第35食 ロースカツ
第六層、赤茶けた岩肌が無限に続く乾いた大地で、四人の冒険者たちが死闘を繰り広げていた。
「ハァッ……ハァッ……これで、最後か……ッ!」
剣士の青年、キースが叫びながら剣を振り下ろす。
切っ先が巨大な甲虫『ファイアビートル』の急所である殻の隙間を貫き、絶命させた。
ドサリ、と重い音を立てて虫の巨体が崩れ落ちる。
周囲には、既に十匹近い同種の魔物の死骸が転がっていた。
「終わった……全員無事か?」
キースが肩で息をしながら振り返る。
そこにいたのは、満身創痍の仲間たちだった。
「なんとかな……でも、魔力がもう空っぽだ」
魔術師フレンが杖を杖代わりにし、地面に座り込んでいる。
彼のローブは煤で汚れ、あちこちが焦げている。
「私も……回復魔法を使いすぎました……もう、一回分も残ってません……」
聖女のリリアが、青白い顔で額の汗をぬぐう。彼女の白い聖衣は泥と灰で薄汚れている。
「しっかりしなさいリリア!ここで倒れたら終わりよ!」
女剣士のチェルシーがリリアの肩を支える。
彼女自身も腕に火傷を負っており、傷から血が滲んでいる。
四人は実力はあるはずだったが、それでもこの第六層の環境は過酷すぎた。
「……なぁ、キース。まだ入り口に着かないのかよ?」
フレンが苛立ちを隠さずに尋ねる。
彼らは本来、第五層へ「帰る」ために移動していたはずだった。
「わからん……こっちで道が合ってるかどうかも、正直怪しい」
「はぁ!?ふざけんなよ!お前がこっちだっつったんだろ!」
「仕方ないだろ!コンパスを失くしたんだから!」
「なんでコンパスを無くしちゃうかなぁ!ダンジョンでは滅茶苦茶大事なもんだろ!」
「うるさい!急に魔物が襲ってきたんだ、仕方ないだろ!」
キースとフレンが怒鳴り合う。
極限状態のストレスが仲間割れを引き起こしていた。
熱気と疲労、そして「遭難」という恐怖が、彼らの精神を蝕んでいる。
「やめてよ二人とも!喧嘩はここから無事に帰れたらにしなさい!」
チェルシーが鋭い声で制する。
「それよりポーション!まだ余ってるでしょ?リリアに飲ませてあげて!」
「……もう無いよ」
キースが苦渋の表情で首を振る。
「前の戦闘でとっくに使い切った」
「嘘……でしょ?」
チェルシーが絶句する。
回復手段なし、魔力切れ、体力限界、そして現在地不明。
それは、ダンジョンにおける「詰み」を意味していた。
「そろそろ帰れないと……本当にマズいぞ」
フレンの声が震える。
暑いはずの気温の中で、背筋に冷たいものが走る。
全滅、その二文字が現実味を帯びて迫ってくる。
その時だった。
ピクリ、とキースの耳が動いた。
「……ッ!?構えろ!」
「えっ?」
岩陰から、新たな殺気が溢れ出した。
グルルルル……という低い唸り声と共に現れたのは、四足歩行の獣たち。
燃えるような赤い体毛。鋭利な牙、そして知性を感じさせる残忍な瞳。
レッドウルフ、群れで獲物を狩る、この階層のハンターだ。
その数、五匹。
「う、嘘だろ……こんな時に……!」
「無理よ!今の私たちじゃ、一匹だって倒せないわ!」
「逃げるぞ!走れッ!!」
キースの号令と共に、四人は一目散に駆け出した。
戦う余力などない、背中を見せるのは危険だが、戦えば確実に死ぬ。
だが、レッドウルフは逃さない。
彼らは獲物の疲労を見抜き、楽しむように距離を詰め、追い立ててくる。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
足がもつれる、肺が焼けるように熱い。
最後尾を走っていたリリアが浮き石に足を取られた。
「きゃぁっ!?」
無防備に転倒するリリア。
「リリアッ!」
前を走っていたチェルシーが気づき、急ブレーキをかけて戻ってくる。
彼女はリリアの手を掴み、引き起こそうとする。
「立てる!?早く!」
「う、足が……ごめんなさい……!」
「チェルシー!リリア!何やってる、早く逃げろッ!」
先行していたキースとフレンが叫ぶ。
だが、その遅れは致命的だった。
狼たちは口を大きく開けた。
その喉の奥で、紅蓮の炎が渦を巻く。
ブレス攻撃の予備動作。
「あ……」
チェルシーはリリアを抱きしめるようにしてかばった。
剣を構える余裕すらない。
終わった、二人は絶望の中で目を瞑った。
狼たちの炎のブレスが放たれる。
熱波が迫り、灼熱が肌を焼く。
ゴオオオオオッツ!!!
