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穀物転生  作者: リース
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38/60

第38食 ローストビーフ

火口の底へと続く長く険しいスロープをシャロたち三人は慎重に、一歩一歩踏みしめるように下りていった。


周囲の景色は、これまでとは一変していた。

岩肌は赤黒く変色し、至る所から噴き出す蒸気が視界を白く染める。

そして何より、眼下に広がる光景が、ここが生物の生存を許さない領域であることを雄弁に物語っていた。


「うへぇ……マジかよ、こりゃ」


先頭を歩くアグニが、顔を引きつらせて足を止めた。

ついに、火口の底に辿り着いたのだ。


そこは、まさに『灼熱地獄』だった。

地面の半分以上がドロドロに溶けたマグマの海と化している。

赤、橙、黄色の粘性のある液体が脈動し、ボコッ、ボコッと不気味な泡を立てて弾けている。

残された地面といえば、マグマの海に浮かぶ黒い岩の島々と、それらを繋ぐ頼りない天然の橋のみ。


「見るからに暑そう……っていうか、見てるだけで目が焼けそうだゾ」


アグニが手をかざして熱気を遮る。

ヨシュアの魔法で暑さは感じなくても、視覚的な暑さが精神を削ってくるようだ。


「ヨシュアの魔法が無かったら、今頃アタシら、蒸し焼き肉になってたな」


「笑えない冗談だな……」


「ここからは、さらに気を付けて進もう」


シャロが真剣な表情で二人を振り返る。

三人はマグマの海に浮かぶ岩の道を歩き始めた。

靴底を通して伝わってくる熱。

時折、マグマが跳ねて近くの岩に落ち、ジュッという音を立てる。

死と隣り合わせの行軍。

緊張感が極限まで高まる中、不意にシャロが足を止めた。


「……あれ?」


「どうした、シャロ」


「あそこの岩陰……何か落ちてない?」


シャロが指差した先。

少し広くなった岩場の一角に、場違いな人工物が転がっていた。

煤けて変色し、ボロボロになっているが、それは明らかに自然物ではなかった。


「……行ってみよう」


三人は慎重に岩を渡り、その場所に近づいた。

そこに落ちていたのは、四つの荷物だった。


シャロとヨシュアは、吸い寄せられるようにそれに駆け寄った。

間違いない、これは彼女達自身の荷物だ。

かつてこの場所を訪れ、そして敗走した時に放棄せざるを得なかった荷物たち。


「これ……私の予備の服だ」


シャロが焦げた緑色の布切れを手に取る。


「こっちは金か……だがこれじゃあもう使えんな」


ヨシュアがひしゃげた金貨銀貨を煤の中から拾う。


「シャロ達の荷物がここにあった、って事は……」


アグニがゴクリと喉を鳴らし、周囲を見渡した。

燃え盛るマグマ、切り立った崖、逃げ場のない地形。


「ああ……ここだ。ここで俺達は全滅したんだ」


ヨシュアの声が重く響いた。

記憶がフラッシュバックする。

圧倒的な暴力、燃え上がる炎、そして、視界が暗転する瞬間の絶望。

ここは、彼女達にとっての墓標のような場所だった。


「……荷物はもう、使い物にならないね」


シャロは悲しげに布切れを置いた。

中身は炭化しているか、溶けてしまっていて、回収できるものは何もない。

だが、四つの荷物がここに残っているという事実は、彼女達が確かにここで戦い、そして散り散りになったという証拠でもあった。


「とにかく注意して」


シャロが立ち上がり、周囲を警戒する。

彼女の声が震えているのは、恐怖からだけではないだろう。


「この場所ってことは……まだ近くに『レッドドラゴン』がいるかもしれない」


