第10話 景品目当て
オ-ロラの遠吠えの声もか細くなっている。団地の住民もきっと長くないだろうと噂し、ヒナタの焦りも増していた。
そんなある日、ヒナタは団地の掲示板で『市民運動会』のポスターを見かけた。市民運動会そのものはヒナタも知っていたが、参加しようなんて思ったこともない。しかし今回は『入賞者には豪華賞品』の文字が輝いて見えた。申込書は管理人までとマジックインキで書き足してある。豪華賞品に商品券でもあれば、上手くすればドッグフードが買えるかもしれない。ヒナタは期待して管理人室を訪れた。
「すみませーん」
暫くして管理人さんが顔を出した。
「あれ?えっと」
「掛川です」
「あ、そうそう、掛川さん」
「あのう、ポスター見たんですけど、市民運動会の申込みってここでするんですか?」
「ああ、申込書を預かって自治会から市役所に出してもらうんよ」
「えーっと、種目とかはいろいろあるんですか?」
「うん。パンフレットあげるわ。いろいろあるから選べるで。あんたやったら若いからいいとこ行くんちゃう?」
「あの、豪華賞品って何ですか?」
「はっはっは、そっちかい。種目によってちゃうからな、そこに書いてあるわ」
ヒナタは大会プログラムと申込書を貰って帰り、早速睨めっこした。
種目には団体競技と個人競技があった。リレーや綱引き、玉入れは団体競技で、地区ごとや有志のチームで行われる。それに対して100m走や障害物競走は個人参加が可能である。種目にはそれぞれスポンサーがついていて、基本的にそのスポンサーが提供する商品がもらえるようだ。スポンサーも参加者も年々減少傾向にあるが、新しく出店したお店などは狙われるのかスポンサーに登場し易い。
ヒナタには期待があった。ゴールデンウィークに開店したペットショップ。店のアピールの為にも出ている可能性が高い。探してゆくとやっぱりあった。種目は二人三脚!はあ、どうせなら四脚にした方がペットショップらしいのに とヒナタは思ったが、三人四脚って難しそうだし参加者も少ないのだろう。1等賞の商品は…『ワンちゃんお迎えセットまたはドッグフード1年分、なお、ネコちゃん用に変更もできます』とある。ビンゴだ!これはやるしかない。狙え1等賞。ヒナタは闘志を湧き立たせた。
二人三脚は1人ではできない。どうしよ。お母さんに頼んでみるか。待てよ。お母さんはオーロラについては可もなく不可もなくだが、ヒナタが峯婆ちゃんと仲良くするのは余りいい顔していない。オーロラを峯婆ちゃんに託すのが目的とあらば難色を示す可能性がある。
そうや、コカゲがおる!ヒナタは名案だと思った。コカゲはスポーツが得意かどうかは判らないが、背は同じ位で左利きだ。脚だって左利きの可能性が高い。ヒナタは剣道での利き足の違いを思い出した。対面する場合利き足が同じだと正常に組めるが反対側が利き足だと同じ方向に飛んだりするので却って戦いづらい。しかし二人が並んで正面向けば、外側は両方が利き足になる。勝機はある。
よしコカゲを口説こう。不思議と感覚が合うコカゲ。二人三脚の相方にはうってつけではないのか。ヒナタは申込書の名前欄に、ヒナタの他に松永コカゲと書いて、早速管理人の大野に手渡した。
翌朝ヒナタは横断歩道でコカゲを待ち受けた。
「おはよう。あれ?ヒナタなんか浮かれてる?」
「判る?なんでか判る?」
「オーロラ飼えるようになったん?」
「惜しい!でもオーロラに関係する事やで」
「ふうん」
「コカゲ、市民運動会で一緒に二人三脚出よう!」
「へえ?なにそれ急に。だいたいオーロラがどう関係するんよ」
「へっへー、あのな、二人三脚の1等賞の商品がな、ドッグフード1年分やねん。ほら半年くらい前にペットショップできたやろ、あそこがスポンサーの競技やねん。せやからドッグフードや」
ヒナタは得意げに言った。
「せやけど、私二人三脚なんかした事ないし自信もないし、ヒナタみたいに敏捷違うし出来へんわ」
ヒナタはコカゲの両肩を掴む。
「大丈夫、松永さん。コカゲ左利きやから丁度ええねん、な、判るやろ、効き足が二人の両脇に来る訳やから速い筈や。タイミングはちょっと練習したらすぐ合うようになるって。だってあたしとコカゲやもん」
「そうなん?」
コカゲがか細い声で抗議するがヒナタは意に介さない。
「な、今日行ける?モミジ公園で練習しよ。大丈夫やって、あたしがついてるし。あたし今日部活休みやから終わったらすぐモミジ公園で待ってる。な。頼んだよ」
コカゲは朝から懲役刑の宣告でも受けたような重い気分だったが、結局ヒナタに押し切られた。
放課後のモミジ公園。コカゲはちゃんとやって来た。
「だってヒナタに言われたら来んとしゃあないやん。ヒナタ一人にする訳にいかへんし」
ブツブツ言うコカゲの足をヒナタはどこから持ってきたのか鉢巻で自分の足と縛った。
「えーっと、まずは軽くあのベンチまで。声掛けていくよ。イチニイチニで外・中の順番な」
「うん、外からやな」
「行くで、せーの、スタート!イッチ ニ イッチ ニ…」
コカゲもやってみると結構楽しかった。不思議やな。ちゃんと走れてる。合うもんやな。コカゲは少し考えを改めた。
ヒナタは自分の予想が大当たりと満足していた。解る解る、コカゲのペース。手に取るように解る。そしてあたしのペースとぴったしや。
「よーし、ちょっと速くしてみよか」
ペースを上げても二人の動きは乱れない。相思相愛や。ヒナタには峯婆ちゃんの姉妹と言った言葉が蘇る。本当に姉妹みたいに合うな。その後も二人は1時間以上走り続けた。




