第57食 麻婆茄子
耳をつんざく風切り音と共に、深い深いクレバスを一直線に落下していくシャロたち。
底が見えないほどの巨大な氷の裂け目だったが、アグニを先頭にしてしばらく自由落下を続けていると、やがて眼下に真っ白に凍りついた広大な地面――谷底の景色がうっすらと見え始めた。
「よしっ!底が見えたゾ!」
先頭を落ちていたアグニが叫ぶ。
「みんな、減速準備!」
エミルが声を張り上げると、それぞれが落下速度を落とすための行動に出た。
エミルとヨシュアは飛行系の魔法を展開してふわりと空中にブレーキをかけ、シャロは植物の翼を羽ばたかせる。
そしてアグニは、足の裏に魔力を集め、虚空を思い切り「踏み抜く」ことで、エアクッションのように落下の衝撃を完全に殺した。
タンッ……
四人は全くの無傷で、雪と氷に覆われたクレバスの深い谷底へと、静かに、そして確かな足取りで着地を果たした。
「到着っ!意外と早く着いたナ!」
アグニが着地の反動で軽く背伸びをしながら、満足げに笑った。
「うん。壁伝いに慎重に降りていたら、きっと丸一日はかかっていたね」
シャロも周囲の氷壁を見上げながら、長い落下を終えた安堵の息を吐いた。
「で、ここからどうする?次の階層への道はどこにあるんだ?」
エミルが周囲をぐるりと見渡す。
クレバスの底は上部から差し込むわずかな光を氷が乱反射しており、光が届かない分ひどく冷え込んでおり、肌を刺すような冷気が常に足元から這い上がってくる。
「……おそらく、あそこだろうな」
ヨシュアが杖の先で、一つの方向を指し示した。
シャロたちが目を凝らすと、そこには中腹でキマイラの大群が飛び出してきたような『浅い横穴』とは全く違う、ぽっかりと口を開けた、あまりにも巨大で、そして不気味なほど奥深くにまで続いていそうな『大洞窟の入り口』が存在していた。
「おっ、あそこカ!早速行こうゼ!!」
アグニが何の躊躇いもなく、ウキウキとした足取りで先行して洞窟の入り口へと駆け出そうとする。
「馬鹿、警戒もせずに先に行くな!」
ヨシュアが慌てて声を張り上げるが、生粋の冒険馬鹿であるアグニの耳には入っていないようだった。
「仕方ないね、追いかけよう!」
シャロとエミルも苦笑しながら、ヨシュアと共にアグニの後を追って大洞窟の中へと足を踏み入れた。
――そして、洞窟の中に一歩足を踏み入れた瞬間、四人はその光景に言葉を失った。
「うわぁ……!!」
「これは……凄いな……」
そこは、世界中の宝石を集めても敵わないような、圧倒的に美しく、キラキラと輝く『氷の大洞窟』だったのだ。
壁も、足元も、全てが寸分の曇りもない純度の高い鏡のような氷でできており、シャロたちの姿を万華鏡のように無数に反射している。
さらに天井からは、クリスタルのシャンデリアのような無数の巨大なつららがぶら下がっており、洞窟内の光を増幅させ、外とは比べ物にならないぐらいに明るく、幻想的な青と白の光で満たしていた。
「すっげぇー!!ピカピカでキラキラだゾ!!」
アグニが目を真ん丸にして大興奮し、自分の姿が映る氷の壁をペタペタと触りまくっている。
「本当に、綺麗ね……自然が作ったとは思えないくらい、精巧な氷の芸術品みたい」
シャロもその美しさにすっかり見とれ、ほうっと感嘆の吐息を漏らしていた。
エミルもまた、その静謐で冷たい美しさを持つ空間に、思わず剣を下ろして見入っている。
「……見惚れるのもわかるが、注意して行け。景色がどれだけ美しかろうと、ここは第8階層の後半戦だ。環境の過酷さも、敵の強さも、今までより更に上がっているはずだからな」
