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29_ただそれだけがほしかった(3)

フレスベルは一人だった。

ファラを、追い出した自己嫌悪と


(あの人たちはわたしをバカにしてる)

(本人の承諾もなく退学になんてできるわけないじゃない)

(自分の知識にないことをいう人は信用しない、その通りだったね、クォーツ)

母やその背後にいるであろう家族への憎しみでいっぱいだった。



「ごめんね、サラマンダー。」

ネックレスを久しぶりに握りしめる。

自分の生きるたった一つの光であった、

自分の力を信じるという約束も鎖のように感じられた。



(わたしは、強いんだ)

精霊の王であるサラマンダーと一体になり、より精度高く操れるようになった自分が、生家を燃やし尽くそうとすればいともたやすいことだろう。

(学校を出て、あの人たちの家に行った時は)

(サラマンダー、本当の一緒になろう。)

(約束を破った罰はちゃんと受けるよ。)

ネックレスをぽたぽたとこぼれる涙が濡らす。



「フレスベル…」

ファラの声だ。

「なあに、ファラ。追い出してごめんね。

わたし、散歩に行ってくる。」

「待って…!」

ファラは部屋を出ていこうとするフレスベルの手を縋り付くようにつかむ。

「思っていることを言ってちょうだい。

おねがいだから。」



「思っていること?」


フレスベルの目はどこも見ていなかった。

「家族が憎いって感情わかる?」



「え…」

ファラは、実家は裕福だったし、両親はファラのことをよく理解していた、そのうえでファラを大事にしていた。

ファラは、人を大事にすることができる人だった。

出会ったばかりの赤の他人のフレスベルを大事にできるくらい。


ファラは、こんなフレスベルを見たことがなく動揺していたし、もとより質問にも答えられなかった。



「もうわたしは、あなたのそばにいられないの?」

ファラは、泣いていた。

「そんなのいや。」

「あなたが、わたしの家とは違う環境で育ったっていうのはわかっていたわ。」

「きっと、かなり苦労したということも。

そのことを無理に話す必要なんてないわ。」

ファラは涙をぬぐってつづけた。

「ただ、」

「あなたがどうしたいかを教えてほしいの。」



フレスベルはほんとうは泣いていた。

「う…わたしすごくいやなこといったのに。

ファラがうらやましくて、困るってわかって言ったのに。」

涙は止まらない。

「わたし、ファラが大好きだよ」

「ずっと友達がいい。」

ファラはフレスベルを抱きしめる。

「うん、わたしもだよ。」

「学校やめたくなんてないよ、

大事にしてくれないフォーリッツ家も離れたい。」

フレスベルは泣きじゃくった。

赤ちゃんの時はこれくらいは泣くことは許されたのだろうか、と思いながら。



「フレスベル」

以前、意図せず付与魔法をかけてしまったハンカチで涙をぬぐうフレスベルにファラは話しかける。

「かなり待たせてしまっているけど、クォーツ様があなたのことを待っているの。」

「クォーツ…

あ…。今日約束してたの破っちゃった…。」

「それどころじゃなかったじゃない。」

ファラは、本気でそう言っている。

「すぐ行ってくるね。」

フレスベルは駆け出す。

「ええ、寄宿舎の入り口にいらっしゃるわ」



フレスベルがいなくなって部屋に残ったファラは祈った。

「クォーツ様…わたしにはフレスベルに寄り添うことしかできません。どうか…。」

(不遇の彼女に、幸福を呼び寄せてください。)

また、一人で泣いていた。



「フレスベル!」

クォーツは深刻な表情が緩んだ顔をした。

「待っている間、もう会えないかもしれないって思ってしまったんだ。

…ほんとうに良かった。」

フレスベルは、いまさらとても大事なことに気づいた。

「みんな…わたしのことこんなに思ってくれてたんだね。

気づかなくて、ごめん。」

ファラに自分がしたことを思い出して胸が痛かった。

「謝らなくていい。

君が気づかないところで僕も、きっとファラさんも君に大事にしてもらっていたんだ。」

フレスベルは、胸があたたかくなった。



「フレスベル、きみに聞きたいことがある」

「うん」

「ぼくは君が学校を急遽やめるということしか聞いていない。

やめたいのかい?」

クォーツは、いつもみたいにまっすぐとフレスベルを見つめる。

フレスベルは強く言う。

「やめたくない…!」

(誰かを憎んだり、恨んだりなんてしたくない)



フレスベルはためらったあと、言った。

「家族がわたしが使えるってわかったから召使にしようとしているの…。」

「そんなことになったら、わたし、きっともう、あの屋敷から出ることもできなくなる…。」

「学校に申請はもう出したって聞いたけど、きっと嘘よ。

でも、わたしはあくまで、貴族の令嬢だもの。学校側もフォーリッツ家自体の意向の無視はできない。」

フレスベルは、一息に言ってみると、すこし、冷静になった。



クォーツは、何もかもが腹立たしかった。

フレスベルを、本人の意図しない事故をきっかけに、冷遇し続けたこと。

噂をかぎつけてフレスベルを利用するために未来を奪おうとしていること。



それでも、

「フレスベル、話してくれて、ありがとう。」

ためらいながも、フレスベルが話してくれたことに感謝する気持ちしか、フレスベルには言えなかった。



「フレスベル、ぼくが必要だって思ってくれる?」

「え…?」

突飛な質問にフレスベルは即答できない。

「ぼくは、君が未来を自分で選んだという"幸せ"に関わりたい。

でも、それには、大きな行動がいる。

だから、ぼくが必要かどうかおしえてほしい。」


フレスベルは大きな行動という言葉に動揺していたが、

(わたしは、こんなことが起きなくても、

クォーツが未来にいたらなって思ってた。)

と、強く心の中で思った。

(だから、なにかになりたいと思ったんだ。)

フレスベルは力強く答える。

「必要だよ…!」



「明日、学校をエスケープしよう。迎えの馬車を朝、いつものところに行かせるから。」

「え?う、うん。分かった。

ありがとう。」

「…どういたしまして」

クォーツはどっちともつかない顔で答えた。



フレスベルは、クォーツに手を振って、部屋に戻った。

泣いていたファラの顔をお手製の魔法ハンカチできれいにしてあげた。

ありがとうございました。

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