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28_ただそれだけがほしかった(2)

放課後、研究室で、クォーツは気になりつつも

「フレスベル、遅いなあ」

などと思っていた。


動揺の隠せないノックが響く。

クォーツは、自ら赴き、扉を開けた。

「クォーツ様…!フレスベルが…」

息を切らしたファラだった。

「ファラさん!どうしたのですか。」

クォーツにも動揺は伝染する。



「学校を退学するって!」



ファラはこれまでせき止めていたであろう涙があふれた。


「退学!?どういうことですか…!」

クォーツも思わず大きい声が出る。

そしてハッとした。

(今、ぼくが動揺してどうする!)

「大きな声を出してごめんなさい、座ってお話を聞かせていただけませんか?」

「はい…」

研究室の扉が閉じた。



ー-その日の朝

「フレスベルさん!お迎えの馬車が校門に来ているわ。」

「え…?」

寮母に声をかけられる。

(これから学校なのに、何の迎え?心当たりがないわ。)


「至急帰ってきてほしいらしいのよ」

「ご家族が」


フレスベルは、全身の血が重く暗くめぐるのを感じた。

「か…ぞく…ですか…?」

「ええ。至急、あなたを。としか聞いていないの。

ごめんなさい。」



隣にいたファラはただごとではないことを感じ取っていた。

フォーリッツ家、かなりやりての名家としてフォリンドに名をとどろかせている。

しかし、結果重視の厳しい家だとも聞いていた。

その令嬢と相部屋と聞いたときは、気が気でなかったものだ。

(でも、これだけなんでもできる子の身だしなみも整えない、教育もしていないのは異常だって思ってた)



「フレスベル…」

ファラは目が真っ黒になった親友への声のかけ方が分からなかった。

「先生に、今日はお休みだって言ってくれる?」

親友が言ったのはそれだけだった。

「え、ええ。」

フレスベルとその家族の関係性を彼女に聞くことができなかった。

「ノートもフレスベルの分まで今日はとっておくから…ノートを貸してちょうだい。」

そんなことしか言えなかった。

「うん、よろしく。ありがとう。」

フレスベルも、そんなことしか言えなかった。



校門には馬車が待っていた。

(立派な馬車…)

自分が数か月前学校に来るときに乗っていたのは馬車と呼べるものではないことに、クォーツの家に通って知った。

(わたしに使うお金はあるのね)

フレスベルはそんなことを考えていた。

実家は広い庭があるため郊外にあった。

乗り心地のいい馬車にゆられ、少しずつ体温が下がっていった。



(もう、何年も帰ってなかったみたい)

庭から玄関に向かって歩くと足音がうるさかった。

(なんで、この家はこんなに静かなの)

「フレスベル様!おかえりなさいませ!

遠くから、お疲れだったでしょう!」

フレスベルに挨拶をしてねぎらう人などこの家にはいないはずだ。

(この人…)

顔つきが違うが憶えている。

この家の使用人は3パターンだ。

一つはフレスベルを家族といじめる人間。

二つはフレスベルへのいじめを見ないことにする人間。

三つは憐れみをだして摘発され、クビにされる人間。



(一番楽しそうにわたしにいじわるしてた人だ)

「見違えるように美しくなられて!」

フレスベルは、あとで、愛想が悪いだのと言われないように、淑女教育で受けたとおりに対応した。



「奥さまがお待ちしております!」



「母が…?」

フレスベルはだれかに腹部を殴られたような気分だった。



扉は気持ちよりもずっと軽快に開いた。

「失礼します…」

応接間には母がすわっていた。

「ああ、フレスベル。ここに座ってくださいな。」

「はい…」

母はにこにことしている。

(この人って笑うのね)

「学校での噂はわたしたちの耳にも入っているわ。

さすが、フォーリッツ家の一員ね」

(ぬいぐるみを押しつぶしたみたいな笑顔)

「フレスベル、家を継ぐのはお兄様でしょう?

でも、あなたはとっても優秀よね。

フォーリッツ家のお金で十分勉強したでしょう?」

(絵本の魔女みたいな歯ならび)


「だからね」


「学校をやめて、お兄様の補佐に専念してほしいの」


(うるさい…)

「そんなこと、できるわけないでしょう…!」

フレスベルは、立ち上がり、静かにいかる。


「まあ、もう学校には申請を出してしまったのよ」

母は残念そうに笑う。



「学校の荷物をまとめて、次の馬車は自分で用意して帰ってきてちょうだい」



フレスベルは、馬車に向かって、幽霊のようにゆらゆらと、歩いて帰った。

(どこか、うん。学校に入る前からわかっていたかもしれない。

この家から逃げられないって。)



一方そのころ母は姉たちと楽しそうに話をしていた。

「呪いの子のくせに、学園始まって以来の才媛なんて気に入らないわよね」

「そうね、毛虫みたいに丸まっているのが似合っているわ」

「お母さま、もう学校にも手を回したなんてすごいじゃない」

「あれはね、嘘よ。あれは、気づかず学校をやめて帰ってくるわ。

噂さえ流れてくれれば、家業に専念するために本人が望んだということになるわ」

「さすがあ!わたしも夜会でお話ししてくるわ。」

「わたしもお。」



フレスベルは、帰りの馬車で祈り続けていた。

こころの中の黒い気持ちを押し出すために。

サラマンダーとの約束を守ることにすがるために。



ー-研究室にて

「フレスベルは、今は、寮で、一人になりたいと言っていて…」

ファラはポロポロと涙がこぼれる

「相方をしめだすような、そんなわがままを言うのも初めてです。」

「ただ、もう学校をやめることになったと。」

「そうなんですね。

ファラさん、第一に教えてくれてありがとう。」

クォーツはファラの肩をさする。



クォーツのまなざしの色は、ファラへのやさしさと、その奥にある予想に対する怒りの色だった。


ありがとうございます。

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