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王都の夜間未受理窓口 〜出せなかった願いを受理したら、人生が少しだけ書き換わりました〜  作者: swingout777


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第33話 公文書開示式典

「受け付けます」


 リディアがそう言った瞬間、中央記録広間に現れた小さな受付台――暫定未受理再審査卓の上で、白い紙が淡く光った。


 証言申出書

 差出人:王宮侍医補佐 匿名希望


 余白には、一文。


 アレリア殿下に出された薬の記録を、私は見ました。


 広間の空気が凍りついた。


 ミリア王女は、王女救済願の原本を抱いたまま動けずにいた。


 ノアは静かに台帳を開いている。

 カイルは記録係席でペンを握りしめている。

 イリスは、ミリアの背中に手を添えたまま、息を殺していた。


 ローディス・カイルは、ゆっくりと立ち上がった。


「匿名の紙を、公開審理の場で扱うつもりか」


 その声は低く、冷たい。


「匿名の証言など、いくらでも捏造できる。受け付ける価値はない」


 リディアは、証言申出書を見つめた。


 たしかに、匿名のままでは危うい。

 誰が書いたのか分からなければ、責任も確認もできない。


 だが、匿名でなければ出せなかった書類もある。


 助けを求める人が、最初から名を出せるとは限らない。

 名前を出した瞬間、職を失う人もいる。

 閉じ込められる人もいる。

 口を封じられる人もいる。


 夜間未受理窓口は、そういう声を受け取ってきた。


 でも、ここは昼の広間だ。


 ここでは、夜のようにただ受け取るだけでは足りない。


 制度として、どう扱うかを決めなければならない。


 リディアは、アレリア王女の改革案を見た。


 その第三条。


 未成年者、奉公人、寡婦、孤児、病者その他、自ら申し立てることが困難な者に関する書類については、本人確認を省略してはならない。


 本人確認。


 ただし、本人を危険に晒すための確認ではない。


「匿名のまま完全受理はできません」


 リディアは言った。


 ローディスの口元が、わずかに動く。


 勝った、と思ったのかもしれない。


 けれど、リディアは続けた。


「ですが、証言保護付きの仮受付はできます」


 広間がざわめいた。


 カイルが顔を上げる。


「証言保護付き……」


 リディアは頷いた。


「差出人が王宮侍医補佐であることを再審査卓の内側で確認し、公開記録では匿名のまま扱う。本人の安全が確保されるまで、氏名は封じる」


 ノアが静かに言った。


「夜間窓口でいう仮受付に、昼の証人保護を加えた形ですね」


「はい」


 リディアは、再審査卓の上に置かれた新しい印を見た。


 再審査


 まだ生まれたばかりの印。


 昼の印。


 カイルが震える手で帳簿に書いた。


 証言申出書、証言保護付き仮受付を提案。

 差出人の安全確保まで、公開記録上は匿名。

 再審査卓内で本人確認を要する。


 ローディスが言った。


「そのような手続きは存在しない」


 リディアは、静かに答えた。


「今、暫定再審査卓の手続きとして記録します」


「勝手に作るな」


「勝手ではありません」


 ミリアが、声を上げた。


 細い声だった。


 けれど、広間に届いた。


「その人は、怖くて名前を出せないのだと思います」


 ローディスがミリアを見る。


「殿下。匿名証言は危険です」


「知っています」


 ミリアは、原本を胸に抱いた。


「でも、怖くて名前を出せない人の言葉を、最初から捨てていたら、私は十年前と同じことをしてしまう」


 その言葉に、広間が静まった。


 ミリアは続けた。


「本人確認は必要です。でも、本人を壊すための確認ではなく、守るための確認にしてください」


 リディアは、胸が熱くなるのを感じた。


 これは、アレリア王女の改革案が今この場で生きている瞬間だった。


 ミリアはもう、守られるだけの王女ではない。


