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17_ダンスパーティーなんて無理(7)

「フレスベルちゃん、今日もよろしくね」

「はい。」

今日はクォーツもダンスの相手として練習に加わる。

「よろしく、フレスベル。」

「うん」

フレスベルは絵本の絵を思い浮かべる。

男性は女性の手を取って、もう片方の手を腰に回し…

耳が熱くなる。

思わず頬に手を当てると熱い。

クォーツもリドットもニコニコして黙ってみている。



「フレスベルちゃん、始めてもよろしくて?」

「あ、はいっ」

(手を取り、足を取りとするのかしら…)

(こ、こんなこと一人で考えてるなんて恥ずかしい)

「今日はね、クォーツのことを知ってもらいます!」

リドットは楽しそうに、ウインクをする。

「ええっ」

「満点の反応ね。」

(ク、クォーツの何を知ればいいのかしら。)

(好きな食べ物?)

「フレスベルちゃんとクォーツはとても背丈が離れているでしょう?」

「そうだね。」

クォーツが相槌を打つ。

フレスベルは身長が比較的低い方で、クォーツは身長が比較的高い方なのだ。

「だから、お互いの膝の高さや、腰の位置、肩の位置、どうしたら目線が合うか、

それを分かってもらいます。」



「は、はい。」

「よろしく、フレスベル。」

フレスベルはコクリとうなずく。

「じゃあ、並んでみて。」



二人は、横に並んだ。

「フレスベルちゃんの膝の高さはクォーツのすねのこの辺りね」

「腰の高さはクォーツの股のあたりかしら」

クォーツはこらえていた。

(フレスベルは、小さくてかわいらしすぎる…!)


「じゃあ、向き合ってくれるかな」

リドットの指示が入る。

二人は握手するくらいの距離で向き合った。

「フレスベルちゃん、恥ずかしかったらクォーツの鼻か眉間を見ればいいから。」

「は、はい」

(リドット様、わたしが恥ずかしいのわかってくれたんだ)

フレスベルは嬉しかった。

(あら、意外と目を合わせることに意識しなければ緊張しない)


クォーツはまだまだこらえていた。

(フレスベルのまっすぐな瞳はかわいらしすぎる…!)


「お互い、どうかな。首は疲れなさそう?」

「どうかな。もっと、ダンスくらい近づいたら分からないな」

リドットの問いに、クォーツは取り乱さず、あくまで紳士的に答える。


リドットは真剣な様子で言う。

「身長差や腰の位置や膝の位置を意識して、相手のことを知ること。

自分が苦しい時は、相手も苦しい時があるわ。」


「は、はい!」

フレスベルは精一杯答える。


「今日やろうと思っていたのはこれだけなのだけれど、すぐ終わってしまったわね。

詰め込めばいいわけでもないし…」

リドットは考える。

「そうだわ!フレスベルちゃん、おなかすいてる?」

「…はい」

「素直でかわいいわあ。もう1講義、していきましょ」

リドットはウインクする。



フレスベルは震えていた。

(こんなきちんとした食卓、横からしか見たことない) 

立派な机にたくさんの食器が並べられている。

フレスベルは、実家では、小さな部屋でクズ野菜のスープとパンを食べていた。

(そんな日々を送っていたなんて知られたくない。)

リドットが、テーブルマナーを指南してくれるのを必死にメモを取っていた。

「ふふ、フレスベルちゃん、えらいわ。」

「い、いえ。そんな…」



「思うんだけど、マナーって誰のためにあるのかしらね」

(か、考えなきゃ…)

フレスベルは何とか考える。

「え、えらい人の機嫌をそこねないため…?」

「フレスベルちゃん、はっきり言うわねー、本当におもしろいわあ」

リドットはフフッと笑う。

「そうかもしれないわ。

マナーってね、

最初はただお互いにして気持ちよかったことが、

気づいたら礼儀とか形式になってしまったことだと思うの。」

フレスベルは、メモを取ろうとする。

「ふふ、心に留まらなければその程度の言葉なのよ。気にしないで。」

「いえ、そんな…」

「でもね、形が決まっているっていうことは、言葉を覚えるようなものだから、悪いことだけではないと思うの」

リドットはワンテンポおく。

「言葉は自分がどう思っているかを知ってもらうものだわ。」


「だからね、フレスベルちゃんには、マナーを示す相手を知って、

さらに言えば、その空間が、なんのためにあるかを知って、

その時間をすごすことが、なんのためにあるかの目的も知ってほしいの。」



フレスベルは自分がただ道具のように行儀作法をこなす想像ばかりしていた。

(本当に)

(本当にこの方は素敵な方だわ)


また一つ、世界を広げてくれた。


「メモ、します!」

フレスベルは思わず声を張る。

「あらあ、うふふ、ありがとうね。」

クォーツは、ニコニコと眺めていた。



「じゃあ、料理を運ぶようにシェフに言うわね」

「は、はい」

ぐうう、とフレスベルのお腹が鳴る。

「わたしもお腹ペコペコなの。かわりにいってくれてありがとうね。」

リドットがウインクする。

「あのう、ほかのご家族の方は…?」

「ああ、父と母がいるのだけれど、おそらく、別館にこもってデータの採集をしているんじゃないかな。

自然と関わる研究だとなかなか、都合がつかないんだ。」

クォーツが説明する。特に何とも思っていなさそうだ。



「お待たせしました。」

食事が運ばれてくる。

具だくさんのスープだ。

フレスベルは、決められた食器を手に取り、ぱくり。と食べる。

「…!」

「おいしい?」

隣にいるリドットが問う。

「はい。」

お腹がぽかぽかとするフレスベルであった。

「今日は賑やかで助かるよ」

フレスベルのもう片方のとなりにいるクォーツが楽しそうだ。

(よく考えたらお茶ではなくて食事するのは初めてだな。)

フレスベルは足先があったまる感じがした。



(食べたなあ、あんなにきっちりとマナーを意識して食べたのに、楽しかった。)

「こちら、デザートのプリンです」

「あら?今日は特別?」

リドットが少し驚いている。

「はい、シェフがお客様がいらっしゃるので、と。」

「そうなのね。フレスベルちゃん、食べてみて!」

リドットがニコニコしている。

(悪いなって思うけど、はっきり言わなきゃ)

「ありがとうございます。」


クォーツは隠しているがフレスベルの反応を、リドットと一緒でとても楽しみにしている。

フレスベルは決まった食器を手に取り食べる。

(おいしい、けどそれより前に、)

(なつかしい…)

(そうだ。)

一回だけプリンを食べさせてくれたシェフがいた。

しかし、そのあとそれが兄弟に見つかったあとそのシェフは…

その味だったのだ。

「うっ、うっ」

ポロポロと涙がこぼれる。

(また、泣いちゃった。)

(せっかく楽しい場だったのに、どうしていつもこうしちゃうんだろう)

「ごめんなさい…、あんまりにもおいしくて。」



リドットとクォーツはそれだけではないことはわかっていたが、切ない気持ちでいっぱいだった。

プリンに涙する名家の才女を作りあげた環境に、ほのかな怒りの芽生えを感じながら。

ありがとうございます。

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