の魔法で奴らを再生できないぐらいに一瞬で一気に『消し飛ばす』しかない!全員、全力で行くぞ!」


「了解!」


シャロ達の四人が、それぞれ最大火力の魔法の構築に入る。

だが、オリジンスライムの群れも黙ってはいない。

彼らは四方から強烈な『酸の液』を水鉄砲のように吐き出して攻撃してきた。


「くっ……!」


地面の土に酸が触れると、シューと音を立てて地面が大きく抉れた。

四人は必死に酸の雨を避けながら、魔法を放ち続ける。


「《ローズ・グングニル》!」


「《エクスプロージョン》!」


「《サンダー・ジャッジメント》!」


「《オーラ・バースト》!」


ズドオオオオンッ!!


広範囲の火炎と雷の魔法がスライムの群れに直撃し、数匹のオリジンスライムが一瞬で蒸発して消え去った。

打撃や斬撃は効かず、並みの魔法も効かないが、超高威力の魔法で跡形もなく焼き尽くせば、さすがに再生はできない。


「よしっ、この調子で一気に数を減らすよ!」


シャロたち四人の連携により、徐々に、しかし確実にスライムの数は減っていった。


だが、オリジンスライムたちはここで驚きの行動に出た。

残っていた十数匹のスライムたちが一箇所に集まり、互いの身体を融合させるようにくっつき合ったのだ。

青い粘液が巨大な山のようになり、やがて一匹の巨大なスライムへと変貌を遂げた。


「なっ……!合体した!?」


シャロが目を丸くする。


「怯むな!攻撃を続けろ!」


ヨシュアとエミルが、再び最大級の魔法を巨大スライムに向けて放つ。

しかし。


ボシュウウウウッ!!!


巨大スライムは自らの体から、激しい勢いで酸を激しく噴き出した。

ヨシュアたちの放った火炎や雷の魔法は、その強烈な酸に相殺され、かき消されてしまった。


「馬鹿な……俺達の特大魔法を相殺しやがった……!!」


ヨシュアが驚きで杖を落としそうになる。


巨大化したことで酸の威力も射程も格段に上がり、巨大スライムは今度は自身の身体のあちこちから四方八方から強烈な酸の鉄砲をシャロたちめがけて放ち始めた。

何とか回避しつつ魔法で反撃するものの、それらは全て酸の鉄砲で相殺されてしまう。


「……だったら!」


シャロが巨大スライムの挙動を見極め、両手を大地の地面に勢いよく突き立てた。


「《ローズ・アンガー》!!」


シャロの魔力を受けた土壌が隆起し、巨大スライムの『真下』の死角から、太さ数メートルにも及ぶ巨大な茨の槍が真っ直ぐに上に向かって突き出た。

強烈な突き上げを股下からモロに食らった巨大スライムは、身体を大きく貫かれ、その重すぎる衝撃に一瞬だけ酸の射出を止め、動きが完全に鈍った。


「今だッ!!」


シャロが作り出した、そのコンマ数秒の隙。


「《超オーラ・バースト》!!」


「《ライジング・エクスカリバー》!!」


「《インフェルノ・フェニックス》!!」


アグニ、エミル、ヨシュアの三人が、ありったけの魔力を込めた一撃を、動けない巨大スライムの体に同時に撃ち込んだ。

雷と火炎と光の爆発がスライムの巨体を包み込み、巨大スライムを吹き飛ばす。

だが、それでもまだ再生しようと体が蠢いている。


「これで最後だっ!!」


トドメとして動いたのは、シャロだった。

彼女は大きく息を吸い込むと、自らの胸の奥、ウッドドラゴンへと進化した際に得た龍の力を解放する。

シャロの口から、植物の魔力と生命の熱が混ざり合った、鮮烈な緑色に輝く『特大の炎のブレス』が放たれた。


ゴオオオオオオオオッ!!!!