轟音。
だが、いつまで経っても熱さは来なかった。
代わりに、冷気が頬を撫でた。
「……え?」
恐る恐る目を開けたチェルシーの前にあったのは、分厚く巨大な『氷の壁』だった。
レッドウルフの吐いた火炎は、その透明な盾に阻まれ、蒸気となって霧散している。
「な、なに……これ……?」
「氷……?」
呆然とする冒険者たち。
その頭上を、二つの影が飛び越えていった。
アグニとシャロだ。
アグニは落下に勢いを乗せた飛び蹴りを、先頭のレッドウルフの脳天に叩き込む。
ドゴォッ!
激しい音がして、狼が一匹吹き飛ばされる。
シャロは着地と同時に駆け出し、生成した草の剣で二匹目の狼に肉薄する。
狼が反応して炎を吐くが、それを素早く回避し、そのすれ違いざま、鋭い斬撃が狼の身体を切り裂いた。
狼たちは怒り狂ってアグニたちに襲いかかる。
飛びかかり、火炎のブレスを放つ。
だが、ヨシュアがすかさず杖を振ると、空中に無数の氷の槍が出現した。
それらは正確無比な軌道で飛び、狼たちが吐き出した炎を相殺し、そのまま胴体を貫いた。
激しく、それでいながら洗練された戦い方に、キース達は唖然と眺めていた。
一匹、また一匹と凍りつき、切り裂かれ、殴り飛ばされ倒れていく。
そして、最後に残った1匹を、アグニが殴り倒し、この戦闘は終わった。
キースたちを死の淵まで追い詰めたレッドウルフの群れは、嵐のような三人組によって全滅させられた。
「ふぅーッ!こんなもんカ!」
アグニが拳をパンと鳴らし、振り返った。
腰を抜かしているチェルシーとリリアに、ニカッと笑いかける。
「よう。大丈夫カ?怪我は無いカ?」
「あ、ありがとうございます……!助かりました……!」
リリアが涙ながらに頭を下げる。
キースとフレンも、震える足で近寄ってきた。
「助かった……本当に、死ぬかと思った……」
男たちも涙目になりながら感謝を述べる。
その姿を見て、ヨシュアが独り言のように呟いた。
「……嫌なことを、思い出したな」
彼女の視線は、彼らを通して「過去の自分たち」を見ていた。
かつて、この第六層で遭遇した「レッドドラゴン」。
圧倒的な暴力の前に何もできずに散り散りになったあの日。
装備も尽き、希望も尽き、ただ逃げ惑うしか無かった絶望感。
目の前の彼らの姿は、あの時の自分たちそのものだった。
「……そうだね」
シャロも頷く。
彼女もまた、あの日の恐怖を忘れてはいない。
だが、今は違う。
「でも、助けられて本当によかった……間に合って、よかった」
シャロは心からそう思った。
あの時、誰も助けに来てくれなかった自分たち。
けれど今、自分たちは誰かを助ける側になれた。
その事実が、過去の傷を少しだけ癒やしてくれる気がした。
グゥゥゥゥゥ……。
シリアスな空気をぶち壊す、盛大な音が鳴り響いた。
犯人はもちろん、アグニだ。
「戦ったらハラ減ったゾ……」
アグニが気だるそうに腹をさする。
戦闘の興奮が冷めると、空腹がやってくる、それは生存本能の叫びだ。
「あはは。そうだね、お昼にしようか」
シャロが笑う。
彼女は倒したばかりのレッドウルフの死骸を一箇所に集め始めた。
「え?あんたら何をする気だ?」
キースが困惑して尋ねる。
素材を取るにしても、様子がおかしい。
シャロはレッドウルフの山に手を置き、深く魔力を循環させた。
すると、狼の死骸から、急速に緑のツルが伸びた。
それは瞬く間に成長し、様々な形の実をつける。
小麦、卵、レモン、レタス、アーモンド、そして丸々と太った一頭の豚。
