25_ガラスの靴はいらない(3)
フレスベルは、悩んでいた。
(ファラに、話してもいいのかな)
(でも、殿下の個人的なことにかかわることでもあるし…)
「またおもしろいこと?」
「わっ」
ファラはお風呂から帰ってきたようだ。
「…うん。わたし、殿下に呼び出されたのは知ってる?」
「ええ…」
ファラは踏み込んでこなかった。
フレスベルはもじもじしていたが、決意をして言った。
「わたしを、妃にしたいって…」
「ええっ!!!?」
ファラは想像通りの大きい反応を示した。
「で、どうしたの?」
「何も答えられなかったわ。」
ファラは戸惑いながらも答える。
「まあ、そうよね…
フレスベルにしてみれば、この間の舞踏会で踊っただけだものね」
「うん…」
自分の付与魔法のことを話し出せないことが罪悪感だったが、フレスベルは相槌を打った。
「でも、ノルベルト殿下と言えば、あなたと並べるくらい優秀なお方だって聞くわ。
国政にも意欲的だって。
民に愛されたお方だわ。」
ファラは自身の知っていることをいう。
「そうなのね。」
「今まで耳に入ってこなかった?」
ファラはためらいながら聞いた。
「ええ。舞踏会で知ったわ。」
「そう…」
ファラはそれ以上は聞かなかった。
「フレスベルは仮にも愛の告白を受けたのに、はしゃがないのね。」
「愛の告白だなんて…!」
フレスベルは恥じらいを隠せなかった。
それでも、はしゃぐ気持ちにはならなかった。
(なんでだろう。)
ファラは、そんなフレスベルを見て、ある一人の男子のことを思い浮かべ、気の毒な気持ちになっていた。
フォリンドの王城の王子の私室にて。
ノルベルトは、青い月を眺めていた。
(いままで、のらりくらりと婚約をかわしてきたが)
(自分が追いかける立場になるとは)
初めてフレスベルの手を取った時のあたたかさを思い出して、自分の手のひらを見つめる。
フレスベルは、またもや、囲まれていた。
今度はファラもいる。
「フレスベルさん!昨日はどういうことでしたの!?」
「皆さん、その話題で持ちきりでしてよ」
令嬢たちは楽しそうだ。
「ごめんなさい。今日は、予定があるので、失礼します。」
フレスベルははっきりということができた。
(あの方を待たせるわけにはいかないもの。)
令嬢たちの戸惑いもよそにフレスベルは教室を出た。
「ファラ、またあとでね」
「ええ…」
ファラと別れる。
生徒会室に近づくほど鼓動の音がはっきりする。
息を整え、生徒会室にノックしてはいる。
「お待たせしました。殿下。」
「ああ、ありがとう。フレスベル嬢。そこにかけてくれ。」
ソファに座るように促すノルベルトのしぐさは優雅だ。
「殿下…」
フレスベルはノルベルトをまっすぐに見つめる。
「王子ではなく、ノルベルト様としての婚約はお受けできません。」
頭を下げる。
「そうか…」
「頭を、あげてくれないか。」
フレスベルはためらいながらあげる。
「俺は、初恋の相手が付与魔術師だった。」
ノルベルトはゆっくりと語り出す。
「でも、彼女は、年がずっと上だったから、その恋は、ただのないものねだりだったのかもしれない。」
「最初にフレスベル嬢の手を取った時、初恋が帰ってきたみたいに思ったのかもな。」
ほほえんでフレスベルを見る。
ノルベルトは、フレスベルを見つめているが、どこか遠くを見ているようだった。
フレスベルは、誠実な青年に対して、自分のためだと分かりつつも話し出した。
「ノルベルト様は、完璧すぎるんです。」
「完璧…すぎる?」
「はい。」
戸惑うノルベルトにフレスベルは答える。
「あなたと共に歩く道を選ぶことはこの国の貴族の令嬢としてこの上ない名誉でしょう。」
フレスベルは、少しためらいながら続ける。
「でも」
「その事実をわたしの胸にしあわせなのかと、といかけても、わからないんです。」
「そんな気持ちで、あなたの好意に乗っかるようなことはできません。」
フレスベルは思い切って言ったことに対して、心臓がどきどきしていた。
ノルベルトは驚いた顔をしたが、徐々にまた切なげな、しかし柔らかい表情になった。
そして、ゆっくりとフレスベルのとなりに座った。
「の、ノルベルト様?」
ノルベルトはフレスベルを抱き寄せる。
「それでも、おれは、あなたが好きだ。」
そういって頬にキスをした。
フレスベルは、心臓がうるさくて訳が分からなかった。
「小鳥みたいだ。
籠に入れてしまえればいいのに。」
ノルベルトは両手でフレスベルの顔の側面をつつんで、こちらを向かせた。
「これから、納得できるくらい、そばにいてくれないか?」
フレスベルは美しい青年にこころが溶けるような告白を受けている。
それでも、自分のこころのすべてが青年への思いに染められていないことに気づいた。
別の一人が深いところを占拠していることに気づいた。
「…すいません。それでも、あなたの好意を利用してしまいそうです。」
ちがう。それは、すこし違う。
「いま、ほかの人をその人より、好きになれそうにないくらい、好きな人がいます。」
フレスベルは、とぎれとぎれに、答えた。
「そうか。」
ノルベルトは、フレスベルから、ゆっくりと手を離した。
「日が暮れる前に帰るといい。
おれはもうあなたを送ってあげられないから」
フレスベルは、返す言葉が思いつかず、頭を下げて生徒会室を去った。
ノルベルトはため息をついた。
「お前が相手は分が悪いぞ、クォーツ。」
二人の関係はわかっていた。
だから、大きな勝負に出たのだ。
二人の関係に名前がつく前に。
二回目の初恋
ガラスの靴はいらない編、終了です。
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