1、無職
日本の人口1億2000万人
少子化といえど都内の学校には子供は溢れかえっている
例えばテレビに自分と同じ名字の人が出ていたら、妙な親近感を覚える。
それはただの偶然であって、その間に運命とかそのたぐいがあるわけではない。
でも遺伝子とかDNAとかミトコンドリアとかが昔の記憶を憶えていて、昔○○家みたぃに大きな括りがあった時代には血が繋がっていたかも知れないんだ。
だから親近感がわくのかもしれない。
でも今この街にいる人は例え名字が一緒でもみんな他人だ。
そういう街なんだと思い知らされた。東京は。
私たちはプランクトンから始まって、魚が陸にあがって、猿が進化して人間になった。どっかで人間が進化の集大成みたいに思っていたけど、進化の歴史にしてみたらそんなことはお構いなしで、生殖活動を繰り返すうちに、いつか人間より優れた生き物が現れる。
今人間が「自然との共存」とか言っているのが「進化人間と人間の共存」とか言われる日がくるのだろうか。
って渋谷に向かう電車に乗りながら、こんな進化論みたいなことを考えている人間は何人いるんだろう。
私はいつも、ブラックホールに宇宙が全部飲み込まれたら爆発して新しい地球が生まれるとか、昔今よりも優れた文明があったかもしれないとか、物事を無駄に深く考えたがる。
ドラマを見れば、もし過去に戻れるならいつに戻る?とか、もし余命が1ヶ月だったら何をする?とか、主人公になりたがる。
もしかしたらちょっと変わっているのかも知れない。
時々、夢と現実がごちゃごちゃになるときがある。
いや、本当は夢だとわかっているのに戻りたくない現実から逃げるためにわざとわからないフリをする。
今日もそうやって用もなく渋谷に逃避行。
今日も大好きな音楽たちを聞いて、自分なりのとびっきりのオシャレをして、たいしてお金も持たずに。
私の頭の中ではいつでも自分が主人公で、通り過ぎるすべての人は登場人物になる。
頭のキーボードを軽やかにブラインドタッチ。
1行目は必ず今日いる街の描写。
渋谷は相変わらずひどい人ゴミだ。
この街に来る人の何人が目的を持ってて、何人が本当に用事があるんだろうか。そういう私も、誰との待ち合わせもなく来たんだけど。
東京の美容学校を卒業して、東京の美容室に就職して半年。
私は昨日そこを辞めた。
あんなクソみたいなところでも涙がでた。
何で泣いているのかわからないけど、たくさんの後悔に襲われた。
今自分が世の中でどの立場にいるか考えたらぞっとした。
俗に言うNEETだ。
大人になるとはこういうことだったのか。
仕事を辞めたら世間から除外されるのだ。
だから今日渋谷にいても、自分だけ浮いている気がした。
主人公は音を失う。
登場人物はいなくなった。
真っ白。
そして急に襲ってくる。
どっと現実が。
ププーっと車のクラクションがなった。
音が戻ると涙がこぼれた。
私は取り残されてしまったのだ。
この流れが早い街の中、一人だけこの流れに乗れなくなってしまった。
だからせめてもの流行りにのる。
お気に入りの服屋に入っていつもと同じような服に目が行く。
手にとってあわせる。
鏡の前に立つと、服は似合わなかった。
自分の顔を見てびっくりした。
生気を失った顔は青白く、クマが深く入っていた。
なんだか恥ずかしくなって服屋を出た。
早く家に帰ろう。
行き先はなくても、帰る家くらいはある。
とにかく、迷わないように。歪んだ街に惑わされないように。
とにかく家に帰ろう。