 制度の言葉を、自分の痛みから作ろうとしている。


 ヴァルター・グレイスが低く言った。


「記録監査局として、その方法は可能です」


 ローディスが鋭く振り向く。


「局長」


「証言者の氏名を封緘し、再審査卓の構成員のみが確認する。公開記録では職位のみを記載する。正式制度にはありませんが、王宮内部告発の仮保護手続きに類似例があります」


 カイルが記録する。


 ローディスは、唇を引き結んだ。


「……好きにすればいい。だが匿名の紙だけでは、薬の記録など開けられない」


 リディアは、証言申出書の余白を見た。


 そこに、まだ文字が浮かんでいる。


 アレリア殿下に出された薬の記録を、私は見ました。


 薬の記録。


 それが残っているなら、探すべき場所がある。


「カイルさん」


「はい」


「王宮の薬剤記録は、どこに保管されますか」


 カイルは一瞬、王宮側の席を見た。


 それから答えた。


「通常は侍医局です。ただし王族に処方された薬は、侍医局記録、王宮総務記録、薬剤庫払出記録の三つに残ります」


「三つ」


「はい。処方した侍医、承認した部署、実際に出した薬剤庫。それぞれの記録です」


 リディアは、胸の中で整理した。


 一つなら消せる。

 二つでも書き換えられるかもしれない。


 だが、三つの記録が同時に存在するなら、どこかに矛盾が残る。


 ノアが言った。


「証言申出書が指す薬の記録を照会するには、記録名か記録番号が必要です」


「匿名の方は、それを書いていませんか」


 リディアが紙を見つめると、証言申出書がかすかに震えた。


 余白に新しい文字が浮かぶ。


 春月十一日夜。北棟特別処方記録。眠花液、白鈴草抽出剤、赤月根粉末。


 広間にいた侍医長が、はっきりと顔色を変えた。


 その変化を、リディアは見逃さなかった。


 カイルもすぐに記録する。


「春月十一日夜。北棟特別処方記録。眠花液、白鈴草抽出剤、赤月根粉末」


 ミリアが小さく息を呑む。


「春月十一日……」


 イリスが彼女を支える。


「殿下」


「お姉様が亡くなったと発表された前の夜です」


 その一言で、広間が重く沈んだ。


 ヴァルターが侍医長を見る。


「セーヴァス・ローエン侍医長。該当記録に心当たりは」


 侍医長セーヴァスは、硬い顔で答えた。


「王族の処方記録は機密です」


「存在は否定しないのですね」


 リディアが問うと、侍医長の視線が鋭く向いた。


「薬の名前だけで不正を語ることはできない。眠花液も白鈴草も、鎮静に使われる通常薬です。赤月根粉末も、痛み止めとして使われることがある」


 カイルが記録する。


 侍医長は不快そうに目を細めた。


「記録係、逐一書く必要はない」


「あります」


 カイルは答えた。


 その声は震えていたが、止まらなかった。


「薬剤名の説明は、審理上必要です」


 リディアは、侍医長の言葉を聞きながら考えた。


 それぞれは通常薬。

 だが、組み合わせや量によって意味が変わるのかもしれない。


 匿名の侍医補佐は、それを見たから書いたのだ。


「処方量は分かりますか」


 リディアが証言申出書へ問いかけるように言うと、紙の端がまた光った。


 文字が浮かぶ。


 眠花液、通常量三倍。白鈴草抽出剤、併用注意。赤月根粉末、記録外追加。


 広間がざわめく。


 侍医長が席を立った。


「その紙は危険です。薬剤の知識がない者が見れば、誤解を招く」


 リディアは、侍医長を見た。


「では、記録を開示して確認しましょう」


 その言葉に、侍医長が黙る。


 ローディスが低く言った。


「王族の薬剤記録は、公文書開示の対象外だ」


「公開審理の関連資料です」


 リディアは返す。


「アレリア王女が病死だったのか、薬によって意識を奪われていたのか。この審理の中心に関わります」


「開示できない」


「できない理由を記録してください」


 リディアが言うと、カイルがすぐにペンを構える。


 ローディスの顔が険しくなる。


 その時、ヴァルターが静かに口を開いた。


「公文書開示式典を求めます」


