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Realive  作者: ichita
18/20

18話:街に刻まれた炎


休むことなく、明るいMCのアナウンスが響き渡った。

「皆さん、お待たせしましたー!ついに決勝戦です!これに勝てば、なんと……ご待望の生き返ることができる!!さらに、……世間からまるごと記憶が消される!この上ない素晴らしい商品です!さぁ、選ばれし二人、最終決戦に挑んでいただきましょう!」


タクヤの席のセットは床へ沈み、俺とペー君は向き合う形になった。


視聴者コメントが次々と流れる。

『ここまで来るとは思わんかったw』

『火事の事故死対決!?』

『どっちにしようかな』

『泥試合きた』

『もうカオス越えてシリアスすぎる』


決勝戦は休憩なし。

しかも討論は、今回だけ特別に十五分。長めに取るという。

俺とペー君は、拘束されたままお互いにぐったりしている。体は鉛のように重く、頭の中はかき回されたみたいに真っ白だった。


MCはそんな俺らを一切気にせずハイテンションに幕を開ける。

「それでは皆様、スパチャのご用意はいいですかぁ!?これで最後、この上ない戦いを盛り上げていきましょう!!!☆」


ただ、どこかで遠く聞こえる変に明るい決勝戦スタートの合図だけは、確かに耳に入ってきた。


視聴者は期待をしている。

『キメてくれ』

『スパチャ投げるから』

『ここで脱落する奴は弱者w』


「ほな最終決戦……」

先に口を開いたのはペー君だった。

「ちゃんとお互い暴露しようや、ジュン。言うても俺はさっきも言った通り、事故やねん。火事。そんでな、アンタも家事なんやろ?もう少し詳しく教えてくれへんか?」

「お、俺はさっき言った通り火事で……」


喉がひりつく。

言葉がうまく出ない。 だがそれに反するように、どんどんと鮮明に、頭の中に浮かんでくる。やめてくれ、頭が痛い。

「俺は……俺は……!」

拒絶して頭を振るも、映像は止まらない。思い出したくない。

しかし今までの様に拒んでいた記憶の蓋は、少しずつ開いている。


「同じ火事仲間としてな、お互いに話していこうや」

「お前はどうなんだよ、さっきから俺ばっかりに探り入れやがって!」

「そういうゲームなんちゃうん、最初から」

ゲーム。 視聴者参加型の、狂った番組。

こいつは最初から、これを"ただのゲーム"として参加していたのか。 最初はただのおちゃらけた奴ですぐ脱落すると思ってた。けど、ここまですり抜けてきた。実は誰よりも事情を探って観察して、計算をしていたんじゃないか。

弁当を食おうと言って自分の部屋に集合をかけたのもこいつ。そこできっと俊に交渉をかけられ、更に偶々なのか、そこでよーすけの薬を発見していた。最初からタクヤのうろつきも目につけていた。

俺に…詮索し過ぎると潰れると警告をしたのも、こいつ。誰がどう落ちていくか、予想してたっていうのか。


「思い出した記憶は希望通り話したる。俺は普通に家におったで。そしたらな、ボヤ騒ぎが聞こえてん。最初は気にしてなかったけど、騒ぐ声がでかくなったから外に出たんや。人が仰山おったで?一軒だけやなくて、二軒くらい燃え始めたんや」

俺は話を聞きながら、生唾を飲み込む。 それは、俺の脳裏に浮かぶ映像に……とても近い。

ペー君はそのままモニターも見ず、少し視線を落としながら続けた。

「そしたらな、ぼわーって……もう、ぼわーって!一気に引火していったんや。火事ってあんな早く燃え広がるもんなんやな……。割と遠い位置の家やったから危険性を感じてなかんや。…って、感心してる場合やないわ。……ま、ほんで俺の家にも引火したっちゅーオチやな!って…あぁ…全然落ちてへんし、おもんないわコレ」

