27_ただそれだけがほしかった(1)
「フレスベル、おかえりなさい。
クォーツ様のお宅はどうだった?」
寄宿舎に帰ってきたフレスベルにファラが聞いた。
「ああ、今日は風邪だっていうから、一人で行って、ドレスを返して、すこし話して帰ってきた。」
フレスベルは、そぎ落として事実を伝えた。
「ふうん。」
ファラも慣れたものである。
「ふぁ、ファラ。あのね。
お話の話なんだけど、いままで、お兄さんみたいに思ってた人が、
すごくかっこいいなって思うようになるのは変かな。」
「変じゃないと思うわ。
本当のお兄さんだったら"変"かもしれないけど。」
ファラはほほえんで答えた。
(クォーツ様…、やっとね…、いままで大変でしたわね…)
ファラはこころの中でハンカチで瞳をぬぐうようなおもいだった。
「そのお話では気づいた後どうしているの?」
「え…」
フレスベルは嘘をついていると言えなかった。
「ど、どうやったらお話しする機会を増やせるかかんがえてるかな。」
と、たどたどしく答えた。
「ふうん…。それまでに男の人とまだ残ってる約束とかはあった?
それが、あればお話のきっかけになるじゃない」
もう、お話の話という前提が破綻しかけているがファラは続ける。
「えと…」
(お祈りの仕方を教えてくれるって言ってたかもしれない)
(それだわ)
「また、続き読んでみる」
フレスベルは嘘がここまで広がったことに罪悪感を感じながら、話しを終わらせた。
放課後、フレスベルは、ためらいつつノックした。
「どうぞ」
おそるおそる扉を開ける。
「クォーツ、こんにちは。」
「ああ、きみか。いらっしゃい。
昨日はありがとう。」
「ううん。」
クォーツはフレスベルが自分がまどろんでいる間、言ったことをあいまいに思い出して照れた。
「今日はどうしたの?」
クォーツはフレスベルに聞く。
「えっとね。まえ、お祈りの仕方を教えてくれるって言ってたから…約束をしに来たの。」
「ああ、舞踏会で忙しくてできなかったね。
今ここでしていく?」
「え、いいの…?研究の最中だよね。」
「問題ないよ。今はデータ取りの最中で休憩中だったんだ。」
フレスベルはためらったあと、コクリとうなづいた。
クォーツがお祈りの所作を教えてくれる。
(お祈りは自分のためにするんだ)
サラマンダーの言葉を思い出す。
(そうなのかな。きっと、あなたが見守ってくれてるってことに安らぎを求める人はいると思うのに。)
お祈りを捧げながらフレスベルはおもっていた。
「フレスベル、所作は完ぺきだったけど、どこか上の空だったね。」
クォーツは苦笑いしている。
「ごめんなさい…。サラマンダーの姿を見て、お話もしたことがあるから、それを思い出してしまって。」
舞踏会で断片的に話していたが、白状した。
「そう…」
クォーツは目を丸くしたが、深く聞いてこなかった。
「お祈りはね、上位の存在、つまり、精霊様に捧げるものだけど…。」
クォーツは続ける。
「精霊様に必要とされる自分でいるための杖でもあるんだ。
なにかを信じ続け生きるにはこの世界は過酷すぎるから。」
「精霊に必要とされる…」
(サラマンダーが私を愛してくれたのは、きっかけは、かわいそうだったからだ。)
(もう、なにがあっても、自分のことをみじめになんて思いたくない。)
「クォーツ、お祈り、教えてくれてありがとう。」
「ううん、きみはこれからいろんな場に行くだろうから、当然だよ。」
「そ、そのことなんだけど。」
フレスベルは勇気を出して言う。
「ん?」
「わたしには、どんな進路があるのかな。…って。」
「フレスベル…」
クォーツは、基礎教養すらなかった少女が、進路のことを考えられるようになった、そのことに心動かされた。
「君は、なんでもなれるよ。何になりたい?」
「そ、そこまでは考えてなくて。こんなのじゃダメかな。」
「ううん。一晩考えて、またおいで。明日は研究の予定も入れないで待っているから」
フレスベルは表情が明るくなった。
「うん!またね!いろいろ考えてみる!」
「そうするといい。」
クォーツは、自分がフレスベルの未来にいられるように心のそこでは願っていた。
そして、フレスベルは手を振りながら丁寧に戸を閉めた。
その次の日、フレスベルは来なかった。
ありがとうございます。最終章のはじまりです。