ヨシュアが一人だけ冷静に、杖を構え直して周囲への警戒を促した。
「で、ここから先はどっちに行けばいいんだ?この洞窟も広そうだぞ」
エミルは、キラキラと光を反射して奥へと無数に枝分かれしている洞窟の通路を見渡し、真剣な顔で尋ねた。
「待ってろ、今探知する。《サーチ》」
ヨシュアは目を閉じ、杖を氷の床に突き立てたまま精神を集中させた。
シャロ、エミル、アグニの三人は、息を潜めてそのヨシュアの横顔を静かに見守っていた。
数分が経過し――やがて、ヨシュアがゆっくりと目を開けた。
「……あっちだ」
ヨシュアが杖の先で、右奥へと続く一つの通路を指し示した。
「よし、じゃあ行くぞ」
「待って、その前にスノーシューは脱いだ方がいいね、この滑る氷の床を歩くには不向きだから」
シャロのアドバイス通り、一行はスノーシューを脱ぎリュックに仕舞うと、ヨシュアが指し示した冷たい氷の通路へと慎重に歩き出すのだった。
***
シャンデリアのような氷柱を眺め、自分たちの姿を映す壁面の反射を楽しみながら、綺麗な洞窟の中をズイズイと進んでいく四人。
特にアグニは、すっかり警戒心を解いてしまったのか、鏡の壁に向かって変顔をしたり、ジャンプして自分の姿を確認したりと大はしゃぎだ。
「へへっ!未知の綺麗な絶景を探検する!これでこそ冒険だよナ!」
「ふふ、そうだね。アグニは本当に楽しそう」
シャロとエミルは、子供のように無邪気なアグニの姿を微笑ましく見守っていた。
「……やれやれ、これだから筋肉馬鹿は。少しは緊張感というものを持てないのか」
ヨシュアだけが、その後ろ姿を呆れたように見て、深くため息をついていた。
そんな少しだけ和らいだ空気を、鋭利な刃物のような『殺気』が唐突に切り裂いた。
「――ッ!全員、止まれ!!」
エミルが一番に行動を止め、凄まじい剣幕で叫んだ。
シャロも瞬時に植物の武器を構え、アグニも変顔をやめてファイティングポーズを取る。
「魔物の気配だ!……強い気配が……四つ!」
ズシン……ズシン……。
氷の床を軋ませる、重々しい足音。
洞窟の奥からゆっくりと姿を現したのは、四体の青く巨大なドラゴンだった。
全長は優に二十メートルを超え、口の隙間からは絶対零度の白い冷気が漏れ出している。
「アイスドラゴン……!」
ヨシュアが忌々しそうにその名前を口にした。
「ドラゴンか……!こいつらが、ここの階層の『ぬし』ってやつカ!?」
アグニが拳を打ち鳴らし、強敵の出現に好戦的な笑みを浮かべる。
「いや、ぬしというのは、その階層を統べる特別に強い一個体のボス的な存在の事だ。四体も群れているこいつらは、間違いなく違う」
エミルが脂汗を流しながら、剣の柄を強く握り直した。
「つまり……こいつらが、この大洞窟フロアの『普通の魔物』って事だ……本当に、嫌になるぜ」
ヨシュアも苦虫を噛み潰したような顔で、四体のアイスドラゴンを睨みつけた。
『ぬし』でもない、通常の通過点に現れる敵がドラゴン四体。
それが、第8階層後半の恐ろしさの真髄だった。
「グオオオオオオオッ!!!!」
アイスドラゴンたちが、自らの縄張りに侵入してきた四人の小さな獲物に向けて、鼓膜が破れそうなほどの耳障りな咆哮を上げた。
周囲の氷の壁面がビリビリと震え、天井から無数の氷柱が落下してくる。
「っ……!どうする!?エミル!」
「相手は四体、こちらも四人!各個撃破するしかない!1人1体、確実に仕留めるんだ!」
エミルが即座に戦術を組み立てて叫ぶ。
「いくらドラゴンの鱗が硬くても、奴らには必ず弱点である『逆鱗』が身体のどこかにあるハズだ!とにかく攻撃を避けながら隙を伺い、そこをピンポイントで狙え!!」