その言葉に、アグニが身構え、ヨシュアが杖を握り直す。

いつ襲ってきてもおかしくない。


その時だった。

ザッ、と乾いた足音が複数の方向から響いた。


「――ッ!魔物の気配!」


シャロが叫ぶ。

岩の陰から、ゆらりと陽炎が揺らめき、獣の影が飛び出してきた。


「レッドドラゴンか!?」


アグニが叫ぶ。

だが、現れた姿は竜ではなかった。


「グルルルルァァッ!!」


咆哮と共に姿を現したのは、炎そのもののようなたてがみを持つ、四匹の巨大な獅子の魔物だった。

体長三メートル強、筋肉質の体躯は赤茶色の毛皮に覆われ、四肢の先には鋭利な爪、そして首周りからは、本物の炎が燃え盛っている。

フレイムレオ、第六層に生息する火属性魔獣だ。


「ドラゴンじゃない……」


シャロが一瞬、安堵の息を漏らす。

最悪の事態は避けられた。

だが、ヨシュアの表情は険しいままだ。


「油断するなシャロ!あいつらだって弱くはないんだぞ!」


ヨシュアの言葉には実感がこもっていた。

そう、彼女達が全滅した理由、それはドラゴンとの戦闘の直前にこのフレイムレオの群れと遭遇し、体力と魔力を消耗させられていたからだ。

つまりこいつらは、間接的にシャロ達を全滅に追いやった要因そのものなのだ。


「グルウゥアァッ!」


フレイムレオたちが地面を蹴った。

速い。

先ほどのファイアリザードとは比べ物にならない。

風のように疾走し、左右に散開して包囲網を敷く。

その動きは統率された狩人のそれだ。


「来るぞ!」


ヨシュアが叫ぶと同時に、戦闘の火蓋が切られた。


「やらせるかぁっ!」


アグニが前に出る。

二体のフレイムレオが、左右からアグニに襲いかかる。

鋭い爪の一撃。

アグニは腕をクロスさせてガードするが、衝撃で身体が後方へ滑る。


「くっ、重てェ……!」


爪の威力もさることながら、纏っている熱気が厄介だ。

触れただけで火傷しそうな高温。


一方、シャロの方にも残る二体が殺到していた。


「速いっ……!」


シャロは蔦を伸ばして牽制するが、フレイムレオはその蔦を軽々と飛び越え、あるいは炎の鬣で焼き払いながら突っ込んでくる。

植物であるシャロにとって、接近戦での炎は致命的だ。


アグニとシャロが、それぞれ二体ずつを相手にする形になったが、フレイムレオは素早く、そして連携が巧みだ。

一方が攻撃し、その後でもう一方が攻撃する。

見事な連携で、攻撃の隙が一切ない。


「ぐぅッ!」


「がっ!」


アグニの太ももに爪による裂傷が走る。

シャロの腕を炎の牙が掠める。


「はぁ、はぁ……こいつら、やっぱり強い!」


「クソッ!攻撃の隙がねェ!」


全ての攻撃を回避しきれず、だんだんと傷が増えていく二人。

このままじわじわと削られれば、かつての二の舞だ。

絶体絶命の状況。


「二人とも、伏せろッ!!」


その時。

後方で戦況を冷静に見極めていたヨシュアが、鋭く叫んだ。

思考するより先に、体が反応した。

シャロとアグニは、咄嗟に地面に這いつくばる。


「《フリーズ・ジャベリン》!」


ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!!


頭上を、冷気を帯びた何かが高速で通過した。

ヨシュアが放った、四本の氷の槍だ。

狙い澄ました射撃は、アグニとシャロの頭上スレスレを飛び、フレイムレオたちへと殺到する。


「ギャッ!?」


フレイムレオたちは反応した。

二体は驚異的な反射神経で横に飛び、槍を回避する。

だが、攻撃モーションに入っていた残りの二体は避けきれなかった。


ドスッ!ドスッ!!