途中から声が明るいトーンになり、俺の方へ顔を向けた。

「ほんでや。俺ばっかしゃべってんで。あんたの番や、ジュン」

途端に、声のトーンが低くなる。


俺は額に汗をにじませながら、かすれ声で言った。


「……俺が思い出せてるのは……すでに炎の中にいたこと。周りには家族もいなくて、俺ひとりだけ。炎の中に立ってて。いろんな人が混乱してた。電話かけてる人とか、燃えてる家に向かって叫んでる人とか。いろんな声が聞こえた。……焼けてる臭い、焦げ臭くて、熱くて。俺はその場に居たら、ふらっとして倒れて、息ができなかったのを覚えてる」

自分の視界が揺れ、冷や汗が椅子に落ちた。

ペー君は俺の発言を真剣に聞いているようで、視線が真っすぐだ。

「その場所はどこやったん?家?デパートとかそんなん?」

「家だった、かな。誰かが家に向かって叫んでるから…多分住宅街。それに、家というよりは…もう崩れた家だったかもしれない。家具がもう、焼けてたし崩れてる。…俺の家…じゃない。…あれは……誰の家だ……?」

なんとか自分の中に出てきている映像を再生しては、言語化しようと言葉を並べていく。そして自問自答するように話す。


「なんやねん、やけに歯切れが悪いな。まだ思い出し切れてへんのかいな。いつまでも記憶に蓋しようとしてるから、思い出されへんねや」

ペー君の言葉を聞いて俺は無意識に浅くなっていた呼吸を整える。

「…思い出したくなんかない、苦しい…」

はぁ、と聞こえるようにわざとらしくため息を吐かれる。

「なるほどなぁ、自分の記憶を拒んできた奴ほど記憶の蘇りが遅いんか。…ほんなら納得行くわ。あの悠也っちゅー奴が自殺だって妙に思い出すん早かったし。俊だってわかってて俺に作戦の交渉をしてきた。事実から逃げてる奴の方が後半、不利になる、おもろいゲームやん」


視聴者コメントが流れる。

『仕組みに気づいてる』

『頭よいw』

『そうだったの?w』

『知らなかったーーーw』


俺は唖然とした。そう、だったのか。

今まで俺が嫌だと拒んできたからまだ思い出し切れていない。

もしかしてペー君はこれで全て思い出しているのかも知れない。


「そこまで分かってたのかよ、お前…、なんで共有しなかったんだ?」

「…何でって、アンタ、決勝戦まで来てそれ聞くんか?えらいこっちゃな!まだ頭お花畑してるん?まだ一緒に助かる~って思ってるん?」

「そんな事、ない……!」

首を傾けてペー君は久々に八重歯を出して笑う。

「ジュン、まだ思い出してへんのやろ!そんな顔しとるで。ずっと眉間に皺寄せて、討論の回重ねていっても、自分は思い出せてないって手札出さんで。…ただ隠してるだけかって疑っててんけどな。わかるわ、ジュンは手札を隠してるんやなくて、ただヤダヤダ駄々こねて思い出せてないだけや。まぁどちらかというと、嘘をつけない馬鹿正直者の方が近いかもしれへんな」

「……っ、そういうお前は本当にそれが全てなのか?やけに口が回ってるけど」

苦し紛れに言葉を返してみるが、ペー君の言ったこと、それは事実で俺はただ拒否して、思い出すのが遅れていただけ。

だから不利になっている。


「ほんまや、これ以上なに言うたらええねんってくらい全部や。別にええで、討論タイムの時間が許す限りは俺は待ってる。ま、その間にタイマーが鳴って、視聴者の投票でどうなるかはわからんけどな」


再び机に視線を落とし、考えてみる。


俺がいた場所。

確かに、あれは……自分の家じゃない。

じゃあ、なんで。崩れた家の中で、俺は立って、悲鳴を聞いて、そして……苦しんで、死んだんだ。

友達の家に行く予定だった?偶然通りかかった?巻き込まれた?