「了解っ!」
「っしゃあ、ぶっ飛ばしてやるゾ!!」
エミルの号令と共に、シャロ達は素早く四方に分散し、それぞれが一体のアイスドラゴンと対峙する形で戦闘を開始した。
しかし、アイスドラゴンは、その巨大な質量からは想像もつかないほど『素早かった』。
その上で岩盤のような巨大な足で無慈悲な踏みつけを放って来たり、広範囲の氷のブレスを吐きかけて来たり、巨大な翼を広げて軽々と洞窟を飛び回ったりして来る。
群れと言えどドラゴン、その強さは圧倒的だ。
以前の彼らであれば、この群れの圧倒的な波状攻撃の前に、成す術なく全滅していただろう。
――しかし、今のシャロ達は違った。
そう、数々の死線を乗り越え、強力な魔物を食べて力をつけてきた今の彼女たちならば、ドラゴンのその途方もない速度にも十分についていくことができ、さらには空を飛ぶ彼らと同じ土俵で戦う手段も持ち合わせていた。
大暴れするアイスドラゴンの猛攻――岩を砕く爪弾き、吹雪のようなブレス、巨体のプレスを必死に予測し、回避しながら、四人はそれぞれが対峙するドラゴンの首元を凝視し、必死に『逆鱗』を探し続けた。
だが、相手は誇り高きドラゴンである。
ましてや、小さな急所である逆鱗を探すために、シャロたちは可能な限りドラゴンの巨体に『接近』し続けなければならない。超至近距離での回避行動。それは文字通り、死と隣り合わせの綱渡りだった。
「くっ!」
シャロの左肩をドラゴンの鋭い爪が掠り、体液が舞う。
「ぐぅっ……!」
エミルもブレスの冷気を完全に避けきれず、左腕が薄っすらと凍傷を負う。
アグニやヨシュアも同様に、接近しすぎる代償として、巨体による体当たりや鋭利な氷柱の散弾を浴び、少しずつ、しかし確実にダメージが蓄積していった。
四人の息が荒くなり、疲労の色が濃くなり始める。
――一瞬の、本当にわずかな隙。
シャロが限界までドラゴンの首元に接近し、ブレスを吐き出そうとドラゴンが首を大きく反らせた、その刹那だった。
青く透き通る無数の鱗の中で、首の付け根の少し下あたり。たった一枚だけ、淀んだ黒光りをする鱗――しかも、通常の鱗とは『逆の方向』に向かって生えている奇妙な鱗が存在するのを、シャロの瞳がくっきりと捉えた。
「――っ!見つけた!!」
シャロが確信に満ちた声を上げる。
「こっちもだ!」
「ビンゴだぜッ!」
「捉えたっ!」
奇跡的な偶然か、それとも四人のこれまでの戦いで研ぎ澄まされた直感がシンクロしたのか、エミル、アグニ、ヨシュアの三人も、シャロとほぼ同じタイミングで、それぞれが相手にしているドラゴンの逆鱗の位置を完全に特定していた。
「今だッ!!全速全霊を叩き込めェ!!」
エミルが、己の限界を超えるほどの雷の魔闘気を全身に迸らせながら絶叫した。
大暴れする四体のアイスドラゴン。
その攻撃後の、彼らが最も無防備になるコンマ数秒の『隙』。
シャロ達四人は、その一瞬の隙を見逃すことなく、全ての魔力と全ての腕力を一点に集中させ、それぞれのアイスドラゴンの『逆鱗』へと向けて、渾身の一撃を同時に解き放った。
「《ローズ・カリバー》!!」
シャロの両手から放たれた極太の植物の剣が、螺旋を描きながらドラゴンの逆鱗を正確に貫く。
「《ライジング・ストリーム》!!」
エミルの膨大な雷の波動が逆鱗を破壊し、ドラゴンの体内へと莫大な電流を流し込む。
「《超オーラ・ナックル》!!」
アグニの、全力の魔力を乗せた剛拳が、逆鱗を粉微塵に叩き割る。
「《インフェルノ・フェニックス》!!」
ヨシュアの放った鳥型の獄炎が逆鱗を貫通し、ドラゴンの防壁を内側から焼き尽くす。