 広間が、一瞬で静まり返った。


 リディアは、聞き慣れない言葉に眉をひそめた。


「公文書開示式典……?」


 カイルが小さく説明する。


「王宮、庁舎、貴族院の記録が互いに矛盾した場合、原本を広間中央で開示し、封印、署名、処理痕を公開確認する古い手続きです」


「式典なのですか」


「名目上は、王国の記録が正しく保たれていることを示す儀式です。でも、実際にはほとんど行われません。開けば、隠していた矛盾まで出るからです」


 リディアは、ヴァルターを見た。


 彼は記録卓の薬剤証言を見つめている。


「薬剤記録は三系統に残ると言いましたね」


「はい」


 カイルが答える。


「侍医局、総務記録、薬剤庫払出記録」


「ならば、三つの公文書を同時に開示すればよい」


 ヴァルターは言った。


「どれか一つを隠す余地をなくすために」


 ローディスが冷たく言う。


「王族の病状に関わる記録を、公開の場で晒すつもりか」


 ミリアが顔を上げた。


「私は、開示を求めます」


 広間がざわめく。


 ローディスはミリアを見た。


「殿下、これは第一王女殿下の尊厳にも関わります」


 ミリアの手が震える。


 その言葉は効いた。


 アレリア王女の尊厳。

 姉の病状や薬の記録を人前で開くこと。


 それはミリアにとっても痛い。


 リディアは口を開こうとしたが、ミリアは自分で答えた。


「尊厳とは、隠すことだけではありません」


 声は震えていた。


「お姉様が、何をされたのか。何を訴えようとしていたのか。それを病死の一言に閉じ込め続けることが、尊厳を守ることだとは思えません」


 イリスが、そっとミリアの背を支える。


 ミリアは続けた。


「ただし、必要な範囲だけを開示してください」


 リディアは頷いた。


「暫定再審査卓として、開示範囲を限定します。春月十一日夜、北棟特別処方に関する三記録。薬剤名、処方量、承認者、払出者、対象者確認のみ」


 カイルが急いで記録する。


「公文書開示式典、開示範囲限定。春月十一日夜、北棟特別処方関連記録。薬剤名、処方量、承認者、払出者、対象者確認」


 ヴァルターが頷く。


「妥当です」


 ローディスは、低く言った。


「私は認めない」


 ヴァルターは静かに返す。


「あなたは当該通達の発出者であり、王女救済願原本に記された関係者です。単独で開示を拒否する権限はありません」


「誰が開示権限を持つ」


 ローディスの声に、ヴァルターは記録卓を見た。


「本来は王宮総務卿、記録監査局長、対象王族の同意」


 ミリアが、すぐに言った。


「同意します」


 ヴァルターが続ける。


「記録監査局長として同意します」


 ローディスが冷たく笑う。


「総務卿が同意しなければ足りない」


 その時、王宮側の席から、別の声がした。


「臨時代行を立てることができます」


 立ち上がったのは、王宮の年配の女官だった。


 リディアはその人を知らなかった。


 だが、広間の反応から、高い地位にいる人物だと分かった。


 女官は静かに名乗った。


「王宮式典管理官、エレノア・ヴィスです」


 カイルが慌てて記録する。


 エレノアは、ローディスへ深く一礼した。


「公文書開示式典は、式典管理官の監督下で行われます。総務卿が関係者として異議対象となっている場合、式典管理官が開示手順を代行できます」


 ローディスの顔が硬くなる。


「古い規程だ」


「現行規程です」


 エレノアは静かに答えた。


「使われていないだけです」


 広間に、かすかなざわめきが走る。


 使われていないだけ。


 それは、アレリア王女の改革案にも通じる言葉だった。


 制度は、完全に存在しなかったわけではない。

 ただ、使われないようにされていた。


 リディアは、エレノアを見た。


 彼女は、リディアにほんの少しだけ目礼した。


 その目には、長く待っていた人のような静けさがあった。


 カイルが読み上げる。


「王宮式典管理官エレノア・ヴィス様、公文書開示式典の代行監督を申し出」


 エレノアは、中央へ進み出た。


