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22_ダンスパーティーなんて無理(12)

「涼しいね」

「うん」

バルコニーに二人で手をかけフレスベルとクォーツは立っていた。

オーケストラの音楽が漏れ聞こえてくる。

ほほをなでる夜風が心地いい。

沈黙も心地よかった。

「なんだか夢みたい。もっと早くみんなに会えればよかったのに。」

フレスベルはポツリと話す。

「そう」

クォーツはにこりとする。しかし、小声で不満をこぼした。

「今だけはあなたって言ってほしいんだけど。」

フレスベルには聞こえていないようだった。



フレスベルはずっとある、違和感があった。

その正体を分かっていたが、見ないふりしていた。

(嫌われるかもしれない。)

(でも)

(でも…)

その先は、認めるのもためらわれるような感情だと思った。



「ずっと言いたかったこと、言わないといけないと思っていたことがあるの。」

「どうしたの?」

フレスベルは、一呼吸する。

「わたしね、クォーツのことが」

「うん」

クォーツは文脈から続きの言葉に胸が高鳴る。

「憧れだし」

フレスベルはまっすぐとクォーツを見る。

「妬ましいの。」

「フレスベル…?」

クォーツは突然の告白に動揺する。



「わたしね、家族に呪いの子って言われて育ってきたの。」

「兄を、兄弟で一番偉い兄を、魔法で傷つけたの。正当防衛ではあったけれど。

それから、踏み絵みたいにされて育ったの。」

フレスベルの告白は止まらない。

「それから、あなたは、そう、わたしが精霊に愛された子だと言ってくれたわね。」

「うん」

クォーツは、フレスベルはかなり複雑な事情の子だと思っていた。しかし、あえて踏み込んでこなかった。

それまでの告白が予想を超えていたので、まだ動揺していた。



「このネックレスをくれたのが、サラマンダーだったの。」

フレスベルはクォーツにネックレスを見せる。

「わたしといてくれたのが、サラマンダーで、頂点である精霊王でなくてもよかった。

わたしの支えは、このネックレスと、もらったときに彼とした二つの約束だけだった。」

(そうかもしれないと思っていたが、フレスベルの前に現れて、名乗りまでしたのか…)

精霊は名前を名乗ると相手のものになるという説は聞いたことがあった。



フレスベルは声も震えている。

「だからね、」

「もういいよ、無理しないで。」



クォーツが小さな少女を壊れ物みたいに抱きしめてささやいた。

フレスベルの、本物の人間に抱きしめられた初めての記憶になった。

フレスベルはまばたきすると涙が滴るのを感じた。

相当に涙はたまっていたようだ。

フレスベルはクォーツと自分の身長は全然合わなくて、口封じされたみたいに感じた。



「ううん、聞いて。」

「みんなに、クォーツに会って、やっと約束を守るだけの人形から人間になれたの。」

「それが嬉しいの。でもね。」

フレスベルはクォーツの体に手を回さない。



「わかったの、あなたは、自分を大事にできるんだって。あなたは、お姉様や周りの人たちに大事にされてきた分、わたしを大事にできたんだって。」

「だから…」

フレスベルはクォーツの胸から顔を離し、クォーツを見つめる。

「わたしなにも返せない。自分の大事にしかたなんて、分からないんだもの。だから…」

「大丈夫だから。」



クォーツはもう一度抱き寄せる。

「ぼくは、今ここにいる君をみてるよ。

孤独に家にいた人形の君は、もう心の中にしかいない。

きっとそのことが、一番つらいと思うけれど。」

クォーツが抱きしめる力が少しだけ強くなった。

「うまい言い回しが見つからないけれど、もし、

その器量で名家の娘として育てられていたとしたら、

ぼくは君を見つけられなかったかもしれない。」



「哀れみで精霊王が君を愛したとしても、ぼくは、今君がこの胸の中にいることが嬉しい。」


フレスベルは、ゆっくりと、手をクォーツに回した。


「ありがとう…」

「ぼくはここにいるから。安心して。」

「わたしね、それでも、自分が嫌なの。」

「どうして?」

クォーツの声音は穏やかだ。

「ありがとうって、いうけど、自分のために言っている気がするの。

わたしが家族にいじめられる一方で、あなたは安心して育ったと思って比べてしまうの。あなたにだって、あなたの事情があるのに。

そんな自分が嫌でたまらない。」

フレスベルは、それでも優しいクォーツに近づきたくて、抱きしめる力が強くなった。

「それでも。ぼくは、きみが笑うと嬉しい。」



「きみはきみでいいんだよ。」



フレスベルはそんなことを言われたことも言葉として思ったこともなかった。

最近は減ってきたものの、自分がどうしてこんなにうまくできないのか、責めることが多かった。

(これが)


(これがやさしさか)

優しいという言葉はたくさん使ってきたが、ひしひしと感じた。


フレスベルは、いきなり身の上話を告白したことを後悔しそうだったが、力が抜けた。

フレスベルは思わず微笑みがもれて話し始めた。

「…お母さんが抱きしめてくれるってこんな感じだと思う?」

下心があって抱きしめたというのを全肯定はしたくないが、嘘と言えばうそだったクォーツは、ムキになった。

「きゃ…」

抱きしめる強さが激しくなったので、フレスベルは思わず声が出た。

「きみはほんとうに一言余計だぞ。」

クォーツは口をとがらせて不満を言う。

フレスベルはさすがにこの硬さは女性のものではないと思った。

それでも、心地よかった。

「ぼくはきみに会えてよかったと思ってる。だからさ、」

フレスベルには見えないが、クォーツはほほえんでいる。

「精霊王がぼくたちを引き合わせてくれたと思うことにしないか?」

「ぼくの声のかけようのない、器量よしの教育をうけた名家のお嬢様だったら困るから。」


すぐに声が出ないフレスベルだった。

ずっと誰かに、じぶんのみじめな身の上を知ったうえで受け入れてほしかった。

それが今、叶ったのだ。


「ありがとう」


ずっと祈ってきてよかった。

あの時誰も傷つけなくてよかった。

(サラマンダーのおかげだよ。)

フレスベルは遠慮せず抱きしめ返した。


オーケストラの音楽が夜風にのせて二人を包んでいた。

二人は抱擁を終わりにして見つめあった。

「おっと、メイクが崩れてしまったね。」

「あら」

フレスベルは鏡もないので確認のしようがなかった。

(あれだけ泣いたものね。)

「大したほどじゃないんだけど、直せないから、こっそりと、寄宿舎まで送るよ。」

「うん…」

寂しさについ語尾が下がってしまうフレスベルだった。

「また、何かこういう機会があるといいね。」

「うん!」

(分かりやすいところがまた…)

クォーツは平静を保つ努力をしていた。



「じゃあ、」

「おやすみ。ドレスは、また今度返してくれればいいから。

変に、付与魔法できれいにすると国宝が我が家に来てしまうから気にしないで。」

「国宝はいいすぎじゃない…?じゃ、なくて、はい」

フレスベルはクォーツを見送っていた。

クォーツも何度か振り返って手を振ってくれた。



フレスベルはその日、興奮して眠れないかと思ったが、気づくと、朝になっていた。

もう同じ夜は来ないことが、あの夜風を感じることができないのが寂しかった。

ダンスパーティー編、長編になりましたがお付き合いいただきありがとうございました

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