「ギャアアアアアアアアア――――ッ!!!!」
この世の物とは思えない、ドラゴン達の四重奏の断末魔が氷の大洞窟に響き渡る。
絶対の急所である逆鱗を完全に破壊された四体のアイスドラゴンは、その硬い青鱗をピキピキとひび割れさせながら、地響きと共に、氷の床へと次々に崩れ落ちた。
「はぁっ……はぁっ……!終わった……!」
シャロが膝に手を突き、荒い息を整える。
「……信じられない。本当に、僕たち四人だけで、四体のアイスドラゴンを一気に全滅させただなんて……」
エミルも剣を鞘に収め、汗を拭いながら深々と息を吐き出した。
その言葉に、誰もが深い実感を込めて頷いた。
かつて6層の奥深く、『レッドドラゴン』たった一体に遭遇した時は、シャロ、アグニ、ヨシュアの三人で死力を尽くして挑んでも倒しきれず、あわや全滅という絶望的なまでの敗北を味わったのだ。
それが今では、同じドラゴン種を相手に、しかも四体同時という地獄のような状況でも生き残り、打ち破ることができた。
「へへっ……アタシたち、めちゃくちゃ強くなってるじゃないカ!」
アグニが誇らしげに胸を張り、自分の拳を見つめる。
「ああ。確かに、あのレッドドラゴン戦の頃とはもはや別次元だ。各々の力はもちろん、連携や魔法の精度も段違いに跳ね上がっている……これも、シャロの作る常識外れの『食事』のおかげかもしれないな」
ヨシュアが杖を下ろし、倒れたドラゴンたちを見回しながら静かに分析した。
「じゃあ早速、今回もその食事を作るよ!」
シャロは元気よく立ち上がり、手近なアイスドラゴンに触れた。
淡い光が怪物を包み込むと、莫大な質量の生命エネルギーが、次々と芽が生え成長し、食材が実って行く。
黄金色の『小麦』、艶やかな『米』、小粒でしっかりとした『豆』、鮮烈な赤色をした『唐辛子』、紫色の美しい張りを持つ『なす』、さらに『ねぎ』『にんにく』『しょうが』といった香味野菜、極めつけにはまるまる一頭の大きな『豚』が姿を現した。
シャロはすぐさま調理を開始した。
まずは小麦を挽き、米を炊き、野菜を手際よく切っていった。
続いて豚を部位ごとに切り分けながら、太い豚の骨を別の大きな鍋に集めた。
そこにたっぷりの水を張り、強火で一気に炊き出して、白濁した濃厚な『豚骨出汁』を取っていく。
シャロは、先ほど生やした『豆』を沸騰したお湯で柔らかくなるまで軽く茹で上げると、すり鉢に茹でた豆を移し、ゴリゴリと滑らかになるまで完全に潰していく。
そこに豆を茹でたゆで汁と、たっぷりの塩、そして大量の唐辛子を刻んだものを加え、全体が真っ赤なペースト状になるまで力強く混ぜ合わせた。
それを木の器に詰め、両手で包み込むようにして魔力を注ぎ込む。
通常ならば数ヶ月から年単位の時間をかけて発酵・熟成させる必要がある調味料だが、シャロの能力にかかれば、数分で完璧な発酵状態まで引き上げることが可能だった。
カパッ!
器の蓋を開けると、先ほどまでの単なる辛い匂いとは次元の違う、芳醇で深い旨味を含んだ、ツンとくる香辛料の完成された香りが弾け飛んだ。
豆板醤の完成だ。
次は解体した豚肉の赤身と脂身をバランス良く選び、包丁二本を使ってリズミカルに叩き切り、細かな『豚挽き肉』を作り上げた。
いよいよ、大鍋での総仕上げだ。
シャロは鍋に多めの油を熱し、まずは乱切りにした『なす』を素揚げのようにして一気に炒める。
紫色の皮が鮮やかさを増し、スポンジのような果肉がたっぷりと油を吸ってしんなりとしたところで、一度なすを皿へ取り出した。
なすの旨味と油が残った大鍋に、みじん切りにした『にんにく』『しょうが』『ねぎ』を投入する。
ジュワァァァッ!!