「ギャオォォッ!?」


氷の槍が横腹に深々と突き刺さる。

着弾と同時に強力な冷気が炸裂し、二体の身体を一瞬で凍りつかせた。

カチンッ、という音と共に、二体の動きが完全に停止する。


「ガアアアッ!!!」


残り二体のフレイムレオがなおも襲い掛かってくる。


しかし、状況は二対一から一対一へ。

一対一なら、負ける要素はない。


フレイムレオの僅かな隙を付き、二人は反撃に移る。


「おらぁッ!!」


アグニの渾身のラリアットが炸裂した。

フレイムレオが吹き飛び、岩壁に激突する。


「《リーフ・カリバー》!」


シャロの鋭い草の剣が炸裂する。

フレイムレオの身体に大きな傷跡を付けた。


だが、フレイムレオはタフだった。

アグニに殴られた個体も、シャロに斬られた個体も、血を流しながらもまだ闘志を失っていない。

そして何よりヨシュアの氷漬けにされた二体が、自らの体温で強引に氷を砕き、復活したのだ。

傷ついた個体も含め、再び四体のフレイムレオが並ぶ。

彼らは怒り狂っていた。

フレイムレオ達のたてがみの炎が爆発的に燃え上がり、周囲の温度がさらに上昇する。

四体が一斉に、大きく息を吸い込んだ。

喉元の赤熱が極限まで高まる。


「しまっ……!」


至近距離での火炎のブレス、シャロもアグニも避けられない。

この距離で四体の同時攻撃を食らったら、流石の二人もひとたまりもない。

四体の口から灼熱の火炎のブレスが放たれようとした、その瞬間。


ズドドドドドドドッ!!!


地面から鋭い岩柱が突き出て、フレイムレオ達を串刺しにしたのだった。


「《アース・スティンガー》!ったく……油断も隙もありゃしない」


そう、ヨシュアが相手の動きを予測し、寸前の所で土の魔法を放ち、フレイムレオ達の行動を妨害したのだ。


「ナイスだヨシュア!」


「助かったよ!」


アグニとシャロはフレイムレオ達に飛びかかる。

一方フレイムレオは鋭い岩の柱に貫かれて動けない。


「くらえええええ!」


「はあああああっ!」


アグニが両手に魔力を込め、二体のフレイムレオを殴りつける。

シャロが草の剣に魔力を込め、残り二体のフレイムレオを切りつける。

フレイムレオは骨が砕け、肉が裂け、ようやく力尽きたようだった。


「はぁ……はぁ……やったナ!」


「うん、やったね!」


「とりあえず俺達の実力は十分通用するようだな」


四体のフレイムレオが倒れた後、火口の底には再び静寂とマグマの爆ぜる音だけが残された。

シャロ達は荒い呼吸を整えながら、油断なく周囲を見渡した。


「……いないな」


「うん。今の騒ぎで出てくるかと思ったけど……ドラゴンの気配はない」


シャロが神経を研ぎ澄ませて索敵を行うが、近づいてくる巨大な魔力反応はない。

どうやら、レッドドラゴンはまだこの場所、かつて自分たちが全滅したポイントの近くにはいないらしい。


「ふぅー……助かったゾ。いきなり連戦でドラゴンとか、流石のアタシでも笑えないからナ」


アグニが大きく息を吐き、その場にどかっと腰を下ろした。

彼女の腕や足にはフレイムレオの爪による裂傷が刻まれている。

シャロも同様に髪の一部が焦げ、擦り傷を負っていた。


「まずは回復だ。ポーションを惜しむな」


三人は一斉にリュックからポーション瓶を探すと、栓を開け、それをあおった。

魔法薬が体内を巡り、裂けた皮膚や焼けた組織を急速に再生させていく。


「さて……傷も塞がったことだし、食事にしようか」


シャロが立ち上がり、パンパンと服の煤を払った。

その瞳には、すでに料理人としての火が灯っている。


「おう!待ってましタ!」


アグニが手を叩いて喜ぶ。

死闘の直後だろうが、火山の底だろうが、腹は減る。いや、生きているからこそ腹が減るのだ。

シャロは比較的広く平らで安定した岩場を選び、フレイムレオを集めて触れる。

そして、いつものようにフレイムレオの死骸から、植物の芽が生え、急速に成長する。

そこから実ったのは玉ねぎ、ニンニク、そして肉牛。

シャロは草のナイフを生成し、手際よく調理を開始した。

まずは牛ブロック肉の整形だ、余分な脂や筋を取り除き、綺麗な長方形に整える。


次にニンニクとタマネギをみじん切りにする。

そうしたら下味をつける。

ブロック肉全体にたっぷりの塩と粗挽きの黒胡椒を振る。

そして刻んだニンニクの一部を肉の表面に擦り付けるようにして、しっかりと揉み込む。

手の熱で脂が少し溶け、スパイスとニンニクの香りが肉に馴染んでいく。


シャロは鍋を熱した岩の上に置いた。

この環境下では火種は不要だ、地面からの熱だけで十分すぎるほどの火力がある。

鍋に牛脂を入れて溶かし、煙が立つほど熱くなったところで、肉の塊を投入した。


ジュワアアアアアアアッ!!!


