15_ダンスパーティーなんて無理(5)
フレスベルはそわそわとしていた。
放課後、校門の外の、人気のない、生徒たちが送り迎えされるのにつかうところにいた。
この学校は寄宿舎もあるが、実家から通っている生徒もいる。
ほとんどの生徒が、馬車で送り迎えされている。
(実家から通っている人の方が、相部屋で過ごす人たちより、お金持ちかもしれないわ。)
いままでだったら、人の経済状況など考えたこともなかった。
(わたしは、ほぼ、放り込まれたようなものかも、寄宿舎に)
感じたことを、じぶんの頭で、考えるようになってきたのかもしれない、と頭の端で考えていた。
(でも、ファラに会えたからな)
胸が軽くなる。
「楽しそうだね。お待たせ」
フレスベルは我に返る。
「ううん、今来たところ」
フレスベルは、クォーツと待ち合わせをしていた。
目立たないように、学校の外を場所に指定してあった。
ひづめの音が聞こえてくる。
馬車が止まる。
「今日から、パーティーに向けて、よろしくお願いします。」
クォーツは、先に馬車に乗り、フレスベルの手を取り、引き寄せた。
馬車に乗るのはおそらく二度目だ。
(ち、ちかい…)
ぴったりと密接しているわけではない。
密室で動けない状況で男性のとなりになったことがないだけだ。
「ごめんね、乗り心地悪いかな。」
クォーツは、勘違いしている。
その点に関しては、フレスベルは、家族が自分に手配した馬車がいかに劣悪だったかを知った。
「ちがう、そんなことない。」
詳細は恥ずかしくて言えなかった。
「あの、今日は、どこに行くの?何をするの?」
「ああ、ごめんよ。
ぼくの頭の中で、計画が立ったところで満足していたよ。」
クォーツは、あやまる。
「まあ、せっかくだからついてのおたのしみということにしよう。
今言っても馬車に乗っていることしかできないしね。」
クォーツは、小出しにして楽しんでいるようだった。
(いったい、どうなるのかしら…)
クォーツが、心をおどらせる一方で、フレスベルはどきどきと緊張していた。
「ここがぼくの家だよ」
目的地は、クォーツの家だった。
フレスベルは、名家らしいフォーリッツの屋敷がかすむような迫力を感じた。
(あまり、自分の家を見た覚えがないからかもしれない)
「クォーツ様、おかえりなさいませ」
たくさんの使用人が、出迎える。
「今日は、お客さんが来ているから、よろしく。」
「はい、お伺いしております。
お部屋も準備してございます。」
フレスベルは、使用人が使用人として働いているのを見て、圧倒された。
実家では、自分に対して"仕事"をしようものなら、兄弟が摘発し、その使用人は、荷物をまとめることになる。
長い廊下をクォーツの後ろをついていき、部屋に通される。
「あら、いらしたの。」
クォーツと同じ色の色が明るい茶色の髪で、ゆるいウェーブがかかっている。目の色もクォーツと同じ碧色だ。柔らかい笑みを浮かべていて、白い肌をバラ色の頬が彩っている。
(きれいな方…)
フレスベルは挨拶も忘れていた。
「姉さん、このこがフレスベルだよ。」
クォーツが紹介してくれる。
フレスベルは、何か言おうと思ったが、この美しい女性に対しての正しい自己紹介が分からなかった。
「あっ、あの…」
(なにかいわなきゃ)
「よろしくおねぎゃっ…」
かんだ。
(はずかしい)
「姉さん、フレスベルは、初対面のひとに緊張してしまうだけだから、よろしくお願いします。」
フレスベルは緊張と恥ずかしさですっかり忘れていたが、未だに状況を把握していない。
「…」
お姉さんという方は、無言で、コツ、コツ、と近づいてくる。
コツ、コツ…
フレスベルはある仮説が立った。
(気を悪くしてしまった…)
コツ、コツ…
「ぶ、分不相応でごめんなさ…」
「フレスベルさん、かわいいわあ!」
家族にもされたことがないくらいよしよしとされた。
「えっ」
フレスベルは嫌ではなかった。
むしろ、態度がおいつかないだけだった。
クォーツは姉の様子を見て、コホン、と言ってから、話しだす。
「フレスベルは淑女教育をうけてもらう。
これからパーティーの日まで。」
「そうよ!まかせて」
フレスベルの手を取り、みつめる。
瞳はきらきらとしていて、フレスベルは目が離せなかった。
「名乗りが遅れたわ。ごめんあそばせ。
あなたを、素敵な淑女にします。
この、リドット・ラピスティーヌの名にかけて」
フレスベルは、おもわず笑いがこぼれた。
(クォーツと初めて会ったときと同じ…)
「はい、よろしくお願いします。」
創立祭まで、あと半月。
ありがとうございます。