熱された油の中で香味野菜がパラパラと踊り、洞窟の冷気を吹き飛ばすような爆発的な香りが立ち昇る。
「うおぉぉっ!ヤバイ!匂いだけで腹の虫が暴走しそうだゾ!!」
アグニが耐えきれずによだれを滴らせた。
香りがピークに達した瞬間、シャロは細かく叩いた『豚挽き肉』を一気に投入し、強火でパラパラになるまで炒め上げる。
豚肉の色が変わり、肉汁が滲み出てきたところで、先ほど作った真っ赤な豆板醤をたっぷりと加え、全体を豪快に混ぜ合わせた。
真っ赤な辛味成分が熱油に溶け出し、鍋全体が燃えるようなルビー色に染まる。
そうしたら、ここに砂糖、醤油、そして豚骨出汁を加える。
ジャーーッ!という音と共に、旨味の塊であるスープが加わり、鍋の中が一斉にグツグツと煮立ち始めた。
数分間軽く煮込み、スープと肉の旨味が完全に一体化したのを確認すると、シャロは先ほど取り出しておいた油通し済みの『なす』をドサリと鍋に戻す。
なすが旨辛いスープをジュワッと吸い込み、クタクタに柔らかくなったところで、最終工程だ。
仕上げに、水で溶いた『小麦粉』を少しずつ回し入れると、サラサラだったスープに見事な『とろみ』がつき始めた。
具材一つ一つに、真っ赤な旨辛いスープがネットリと絡みつく。
シャロが深めの木の器に炊き立てのご飯をよそい、その上に熱気と刺激的な香りを放つ料理をごっそりと乗せれば完成だ。
「完成!特製『麻婆茄子』だよ!!」
「いただきまあああスッ!!」
アグニが一番に器を受け取り、スプーンでご飯ごと山盛りに掬って、大きな口を開けて勢いよくかき込んだ。
「……ッ!!辛ッ!!けど、うっまああああッ!!!」
アグニは口から火を吹きそうなほど顔を赤くしながらも、歓喜の雄叫びを上げた。
「なんだこれ!?この紫の野菜が口に入れた瞬間にトロットロに溶けて、中から熱々の肉汁と辛いスープがジュワァァって溢れてくル!!辛いのに……辛いのに、美味過ぎて止まらないゾ!!」
ガツガツと麻婆茄子を食べるアグニの横で、エミルとヨシュアはしげしげと麻婆茄子を眺めていた。
「見たことがない料理だが……これも『東洋』の料理なのか?」
エミルが興味深そうに、真っ赤な麻婆茄子を見つめながらシャロに尋ねた。
「そうだよ。ささ、食べてみて、味は保証するから。でも辛いから気を付けてね」
シャロが自信満々に胸を張り、自分でも一口食べて至福の表情を浮かべる。
「どれ……ふむ」
エミルとヨシュアも、スプーンを使って慎重に口に運んだ。
「……むっ!?おお……!!」
エミルが予想以上の破壊力を見せた味に、思わず見開いた目をさらに大きくした。
「……これはすごいな。西洋の味とも、しょうゆの味ともまた違う。辛くて濃厚で……ご飯が、いくらあっても足りないぞ」
エミルはそう絶賛すると、アグニに負けず劣らずの凄い勢いで、白米と麻婆茄子を胃袋に流し込み始めた。
「ああ……間違いない」
ヨシュアも額にじんわりと汗をかきながら、辛さに耐えるように、しかし止まらない手でスプーンを動かしていた。
「これほどの刺激なら、間違いなく、酒に合う極上の逸品だ」
酒飲みのヨシュアが最も高い賛辞を送りながら、あっという間に器を平らげてしまった。
「ふふっ、おかわりはいくらでもあるからね!」
シャロは大鍋いっぱいにある麻婆茄子をかき混ぜながら、弾けるような笑顔を見せた。
周囲には絶対零度の冷気が漂っているにも関わらず、シャロたちの周りだけは、燃えるような辛さと熱気、そして幸福な食事の風景が広がっていた。
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