シャロの放ったドラゴンのブレスが、巨大スライムの体を直撃する。

神の息吹のごときその炎は、巨大スライムの酸の力をも凌駕する圧倒的な熱量で、青い粘液を瞬時に焼き尽くしていった。


『……ボ、コ……ォ…………』


巨大なスライムは、その巨体を支えきれなくなり、ロウソクが溶けるように力なくドロドロと地面に溶け落ち、やがて完全に蒸発して消滅した。


「はぁ……はぁ……なんとか、倒せたね……」


なんとかオリジンスライムを倒したシャロ達は、荒い息を吐きながらその場にへたり込んだ。


「はぁ……流石は第9層ともなれば、出てくる魔物も桁違いだな」


エミルが額の汗を拭いながら、油断なく周囲を警戒する。


「ああ、初手がオリジンスライムとはな……ここからはより一層注意して進まないとな」


ヨシュアも疲労の色を滲ませながら頷いた。


「それより凄いな、シャロ!さっき、口から炎を吐いたぞ!」


アグニが興奮冷めやらぬ様子で、シャロに駆け寄ってきた。


「うん。ウッドドラゴンに進化した事で、あの炎のブレスを吐けるようになったみたいなんだ」


「それは凄いな。ドラゴンの炎なんて、これ以上なく頼りになりそうだ」


エミルも感心したようにシャロを見つめた。


ふと、グゥゥゥゥ……とアグニのお腹が盛大に鳴った。


「戦ったら腹が減ったゾ……」


「ふふ、じゃあお腹が空いたし食事にしようか!」


シャロは元気よく立ち上がると、巨大なオリジンスライムが溶けて消え去った後の地面にさっと両手を触れた。


魔力を込めると、いつものようにそこから植物の芽が一気に吹き出し、食材が生え始めた。

豊かに実った稲穂から取れた黄金色の『米』、青々とした『ネギ』、新鮮な『卵』、そして立派な『豚』だ。


シャロは早速調理に取り掛かる。

まずはいつものように米を手早く研ぐ。

そして豚を解体し、分厚い豚肉のブロックと、立派な『豚骨』を取り出した。

今回はこの米の上に豚骨を乗せ、水を少し少なめにして米を炊く。

豚骨の旨味と脂をご飯に直接吸わせながら炊くという、贅沢な手法だ。


ご飯が炊き上がるのを待つ間、具材の準備を進める。

別の鍋に油を引き、切り分けた豚肉のブロックを入れて表面を香ばしく焼いていく。

ジュワアッ!と良い音が響き、食欲をそそる香りが漂う。

全体にピシリと美味しそうな焼け目が付いたところで、そこへ水、醤油、酒、砂糖をたっぷりと加え、蓋をしてじっくりと煮込んでいく。


しばらくして、甘辛いタレの匂いが辺りに充満し、豚肉がトロトロに柔らかくなったところで、一旦豚肉を鍋から取り出し細かく角切りにし、ネギは細かくみじん切りにしておく。

豚骨の旨味を吸って炊き上がったご飯は、ツヤツヤと輝きながらもパラリとした絶妙な硬さに仕上がっていた。


シャロは大きな鉄鍋を火にかけ、たっぷりの油を引いて極限まで熱する。

そこへ溶き卵を流し込み、ジュワッと卵が膨らんだ瞬間に、すかさず炊き上がった豚骨風味のご飯を投入した。

凄まじい手際で鍋をあおり、木べらを使ってご飯を一粒一粒ほぐすように素早く炒めていく。

卵が米粒をコーティングし、黄金色のパラパラな炒めご飯へと変わっていく。

米が完全にほぐれ、パラパラと宙を舞い始めた瞬間、刻んだネギと角切り豚肉を加えると、さらに香ばしい匂いが爆発的に広がる。

豚肉の甘辛いタレの旨味が全体に回り、ネギの香りが引き立つ。

具材をご飯と馴染ませるように、さらにほぐしながら炒め続ける。

最後に醤油をジュワッと回し入れて、塩胡椒で味を調えれば完成だ。


「お待たせ!特製『黄金チャーハン』の完成だよ!」


「うおおおおっ!いい匂いダ!!いただきまあああス!」


アグニが待ちきれない様子でスプーンを手に取り、山盛りのチャーハンを大口を開けてかき込んだ。


「……ッ!!うっまあああッ!!!」


アグニは頬を限界まで膨らませながら、歓喜の雄叫びを上げた。


「米が噛めば噛むほど美味くて……!それにこのゴロゴロ入ってる甘じょっぱい豚肉の塊が、たまらなく美味い!!」


「どれ……ふむ」


エミルとヨシュアも、スプーンを使って熱々のチャーハンを口に運んだ。


「……ああ、これは美味しいな。ほろほろでパラパラなのに、噛めば噛むほど味が出る、いくらでも食べられそうだ」


エミルがあっという間に一皿目を平らげ、すぐさまおかわりを要求する。

ヨシュアもふぅと感嘆の息を漏らしながら、次々とスプーンを動かした。


闇に包まれた第9層の不気味な空間でも、シャロの作り出す極上の料理と、仲間たちの笑顔だけは、変わらず温かく輝いていた。

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