「なっ……!?」
「ええええええええっ!?」
キースたちの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
狼から、植物から、豚。
魔術でも錬金術でもあり得ない光景だ。
「おおっ!豚か!凄いなシャロ!豚まで生やせるようになったのカ!」
「……常識が崩壊する。魔法学も魔物学もあったもんじゃないな」
アグニは感心し、ヨシュアは頭を抱えた。
「細かいことはいいんだよヨシュア。食えればナ!」
アグニは既に豚を食材として見ていた。
シャロは手際よく豚を処理し、小麦を製粉し始めた。
その流れるような動作を見ながら、キースたちは呆然と立ち尽くしていた。
助けてもらった上に、謎の儀式を見せられ、理解が追いつかない。
「ところで」
シャロが小麦粉を挽きながら、彼らに声をかけた。
「私たち、これからお昼にするんだけど、よかったら一緒に食べない?」
「えっ?」
「みんなお腹空いてるでしょ?顔色が悪いし、何かお腹に入れないと動けないよ」
その言葉に、四人のお腹が正直に反応した。
彼らは極限状態での逃走劇を繰り広げたのだ。エネルギーは枯渇している。
目の前には新鮮な食材、焼ける肉の匂いを想像するだけで、唾液が溢れてくる。
「た、食べたい……です」
リリアが正直に言った。
キースもゴクリと喉を鳴らして尋ねた。
「……いくらだ?こんな深い所での食事ともなれば、相当かかるだろう?」
シャロは少し考えた。
確かにここは第六層、食料の現地調達は困難を極める。
地上からの持ち込み分も尽きている彼らにとって、この食事は命綱だ。
安売りしすぎても怪しまれるし、高すぎても払えないだろう。
「うーん、そうだなぁ……」
シャロは指を折って計算する。
材料費はタダ、手間賃と、この場所での希少価値、そして彼らの懐事情。
「……一人、6000エンスでどう?」
シャロが提示した金額。
6000エンス。
地上の大衆食堂のランチが約1000エンスだとすれば、その6倍、高級レストランのランチ並みの価格だ。
「6000か……」
キースが唸る。
高い、地上ならボッタクリもいいところだ。
だが、フレンが横から口を挟んだ。
「安いよキース。ここはダンジョンの六層だぞ?まともな食事が6000エンスなら破格の値段だ」
「……だな」
キースも納得した。
1万エンスを超えないだけ良心的すぎるくらいだ。
この状況なら10万と言われても払わざるを得なかっただろう。
「わかった。払う……頼む、食わせてくれ」
キースが財布から硬貨を取り出し、シャロに渡した。
商談成立。
「まいどあり!それじゃあ、とびっきり元気が出るやつを作るから、座って待っててね」
シャロはニッコリと笑い、代金を受け取った。
豚肉の解体と小麦粉の生成が終わり、次は肉の下ごしらえを始める。
切り分けた肉の赤身と脂身の間にある筋に、トントンとナイフの先を入れていく。
こうすることで、加熱した時に肉が縮んで反り返るのを防ぐのだ。
続いて麺棒を取り出し、肉全体を軽く叩く。
繊維をほぐし、柔らかくすると同時に、仕上がりの食感を均一にする。
続いて鍋に油を注ぎ、温める。
温めてるうちに、肉に軽く塩胡椒を振り、小麦粉をまぶして余分な粉をはたく。
次に黄金色の卵液にくぐらせ、最後に砕いたアーモンドの中に埋めるようにして、たっぷりと衣を纏わせる。
そうしたら衣をつけた肉を、静かに油の中へと滑らせた。
ジュワアアアアアアア……!!