あれは……一軒家が並ぶ住宅地だった。屋根の形も、崩れ方も、はっきり覚えている。あそこに友達の家なんかあったっけ?覚えている限りでは、タクヤの住んでいる近くでもないし、他の友達の家もない場所の様に思える。



視聴者コメントが流れる。

『何これ真剣じゃん』

『真面目すぎるんだけど』

『さっきまでのカオスどこw』

『見応えあるぞ今回』

『聞き入っちゃうんだが』


しかしモニター、コメントなんて、見ている場合じゃない。というか、今は頭の中の映像に夢中で視界にすら入ってこなくなった。

俺は必死に、頭が拒否していた光景を、ひとつひとつ……思い出していた。

あれは……俺が向かった家。自分から向かった。

そこに行ったのは……偶然じゃない。俺の足元はアスファルトを踏みしめて迷う事なく進んでいる。

家からは距離があるだろうが、俺は道にも一切迷っていない。


俺の記憶はまるでその場に居るかのように目の前に浮かび上がっては、映像が揺れて追体験をしているような感覚になっていた。


「なぁ」

ペー君の声で、我に返る。

「アンタ……生き返りたいんか?」

「……どうだろう。まだ、わかんねえ」

「わからんて…、あと10分弱で決まるんやで?いつまで悩んでんねん」

「でも、俺は…大切な友達が、死んでいったのを見た。……あいつを救えなかった。こんな俺が、今さら……」

「アホ晒せや」

ペー君が、鼻で笑った。


「見たやろ、アンタも。今までの人間。自殺した奴、揉み合って橋から落ちてった奴、裏で手ぇ組んで演技で同情かおうとした奴、求められたくてトリップして玩具になった奴、きっしょいストーカーして憧れを自分の物にした奴……。自分が救えなかった言うて、正義のヒーローぶって、同情買わせるなドアホ。見苦しいわ」

「お、俺は…」


言葉が、胸に刺さる。


俺は……ここで自分がやってきたこと、思ってきたこと……結局、全部逃げてた。 逃げ道がないか、救えないか、討論で何か抜け名があって、仕掛けがミスったりして助かったりするかも、なんて…。

討論の結果、他人の運命も、"仕方ない"で片付けて。

表では助けようとか言っておいて、結局、何もできない。綺麗事ばかりで……。


ああ……そうだ。

結局、俺は……自分がやったことが正しいと思い込んでた。

ただのバカなんだ。

今までのみんなが沈んでいった床へと視線を落とす。


その視界から記憶がじわじわと脳を侵食していくように嫌な映像が出てきている。

ふと、脳裏に浮かんだ景色に疑問を抱いた。

「ペー君……お前さ、どこ住んでた?」

「え?……白杜市の方やけど」

「……その辺で、大火事起きたのって……確か、一か所だと思う。俺も……その辺に住んでたから」

「それって……アンタと俺が近くに住んでて、…同じ事故に巻き込まれてたって、事なんか……?」

ペー君は目をまん丸くして何度も瞬きをして動揺している。俺もその事実にまさか、と体が硬直して、一瞬だが息を吸う事すら忘れた。


コメント欄が一気に沸く。

『奇跡?!?!』

『コメント打ってる暇ない』

『はよ続けて!』

『500円でごめんスパチャ投げる』

『手汗とまんねww』


俺はとりあえず同じ言葉を繰り返す。

「同じ、事故かもしれない」

「そんなら、ほんまに俺ら事故で死んだんや…」

力のない声だが、まだ事実が呑み込めていないような声が聞こえた。

「こんな偶然…あるのかよ……」

スタジオは静まり返り、2人は沈黙した。

俺はまた視界が揺らいで俺の周りには記憶という名の映像が見えてくる。


あの日。

俺は自分の家から、少し離れてるけど……同じ市内の、ある家に向かった。

そこが……大火事になったんだった。 父さんも母さんもいない。


俺1人だけで、歩いて向かって。

そして―顔を上げれば、みるみるうちに、燃え広がっていく炎。

最初は……小さかったはずなのに。大きくなるのは……一瞬だった。


パチパチと音が鳴って木が倒れていく。その木は家の屋根を押しつぶして倒れ、屋根が崩れていくかと思えば、柱ごと崩れ、立派に立っていた一軒家は、一瞬で形がなくなった。

時折崩れた何かの破片が飛んできては、掠ってもいないのに温度を感じる。

別の記憶だろうか、この時は思ったよりも臭いとは思わなかった。焚火で嗅ぐような、刺激のない匂い。

それなのに上の方まで煙があがって、空が灰色になった様に染まっていく。


炎って眩しいんだな、って視線を落とした。

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