「王宮、庁舎、貴族院の記録が相違し、かつ王族本人の同意があり、記録監査局長が開示を要すると認める場合、公文書開示式典を開式できます」


 彼女は、ミリアへ向き直った。


「第二王女殿下。開示に同意されますか」


 ミリアは原本を抱きしめた。


 少しだけ目を閉じる。


 きっと、姉のことを思っている。


 そして、目を開けた。


「同意します」


「記録監査局長」


 ヴァルターが答える。


「開示を要すると認めます」


「再審査卓」


 エレノアの視線がリディアへ向く。


 リディアは、再審査卓に手を置いた。


「関連資料として開示を求めます」


 エレノアは頷いた。


「では、公文書開示式典を開式します」


 広間全体に、低い鐘の音が響いた。


 一度。

 二度。

 三度。


 中央記録広間の天窓から、昼の光がまっすぐ記録卓へ落ちる。


 再審査卓の隣に、三つの台座が現れた。


 左に、侍医局記録。

 中央に、王宮総務記録。

 右に、薬剤庫払出記録。


 まだ書類はない。


 エレノアが、右手を上げる。


「開示対象。春月十一日夜、北棟特別処方記録」


 台座の上に、三つの封筒が現れた。


 それぞれ封蝋がされている。


 侍医局の紋。

 王宮総務卿室の印。

 薬剤庫の印。


 広間が息を止めた。


 エレノアが言う。


「封印確認」


 カイルが記録する。


 ヴァルターが封印を確認する。


「侍医局記録、封印有効。総務記録、封印有効。薬剤庫払出記録、封印有効」


 侍医長セーヴァスの顔は青ざめていた。


 ローディスは表情を動かさない。


 だが、その手は、白い手袋の内側で強く握られているように見えた。


 エレノアが言った。


「開封」


 三つの封筒が同時に開いた。


 紙が台座の上に広がる。


 リディアは息を止めた。


 まず、侍医局記録。


 対象:第一王女アレリア殿下

 症状:不眠、動悸、精神高揚

 処方:眠花液 通常量

 処方者:侍医長セーヴァス・ローエン


 次に、王宮総務記録。


 対象:第一王女アレリア殿下

 処方承認:北棟特別鎮静処置

 眠花液 通常量三倍

 白鈴草抽出剤 併用

 承認者:王宮総務卿室 ローディス・カイル


 広間がざわめく。


 侍医局記録と総務記録が違う。


 最後に、薬剤庫払出記録。


 払出先:北棟特別処置室

 眠花液 三倍量

 白鈴草抽出剤 規定量

 赤月根粉末 記録外追加

 受領者:侍医補佐署名あり

 追加指示:総務卿室口頭指示


 リディアの心臓が強く打った。


 匿名の証言申出書に書かれていた内容と一致している。


 眠花液、通常量三倍。

 白鈴草抽出剤、併用。

 赤月根粉末、記録外追加。


 ミリアの顔から血の気が引いた。


「お姉様に……」


 声が震える。


「そんな量を」


 侍医長が立ち上がる。


「当時の殿下は興奮状態にあり、鎮静が必要だった」


 カイルが記録する。


 ヴァルターが、薬剤庫記録を見つめて言った。


「侍医局記録では通常量になっています。総務記録、薬剤庫記録では三倍量です」


 セーヴァスの顔が歪む。


「現場で調整があった」


「なら、侍医局記録を修正すべきでした」


 リディアが言うと、侍医長は彼女を睨んだ。


「素人が薬を語るな」


「薬の効能ではなく、記録の不一致を指摘しています」


 リディアは返した。


「そして、赤月根粉末は侍医局記録にも総務記録にもありません」


 薬剤庫記録だけにある。


 記録外追加。


 総務卿室口頭指示。


 ローディスは静かに言った。


「赤月根粉末は、痛み止めとして使われる。違法薬ではない」


 ヴァルターが答える。


「問題は薬の存在ではなく、記録外追加と口頭指示です」


 エレノアが式典管理官として告げる。


「三記録の不一致を確認。侍医局記録と総務記録の処方量相違。薬剤庫払出記録に、記録外追加薬剤あり」


 カイルが声を震わせながら読み上げる。


「公文書開示式典により、春月十一日夜北棟特別処方記録の不一致を確認」


 広間に、重い沈黙が落ちた。