凄まじい音が火口の底に響き渡る。

アグニがゴクリと喉を鳴らす。

肉の焼ける匂い、それは生物としての本能を直接揺さぶる魔性の香りだ。


まずは表面を焼き固めて、旨味の壁を作る。

シャロは肉を転がし、四つの面すべてにこんがりとした濃い焼き色をつけていく。

いわゆるメイラード反応だ、この香ばしさこそが味の決め手となる。


全体が良い色になったところで、シャロは一度鍋を火から少し遠ざけ、少量の水を注ぎ込んだ。

ジュッ!と蒸気が上がる。

すかさず木の蓋をして、ここからは蒸し焼きにする。

中までじっくり火を通しつつ、焼きすぎないように、真剣な表情で鍋を見つめる。


数分後。

シャロが鍋を開けると、中から肉の香りを纏った蒸気が溢れ出す。

取り出した肉塊はパンパンに膨らみ、弾力のある素晴らしい状態だ。


シャロは生成した大きく分厚い葉っぱで肉を二重三重に包み込み、温かい岩の上に置いた。

焼きたての肉をすぐさま切ると、肉汁が全部流れ出てしまう。

少し置いて温度を落ち着かせることで、肉汁が繊維に戻って、ジューシーになるのだ。


肉を休ませている間に、ソース作りだ。

肉を焼いた鍋には牛の旨味が溶け出した脂が残っている。

そこに、刻んだ大量のタマネギと残りのニンニクを投入する。


ジュワジュワ……


肉汁の旨味をタマネギが吸い込み、飴色になるまで炒める。

仕上げに塩、胡椒、そして少しの水を加えて煮詰めれば、濃厚な『特製オニオンガーリックソース』の完成だ。


そして、十分に休ませた肉を葉っぱから取り出す。

シャロがナイフを入れると、抵抗なく刃が入り、断面が現れる。

外側は香ばしい褐色、そして中心に向かって美しい薔薇色のグラデーションが広がっていた、完璧な火入れだ。


「うおぉぉぉッ!すげぇ色ダ!」


薄くスライスし、皿に並べ、熱々のオニオンソースをたっぷりとかける。

肉の熱でソースの香りが立ち上る。


「完成!『特製ローストビーフ』!」


「いっただきまぁーす!」


アグニがスライスを三枚まとめてフォークに刺し、一口で頬張る。


「んん~ッ!!やっわらけええええっ!」


咀嚼するたびに、赤身肉の濃厚な旨味と、甘い脂が口いっぱいに広がる。

タマネギソースの甘辛さとニンニクのパンチが、肉の味を極限まで引き立てている。


「噛めば噛むほどじゅわーって肉汁とソースの味が広がって……最高ダ!」


「ふふっ、でしょう?良いお肉だからね」


シャロも一枚、上品に口に運ぶ。

しっとりとした舌触り、疲れが溶けていくようだ。

ヨシュアも静かにナイフとフォークを動かす。


「……美味い。火加減が完璧だ。この極限状態でよくぞここまで繊細なレア加減を出せたものだ」


三人は幸福に満ちた表情で肉を平らげた。


食事が終わり、片付けを済ませると、場の空気は一変した。


「さて……腹も満ちたところで、本題に入ろう」


ヨシュアが杖を突き、真剣な眼差しで二人を見た。


「レッドドラゴンとの遭遇、及び戦闘についての作戦会議だ」


その言葉に、アグニが身を乗り出した。


「おっ!いよいよカ?やるのカ?ドラゴンと!」


それとは対照的に、シャロは不安げな声を上げた。


「ちょっと待って、ドラゴンとは戦わないんじゃなかったの?見つからないように隠れて進むって」


「戦わないに越したことはない。だが、万が一ということもある。その時、無策で戦うわけにもいかないだろう」


「そりゃそうだけど……勝算はあるの?」


シャロの問いは切実だった。

かつての手も足も出なかった敗北。

あれから強くなったとはいえ、相手は「災害」と称されるレベルの魔物だ。


「ゼロではない。ドラゴンには必ず『逆鱗』という弱点がある」


「ゲキリン?なんだそりゃ」


アグニが首をかしげる。


「ドラゴンの鱗の中で、一枚だけ逆さに生えている鱗のことだよ」


「その通りだ。ドラゴンの鱗は鋼鉄よりも遥かに硬く、魔法耐性も極めて高い。俺の氷魔法も、シャロの草の剣も、まともに当てたところで大したダメージにはならないだろう。だが、逆鱗だけは違う。逆鱗はドラゴンの鱗の中で唯一柔らかい、いわば急所だ。そこを貫けば致命傷を与えられる」


