4月7日 夕方
あさみの家で愚痴をひととおり聞いたあと、あさみがお茶を淹れはじめた。
手持ちぶさたになって本棚を見ると、絵本が置いてあった。
「ん、何、絵本?」
本棚から取り出してみる。15cm角の正方形の幼児向けの絵本。
タイトルはシンデレラだ。
もう久しく見てはいないが、これと同じものが家にあった気がする。
「そうそう、課題用の資料。あたしね、子供のころシンデレラにあこがれてたんだー。」
女の子はお姫様にあこがれるってのは本当らしい。男が英雄にあこがれるのと同じようなものなのだろう。
「へぇ、なんで?」
「友達はみんな白雪姫とか、茨のお姫様とかが好きだったんだけどね、お姫様って生まれたときからお姫様だよね。でもシンデレラはお姫様じゃないじゃん。あたしでも王子様が迎えに来てくれるかもって思えてさ。」
ああ、そうなのか。
あさみらしい言葉だと思った。
でも今はあこがれとは遠く離れた恋愛をしている。
以前からずーっと感じていたもやもやした感情がまた少し大きくなった。
なんで彼に愛想を尽かさないんだろう。
あるいは、不幸なままでいて魔法使いが助けてくれるのを待っているのか。
いや、そんなことは考えていないだろう。そんなのはわかっている。
「でもあさみ、彼氏いるじゃん。」
ちくっと言う。
嫌味が出てしまった。
「いるけどぉー、彼氏は彼氏じゃん。結婚する気はないし。」
「え、ないの?」
マジか。
「ないよー。あんな浮気者。今は好きだけど、ずっと一緒にいられるなんて思ってないから。」
だったら俺は?
俺なら泣かせたりしない。
俺ならずっとあさみだけを見続けるよ。
いくつか言葉が浮かんでくるが、口には出せなかった。
どこか現状で満足している自分もいる。
一歩踏み出してこの関係が壊れるのを恐れている。
ああ、魔法使いを待っているのは俺の方なのか。




