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Realive  作者: ichita
5/20

5話:崩れる記憶

・ージュン


15分のインターバルが再び訪れる。先ほど目の前で見た、悠也が炎に包まれていく光景が、頭の奥で何度も何度も再生される。


俺の脳裏に、過去の記憶がじわじわと滲んでくるような感覚に襲われる。


いや、違う。俺は何も。


浮かび上がろうとするものを必死に拒否しようとするような。苦しい。息ができない。涙も出ない。

焦げ臭くて、周囲の全てが、ゆっくりと溶けていく。テレビも、机も、扉も、屋根も。

――違う違う、俺は……そんなつもりじゃなくて!

記憶を消そうとするように首を何度も横に振る。気づけば俺は、水の入ったペットボトルへと手を伸ばしていた。無意識に口をつけ、ひと口飲む。

冷たい。どこまでが安全か分からないが、ペットボトルは普通の水だった。


……このふざけた処刑番組を終わらせるには、出口が必要か。もしくは、処刑の装置を破壊する。―いや、現実的じゃない。どこかに、どこかに希望が……。 もう少しこの施設を探ったりしないと考えは浮かばないだろうが、正直二人の犠牲者を見てしまって体が動かない。

みんなで助かりたい、クラスメイトだって、タクヤだって居る。だから助かる方法を見つけて、みんなでまた学校で会ったり、外で遊んだり。

考えようとすればする程、脳にはあの赤い炎が映し出されてしまった。



・ーペー君


処刑を2人も見たら、流石にいつものノリは続かへんわ……。楽屋のソファに大の字で寝転びながら、天井を見つめてつぶやいた。

「はー、めいるわー」

一応声に出す。静けさなんか、耐えられへん。こうやって口に出してへんと、自分が潰れてしまいそうになるから。

次、炎に包まれるのは俺かもしれん。電流でビリビリされるのも、俺かもしれん。恐怖が確実に、じわじわと、内側から湧き上がってきてる。

あぁ、炎かぁ、なんかそれだけは嫌やわ。

「……あかんわ、よし、誰かに絡みに行こ」

ただの無計画は身を亡ぼすに近い、ってな!なーんて!

「ってもう俺死んどるんやったわー!」

……笑いも反応もない部屋から、逃げる様にさっさと出て行った。



・ータクヤ


トイレで顔を洗う。冷水が皮膚に染みる。

気を抜くな。乱れるな。

熱くなれば、死ぬ。黙れば、死ぬ。

もう死んでいるだなんて実感はない、だからこそ死の恐怖があるんだ。

“視聴者の判断”だなんて、こんな理不尽なゲームに公平なんて存在しない。

配信者のよーすけ。顔で票を稼ぐジュン。媚びる俊。場の空気を壊すペー君。

―そして、何かを隠している猫川。次に脱落するのは、多分決まっている。だが、それでも油断はできない。そう、気を抜いた瞬間

――「……!」

トイレから出ると、目の前にいたのはペー君だった。

「何の用だ?」

「そんな警戒せんといてもええやんか~。自分こそよう立ち歩いてるな?」

「そっくりそのまま返してやろうか」

「おーこわいこわい。……なぁ、ちょっと話あんねんけど」

目を細める。

――裏で組もうって話だろ?口に出さずとも読めていた。

「俺は興味ない。他を当たれ」

「ほーん、流石、頭回ってそうなやっちゃな。味方につけたら強い思ってんけどな~。ま、しつこくせんとくわ」

俺は時間が惜しい。こんな無意味な会話を続ける暇はない。俺は黙ってその場を通り過ぎた。

「何や、せっかちさんやな~、どこフラつくねん」

後ろから聞こえる声はもう俺の耳には届かなかった。



・ーよーすけ


ルンルンと鼻歌交じりに鞄に入っていたスマホを取り出した。この隙間時間にやばい状態に巻き込まれました、なんてやったらバズるかも。

だが、いくら電源ボタンを押してもつかないし、モバイルバッテリーも反応しない。

スマホが使えないとわかった瞬間、それを床へと放り投げた。目の前にあった楽しいカラフルな景色が吹っ飛んで、現実の色へと視界が変わる。

…はあ?クソみたいな地味な世界。

電源の入らないスマホ。

こんな使えない道具、俺にはもう必要ない。スマホと一緒につけていたマスコットも床を転がる。

―俺の配信ができないんじゃ、やる事ないじゃん。

あぁ、もう、これだから何もない世界はつまんないんだ。俺にはコレが必要なの、相棒なの。ぬいぐるみよりも、コレ。ポケットに入れている別のウサギの小さいポーチを取り出し、小さな袋を取り出すと机にあった水でいっきに流し込んだ。ふう、と息を整える。鞄の中には撮影で使っているぬいぐるみがいくつ入っていて、その1つを持ち上げる。気まぐれに投げたり眺めたり。