岩場に幸福な音が爆発した。
高温の油が衣の水分を弾き、小気味よいリズムを刻む。
香ばしい揚げ油の匂いが、熱気を含んだ風に乗って周囲に拡散していく。
それを見ていた四人の冒険者は、信じられないものを見る目で鍋を凝視していた。
「まさかこんなダンジョンの中で揚げ物なんて……」
「ええ……普通の冒険者なら絶対できないわね……こんなの……」
常識外れの光景、だが、漂ってくる香りは本物だ。
パチパチという音が少し低くなり、泡が大きくなってきた。中まで火が通った合図だ。
シャロは菜箸で肉を持ち上げ、しっかりと油を切る。
こんがりときつね色に揚がった衣は、まるで宝石のように輝いていた。
皿の上にレタスとレモンを添え、カツに塩で味付けすれば完成だ。
「完成!『特製・厚切りロースカツ』だよ!」
「待ってました!いっただきまぁーす!」
一番手はもちろんアグニだ。
彼女は躊躇なく熱々のカツにかぶりついた。
ザクッ!!
素晴らしい音が響く。
粗めのパン粉が砕けるクリスピーな食感。
その直後、閉じ込められていた肉汁がじゅわりと溢れ出す。
「はふっ、ふぁふ……!ん~ッ!!」
アグニが身悶えする。
「美味いゾ!サックサクで、肉が柔らかくて、噛むと脂が甘い!これだよこれ!揚げたてのカツに勝てるもんはこの世に無いゾ!」
その様子を見て、キースたちも恐る恐る手を伸ばした。
彼らは極限の空腹状態だ。
「……いただきます」
リーダーの剣士キースが一口食べる。
ザクッ。
その瞬間、彼の目が見開かれた。
ダンジョンの乾いた保存食や、塩辛い干し肉とは次元が違う。
手間暇をかけた「料理」の味。
「っ……美味い……!」
キースの声が震えた。
「信じられん……こんな、こんな深層で、揚げたてのカツが食えるなんて……」
「本当……!衣がサクサクで、お肉が溶けるみたい……!」
「レモンの酸味が脂と合って……いくらでも食べられそうです」
「このレタスも美味い……みずみずしくてシャキシャキしてる……」
チェルシーとフレンも、一口食べるごとに表情が明るくなっていく。
リリアに至っては、涙を流しながら咀嚼していた。
死の淵から生還し、温かい料理で腹を満たす。
生きている実感そのものだった。
ヨシュアもまた、静かにカツを味わっていた。
こうして、七人の奇妙な晩餐会は、咀嚼音と感嘆の声だけに包まれて幕を閉じた。
食後、満腹になり、少し落ち着きを取り戻した冒険者たち。
キースが意を決したように口を開いた。
「改めて、本当に助かった、ありがとう」
「ううん、気にしないで。商売だしね」
シャロが空になった鍋を片付けながら微笑む。
キースは言いづらそうに視線を泳がせ、そして頭を下げた。
「そこでもう一つ、お願いがあるんだが……」
「ん?」
「コンパスを……売ってもらえないか……?」
キースの声は必死だった。
「コンパス?持ってないのカ?」
「ああ……戦闘中に紛失して……おかげで帰り道がわからないんだ……」
ダンジョンの中はコンパスは必需品、それはシャロ達3人も痛いほどよくわかっていた。
しかし、シャロは困った顔で首を振った。
「ごめんなさい。コンパスは私たちも一つしか持ってなくて……予備はないの」
「そうか……」
キースががっくりと項垂れる。
シャロたちのコンパスを譲ってもらえば、今度はシャロたちが遭難してしまう、無理な相談だ。
「じゃ、じゃあ……せめて、第六層の入り口まで、私たちを連れて行ってくれませんか!?」
今度は聖女のリリアが懇願した。
「お願いします!私たちだけじゃ、帰り道もわからないし、また魔物に襲われたら……!」
四人がすがりつくような目でシャロとアグニを見る。
アグニが唸り、シャロも眉を下げて困惑した。
人助けはしたい、だが、入り口まで戻るとなると、往復で結構なロスになる。
彼女らは一刻も早く先へ進みたいのだ。
「悪いが、それはできない」
そこに、ヨシュアが冷徹に言い放った。
「俺たちは先を急いでいる。お前たちの子守をして、時間を棒に振るわけにはいかん」