「へぇ~!急所ってわけか!わかりやすいナ!」


「その逆鱗をアグニ。お前が見つけ出して攻撃しろ」


ヨシュアがビシッとアグニを指差した。


「あ?アタシがか?」


「そうだ。お前の身体能力と動体視力を見込んでのことだ」


ヨシュアは分析するようにアグニを見つめた。


「レッドドラゴンは空を飛び、炎を吐く。俺とシャロは牽制と足止めに使わざるを得なくなるだろう。お前の速度と攻撃力なら、決定打としても申し分は無い。それに、お前は遠距離攻撃の手段を持たないしな」


「私やヨシュアが離れた場所から魔法でドラゴンの気を引く間に、アグニが懐に飛び込んで逆鱗を狙う……うん、それが一番理にかなってるかも。性格的にも、アグニは前に出した方が力を発揮できるしね」


「なるほどナ!要するに一番おいしいところをアタシが持っていっていいってことだナ!」


アグニはニカッと笑い、拳をバシッと掌に叩きつけた。


「わかった!その時はアタシに任せロ!ドラゴンだろうが何だろうが、その『逆鱗』ごとぶっ飛ばしてやるゼ!」


頼もしい返事。だが、ヨシュアの表情は緩まない。


「だが気を付けろアグニ、逆鱗は小さい上に、個体によって場所が違う」


ヨシュアは念を押すように言った。

喉元、腹の下、背中、どこにあるかはわからない。

戦闘中に動き回る巨体の中から、たった一枚の鱗を見つけ出さなければならないのだ。


「逆鱗以外の場所は硬くて、俺達の攻撃は恐らくマトモに通らんだろう。だから、無駄に攻撃して体力と魔力を消耗するなよ。チャンスは一度きりだと思え」


「わかった。一撃必殺ってやつだナ」


「そういうことだ」


作戦の骨子は決まった。

シャロとヨシュアが陽動し、攻撃はアグニの一点突破。

シンプルだが、それゆえにミスは許されない。


「でも……」


シャロが視線を落とし、ぽつりと呟いた。


「私たちは、あの時より一人少ないよ……本当に大丈夫?」


その言葉が重く響いた。

かつてのパーティは四人だった。

アグニの代わりに前衛を務めていた剣士エミル。

強力な聖魔法でパーティのサポートをしていた聖女セレナ。

だが今は三人だ、一人当たりの負担は激増している。


「ああ。おまけに今のシャロは火属性に弱い」


ヨシュアは容赦なく事実を突きつける。

植物の特性を得たシャロにとって、ドラゴンの炎はかすっただけでも即死級だ。


「正直、戦力だけで見れば、あの時よりかなり不利だと言える。だから戦わないに越したことはない。見つからずに通り過ぎるのが最善だ。この作戦は、あくまで『詰み』を避けるための最終手段だということを忘れるな」


「へへっ、わかってるって!」


アグニは立ち上がり、屈伸運動を始めた。

彼女からは、不安よりも期待のオーラが溢れている。


「まぁ大丈夫、なんとかなるサ!アタシらは強くなったし、美味い飯も食った!シャロの仲間達に会うためにも、ここで負けるわけにゃいかないしナ!」


「……はぁ、お前はもうちょっと慎重になれ」


「あはは、でもアグニのその自信にちょっと救われたかも」


シャロが少しだけ笑った。

不利なのは事実、恐怖があるのも事実。

だが、ここで立ち止まる選択肢はない。


「よし、そろそろ行こう」


三人はローストビーフの余韻を力に変えて、火口の中心部へと歩き出した。

熱気が渦巻くその先に、赤い災厄が待っているとしても。

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