ふと体を伸ばして立ち上がり、鏡の前に立つ。

「んー。さて、じゃあ俺もふらついてみよーかな。……!!」

鏡越しに見えた自分の瞳。

その奥に、何か覚えのある視線を感じた。どこからともなく。ゾクリと、背筋が凍る。反射的に一歩下がった拍子に、転がっていたスマホを蹴り飛ばしてしまっていた。

「誰……?」

それは見間違えではなく、実態のある、人間だった。




―――MCが明るい声で言う。

「さぁ~~~~!第3ラウンドの時間がやってまいりましたぁ~~~っ!!」

スタジオにド派手な照明と音楽が鳴り響き、椅子が再びライトに照らされる。


『早く始めろ!』

『待ってました!!』

『次は誰が落ちるの!?』

『推しは無事でいて!』


それぞれの参加者が椅子に向かい、大人しく腰を下ろし、再び拘束されていく。

しかし、1人だけ――猫川がその場に立ち尽くしていた。

皆がすでに座り終え、視線が集まる。


「……おい、猫川?」

俺は慌てて声をかけるが拘束されて動けず、身を少しだけ乗り出すことしか出来ない。それも気持ち程度だ。


MCが優しく、だが冷徹に言う。

「あと1分以内に着席しないと、強制脱落とさせていただきま~す!」


「おい、猫川、まずは座ろうぜ」

続けて言おうにも全く聞く耳を持っていないように、ただ固まって床を見ている。

頼む、頼むからこれ以上死んでほしくない。このMCが言っている事は多分、マジだ。

お願いだから脱落にはならないでくれ…!


コメント欄はざわつく。


『何があった?』

『怖い』

『やめとけ猫川』

『さっさと座れよ』

『こいつ終わった残念でしたw』


―しかし猫川は動かない。その沈黙のまま、1分が経過しようとした。


やっと口を開き喋り出した、

「俺、大雅と喧嘩した時、そのまま一緒に土手近くの橋から落ちて、それで、それで!」


その瞬間。 ピピッ……


「一緒に死んッ」 バチンッ!!!!



次の瞬間、猫川の首輪が光を放ち、爆ぜた。

閃光、破裂音、鮮血。そして、炎。拘束していた首輪が直接爆発したのだ。叫ぶ間もなく、猫川の身体だけが、その場で崩れ落ちた。 爆発で崩れた頭がゴロン、と転がる。


突然の事に、一瞬、スタジオ内から音がなくなった。


「猫川っ!!?」


「お~~っとぉ!!ここでまさかの脱落者がっっ!!」

MCの甲高い声が響く。

「ということで!!人数が減ってしまいましたのでー!次回からは番組・後半戦に突入しま~~す!! 明日もお楽しみにぃ~~っ!!」


番組の終わるような明るい曲とパフパフ、といった効果音で盛り上がるスタジオ内。

出演者は、まったく盛り上がっていないどころか、困惑の表情、恐怖にしか包まれていない。


コメント欄はずっと続いている。

『嘘だろ明日かよ!』

『焦らすなよ!』

『何でこんなつまらない死死死』

『ジュンもっと映せ!』

『俊くん推します!』

『よーすけぬいぐるみ配信して~!』

『自爆にスパチャしたるw』


「マジかよ、猫川…そんな死に方…」


拘束具が順番に解除される。椅子を立つと真っ先にタクヤが俺背中を叩いた。しっかりしろ、とでも言ってるんだろう。本当に、あいつが消えたなんて…。信じたくもない。

ただ、拘束具が外れたのには心を撫でおろす。

後半戦、明日、という事は今すぐに番組が続行することはない、という事か。


しかし、目の前であいつが爆発されるのなんて見たくなかった。そうか、大雅と喧嘩して一緒に落ちたという事は、他殺というよりも…事故。

それを最初に猫川は大雅に殺された記憶として浮かび上がって、なすりつけてしまったのか。


普段はそんな奴じゃない。人に罪をなすりつける、悪い奴じゃない。だからきっと、俺たち参加者は"記憶が徐々に鮮明になってきている"のは明らかなんだろう。


他の参加者は、安堵と、恐怖と、疲労に包まれていた。 スタジオが暗くなると、その中から一人だけ場違いな笑い声が響いた。

「わーい綺麗な色だ!!ははは!手が届く!ぴっかぴかでー、お星様がキラキラ、お昼に夜に、こんにちわ~!」

「ん???」

聞いたことのある誰かが狂ったのか各自控室に戻っていく中で、歌っていた。

気味が悪すぎて俺は聞こえないふりをしてさっさとスタジオを後にした…。

こっわ…。

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