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2、理由

家について、部屋の鍵を探す。


キーケースに3コも付いている鍵は全部たいしたところには繋がっていない。


鍵を空けると部屋の中はむんとしていて、生暖かかった。


もう秋だというのにこの部屋は、とにかく暑い。


つい2日前まで冷房が活躍していたくらいだ。


あまり換気をしないこの部屋にはいろいろ悪いものが溜まっていそうだ。


そんな気がしながらも部屋に入る。


靴を脱ぎ捨てて、そのまま中に進む。


もう靴箱には新しい靴が入るスペースはないから無理矢理しまおうとすると、他のが落ちてしまう。


容量不足だ。


この靴箱も、立ち上がりが遅いパソコンも、私の頭の中も。


パンク寸前なんだ。


とりあえず、服も着替えずにベットに腰掛ける。


瞬間、ため息がでた。


薄暗い部屋で、音もなく、ただ時間だけが過ぎた。


望んでいたはずの自由な時間がただ無駄に過ぎていく。


何が正解だったのか。


容量不足の頭で考えてもわからなかった。


目を閉じて、今日がただの休みだと思い込む。


登場人物は辞めた店のスタッフ。


思い出すのは、自分も笑っていたこと。


辛いだけではなかったこと。


私が辞めた理由は、簡単に言えば人間関係だ。


この仕事の離職率が非常に高い理由のひとつだ。


朝から夜まで1度も飲み物すら飲めないときもある。


それでも好きだからこそできる仕事なんだろうけど、そこに人間関係が加わると好き嫌いだけの問題ではなくなる。


どこの会社でも下っぱというのは辛いものだというけど、私の場合同期がいなかった。


すべての下っぱの仕事をひとりでやり、誰とも共有できずに自分の中にストレスをため込むしかなかった。


最初にそれが爆発したのは8月のことだった。


誰の顔も見れなくなって、ただ人の話にうなずいていた。言われたことにはすべてすいませんで答えた。


気付いたときには欝状態だった。

抗欝薬を飲みながら仕事をした。


すぐにダメになったのだけど。


抗欝剤の副作用は記憶が飛ぶくらい眠くなることだった。


朦朧としながら掃除をして、終わったころには自分がこの掃除をすべてやったことを覚えていなかった。


ぞっとして、薬を飲まずに寝ると、次の日仕事にいけなかった。


毎日近くの公園のベンチで深夜2時まで悩んで泣いた。


そして私は仕事に行かないことを選択した。


辞めるとか辞めないとか、そのときはどうでもよかった。


ただいつもの自分に戻りたかった。


仕事を休みだすと、見る間に私は回復した。


そして仕事にも復帰した。


もう1度だけやってみようと思えたから。


まだ美容師でいたかったから。


復帰してから結局何もかわっていない店の現状や下っぱの負担の多さに、もう悲しさはなかった。私は諦めた。

そして期待とか夢とかそういう感情はなくなった。


すべてに諦めて、全員を信用しなかった。


そうなったらもう終わりだった。


言葉は響かなくなる。


全身から力が抜ける。


心がなる。


その代わり涙もでなかった。


ただそれでもやれることは精一杯やっていたつもりだったから、最後の日、あの言葉だけは忘れられなかったんだ。


最低のアシスタントだった


そして私は辞めた。


なんでいつもみたいにすいませんって言って流せなかったのか、今はもうわからないけど、もう引き返せない。


目を開けるともう日はすっかり暮れていて、現実がそこにあった。


今考えなきゃいけないのは先のことなのに、昔のことばっかり繰り返し思い出して、どうしても消化できない。


焦りが後ろから押してくるのに、足が重く進めない。


どうしよう。明日から。私は灯りを失ってしまったんだ。


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