「そ、そんな……」
「見捨てるって言うのかよ……!」
フレンが声を荒らげるが、ヨシュアの態度は変わらない。
場の空気が重くなる。
シャロもアグニも、どうにかできないかとオロオロしている。
絶望に沈む四人。
それを見て、ヨシュアは一度だけため息をつき、杖をトンと突いた。
「……10万だ」
「え?」
「10万エンスで、俺の『転移魔法』でお前たちを地上へ送ってやる」
その言葉に、全員が動きを止めた。
キースが耳を疑うように聞き返す。
「て、転移魔法……?そんな高等魔術が使えるんですか!?」
「ああ、で、払えるか?」
「は、払います!絶対払います!!」
キースが即答した。
10万エンスは安くないが、命には代えられない。
それに、危険な帰り道を歩かずに一瞬で地上へ帰れるなら、安すぎるくらいだ。
「いいんですか……?」
チェルシーが信じられないという顔で聞く。
「……お前たちを野垂れ死にさせたら、こいつらが気にするからな」
ヨシュアが顎でシャロとアグニを指す。
二人はホッとしたように顔を見合わせた。
「でもヨシュア、お前、転移魔法はもう使えないって言ってなかったカ?」
アグニが尋ねる。
以前、ヨシュアは魔力回路の不調で、大規模な魔法や繊細な空間魔法は使えないと言っていたはずだ。
「……フン」
ヨシュアはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「シャロの飯を食い続けたら力が戻ったんだ。魔力の総量も、回路の伝達効率もな……認めたくはないが、お前の言っていた通りだったよ」
それは彼女なりの敗北宣言であり、シャロへの最大の賛辞だった。
「な!言っただろ!シャロの飯はすげぇんだゾ!」
アグニが我が事のように胸を張って自慢する。
商談成立、キースたちは10万エンス分を支払った。
「準備はいいか」
ヨシュアが杖を掲げる。
地面に複雑な幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、青白い光が四人を包み込む。
「本当に、ありがとうございました!」
「この御恩は忘れません!」
「元気でな!」
アグニが手を振る。
光が強まり、空間が歪む。
「《テレポート》!」
シュンッ!!
空気を裂く音と共に、四人の姿は光の粒子となって消え去った。
後には、静寂と岩山だけが残された。
***
感覚が反転するような浮遊感。
光のトンネルを抜けた次の瞬間、キースたちは固い地面の上に立っていた。
「……ついた、のか?」
キースが恐る恐る目を開ける。
そこは、見慣れた景色だった。
頭上には、ダンジョンの擬似空ではない、本物の太陽と空。
足元には踏み固められた土。
目の前には、巨大な洞窟の入り口――ダンジョンの第一層入り口がぽっかりと口を開けている。
「地上だ……!帰ってきたんだ!」
リリアがその場に座り込む。
周囲には、これからダンジョンに挑もうとする冒険者のパーティや、荷物を運ぶ商人たちの姿が見える。
日常の風景だ。
死の淵から、一瞬で日常へ。
四人は互いの肩を叩き合い、生還を喜んだ。
「本当に、すごい人たちだったな……」
「あの美味しいカツといい、戦闘能力といい、転移魔法といい……かなり有名な冒険者チームだったんじゃない?」
「かもね……また会ったら、食べさせてもらえるかな?あの料理」
チェルシーが空を見上げて笑う。
お腹も心も満たされた彼らは、清々しい気持ちで街の方角へと歩き出した。
だが、数歩歩いたところで、キースが足を止めた。
「……なぁ、ここ、こんなに荒れ果ててたか?」
キースの言葉に、他の三人も足を止めた。
このダンジョンは草原の真ん中にあったハズだ。
だが、今は地面の草が枯れて、荒地となっていた。
「なんだか嫌な予感がする……」
不安から解放された4人だったが、また新たな不安に見舞われるのだった。
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