 ミリアは、原本を胸に抱きしめた。


「私は、薬の匂いがしたと書きました」


 小さな声。


「お姉様は、眠っているようだったと」


 誰も、その言葉を悪夢とは言えなかった。


 公文書が開いている。


 薬の記録が、目の前にある。


 リディアは、ミリアの隣に立った。


「ミリア殿下の証言は、薬剤記録と矛盾しません」


 カイルが記録する。


 リディアは続けた。


「王女救済願原本、匿名証言申出書、薬剤庫払出記録、王宮総務記録。すべてが同じ夜を指しています」


 ローディスは、まだ沈黙している。


 その沈黙は、肯定ではない。

 だが、否定でもなかった。


 再審査卓の上で、証言申出書が光った。


 余白に新しい一文が浮かぶ。


 私は、名前を出すのが怖かった。けれど、薬は記録に残っています。


 エレノアが言った。


「証言者の本人確認を、式典管理官立会いで行います。公開名は伏せます」


 ヴァルターが頷く。


「記録監査局も立ち会います」


 リディアは、証言申出書に仮受付印を押した。


 証言保護付き仮受付


 昼の広間で、その印が紙に沈む。


 夜の窓口でしていたことが、昼の手続きになった。


 ローディスが、ようやく口を開いた。


「薬の記録に不一致があったとしても、それはアレリア殿下の死因を証明しない」


「はい」


 リディアは答えた。


 広間が少しざわめく。


「これだけで、すべてが証明されたとは言いません」


 彼女は、公文書開示式典で現れた三つの記録を見た。


「ですが、病死として処理された記録に重大な不一致があることは確認されました。ミリア殿下の救済願を、幼い王女の混乱として片づけることはできません」


 ヴァルターが静かに言う。


「王女救済願は、正式に再審査対象とすべきです」


 エレノアも頷く。


「公文書開示式典の結果、再審査の必要を認めます」


 カイルが読み上げる。


「公文書開示式典結果。王女救済願、正式再審査対象へ移行」


 その瞬間、王女救済願の原本が強く光った。


 紙の上に、新しい印が浮かぶ。


 正式再審査


 ミリアの目から、涙が落ちた。


「お姉様……」


 リディアは、静かに息を吐いた。


 まだ終わりではない。


 アレリア王女が何をされたのか。

 誰が命じ、誰が従い、誰が見過ごしたのか。

 これから調べなければならない。


 でも、王女救済願はもう、悪夢でも療養記録でもない。


 正式な再審査対象になった。


 昼の王宮で。


 公文書の前で。


 その時、アレリア王女の改革案が、淡く光った。


 余白に一文が浮かぶ。


 開示とは、罰するためだけにあるのではありません。


 続いて、もう一文。


 隠されたものを、二度と一人に背負わせないためにあります。


 ミリアがその文字を見て、両手で口元を覆った。


 リディアも目を伏せた。


 公文書開示式典。


 それは本来、王国の記録が正しく保たれていることを示す儀式だったのだろう。


 けれど今日、それは違う意味を持った。


 正しく保たれていなかった記録を、正しく見つめ直すための儀式になった。


 ローディスは、記録卓の奥で静かに立っていた。


 その顔から、さきほどまでの冷静さは消えていない。


 だが、その足元には、薬剤記録から伸びる光が届いている。


 逃げ道は、少しずつ狭まっていた。


 カイルが、震える声で言った。


「次の審理項目です」


 広間が静まる。


 カイルは、記録台帳を見つめた。


「王宮総務卿室による、記録外追加指示の経緯確認」


 リディアは、ローディスを見た。


 ミリアは、原本を抱いて立っている。


 ノアは、謝罪文と台帳に手を置いた。


 ヴァルターは記録監査局長として、エレノアは式典管理官として、それぞれの位置に立っている。


 夜間窓口は、もう闇の中だけにはなかった。


 昼の王宮に、持ち込まれている。


 そして、次に読まれるのは、薬を出させた者の記録だった。


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