16_ダンスパーティーなんて無理(6)
リドット・ラピスティーヌという人は
それは、それは優秀な女性のようだった。
学校はトップの成績で卒業し、
その後は、国内有数の学者の家系であるラピスティーヌ家の一員として、
日々研究に明け暮れているらしい。
結婚して家に貢献するという考えも、ラピスティーヌ家では薄いそうだ。
(かっこいいなあ。)
フレスベルは、リドットの貴族然としていない雰囲気にすでに、心惹かれつつあった。
「フレスベルちゃん。まず、聞くわね」
「はい」
「社交ダンスは何のためにすると思う?」
「えっ」
(フレスベルには絵本の素敵な世界しか思い浮かばない。)
「…えっと…」
(お姫様になるためなんて言えない。きっと間違いだ。)
「無理して答えなくていいわ。」
リドットはウインクする。
「まずは、ダンスを通して自分を知ってもらうためにするの。そして、自分も相手を知るために。
だから、作法もマナーもあるけれど、あなたはクォーツに知ってもらって、クォーツを知ればいい。」
フレスベルは、肩の力が少し抜けた。
(やっぱり、私この方のこと、好きだわ)
フレスベルは、自分の世界を広げてくれる姉弟だと思った。
「パーティーまでには、きっとダンスのお作法だけでも通じるかもしれないけど、
わたしは才女を淑女にすると決めたから、そのつもりでね」
「さ、才女?」
「ええ、クォーツには、今後、あなたは、どんな進路にも進めるだろうから、優秀な後輩の指導をしてほしいと言われているわ」
(優秀な後輩…)
少し寂しいと思ったフレスベルだった。
(なぜかしら。きっと嬉しいはずなのに。)
「さあ!今日はダンスの前に、姿勢の指導よ。
明日からはさっそくクォーツとも練習してもらいます。」
「はい、よろしくお願いします…!」
リドットの指導はとても分かりやすかったが、ハードだった。
「おつかれさま、フレスベルちゃん。
座ってくださいな。」
「あ、ありがとうございます。」
フレスベルは息を整えながら座った。
(姿勢をよくするのってこんなに大変なんだ。)
「今日のは、パーティーの間、ずっとキープできるようになってね。」
「は、はい…」
(社交って大変なんだな。)
「わたし、フレスベルちゃんがどんな子かずっと楽しみだったの。」
「え。」
(期待通りの子ではない気がする…)
フレスベルはいつも通り思考が暗かった。
「だって、あの子、文武両道で、できないことなんて何にもないような子なの。」
(その通りだと思うけど、体を動かすのも得意なんだ…)
みてみたい、と思ったフレスベルだった。
「社交ダンスも、ただこなすだけって感じで。」
「そのあの子が、私にわざわざ相談して…」
「姉さん?」
バアン!と扉が開いてクォーツが現れる。
「フレスベル、おつかれさま。頑張ったね。送りの馬車を用意したよ。明日もよろしくね。」
早口でクォーツが話して、フレスベルを玄関まで送る。
「じゃあ、おやすみ」
「う、うん。ありがとうございました。」
フレスベルをのせた馬車を、クォーツは見送った。
「姉さん。わざわざ口裏を合わせた意味をなくす気かい?」
クォーツは頭を抱えていう。
「どういうこと?わたしは、あなたが、私に相談してきたとしか言ってないわ」
リドットは嬉しそうだ。
「それに、あなたには、優秀な後輩の今後のために指導してほしいという風にしか言っていないわ。」
さらにニコニコとする。
クォーツはため息をつく。
「そうだね。」
リドットは真剣な顔になる。
「クォーツ。彼女は、フォーリッツ家のご令嬢なのよね?」
「ああ」
クォーツのまなざしも鋭くなる。
リドットは口を開く。
「じゃあ、あれだけの魔力の波動を感じる才女が、どうして、ダンスの姿勢もまるで知らなかったのかしら。」
そのまなざしは切なそうだ。
「うん…、ぼくも、彼女と親しくなったつもりだけど、家のことは何も知らないんだ。
彼女に関して、ぼくからは姉さんにも話せないこともあるしね。
ただ、」
「ただ?」
リドットは聞き返す。
「最初に出会ったときは、姿こそ可憐な少女だったけど。
おびえた猫みたいだった。
この世の一切に受け入れられてこなかったような。」
「そう…」
リドットは、自身の手を握りしめる力が強くなった。
(わあ、きれい)
フレスベルは、乗り心地のいい馬車に乗って、窓越しに、月が輝いているのを眺めていた。
(最近、学校に来てから、)
(ファラに会ってから、)
(運が良すぎる気がするわ)
(ずっと続けばいいのに)
明日は、リドットとの指導にクォーツも参加だ。
(前は、月なんか見てもさみしくなるだけだったもの)
「月がきれいだね」
(っていう人もいなかったから。)
フレスベルは、その日、ファラに詳細を話して茶化されたりしたが、ゆっくりと眠りについた。
ありがとうございます。




