13話:仲間を信じるほど疑わしい
俺たちはそれぞれの控室に向かう。
何を考えているかわからない、ただ俺はそこまで俊が手回しをしていた事にも知らなかった。そしてあの演技を信じかけた。
あの腕の傷は本当に辛かった物かもしれないが、生き返ろうとして他の出演者を陥れようとしたのも事実。あんなに悩んで最期は…
「落ちるよ」…って?
「俺はどうしたら…」
俺は額に手を当てながら自分の控室へと向かった。
そこには休憩ごとに置いてある新しい水がある。
もしかしたらこれが最後に口にする水かもしれない。控室に入り込むと緊張が一気に解けて、床へどさっと倒れ込む。
拘束でこわばっていた体が少しでも休まればいいけど。脳の疲れだって半端じゃない。他の奴らもそうなんだろうな。精神ギリギリ。
深呼吸をする。すー、はー。
天井を向いて、軽く頭の整理をしよう。
「ぺー君は事故、タクヤも事故、よーすけも事故、俺はナゾ」
みんな事故ってのはおかしい気がする、誰か嘘はついてるだろう。確かペー君は火事、タクヤは交通事故、よーすけは事故だった気がする、と言ってたかな。
俺はナゾと言っておいたけど、多分…事故だとも、思う。
でも自分の中にある、あの記憶の雰囲気は感情は、本当に事故なのか定かではない。
原因は確かに、火事だ。
それだけは、はっきりと思い出した。
でもそれが、事故、他殺、自殺、この区分で考えるとまだ確信がないし、この手札を出すだけで自分の運命が変わってしまうのだ。しかし今のところ一番投票されなさそうな事故、の申告が多い。
本当なのか?俊の様に、何か隠している気もする。
怪しかった事……なんだろう。
ぺー君はトイレで死因を聞いた時の笑顔、わざわざ皆を集めた弁当会。
タクヤは探索を積極的にして、相変わらず警戒をして動いていた。
よーすけは一番わからない。でも初日から変わった事が明確にある。まず情緒不安定すぎる事、討論中にテンションが不安定で、と思えば通常に戻ったり。そして休憩時間を挟むとあいつの顔と体に、傷が増えていった事。なんでだ?
俊みたいに自傷行為を?…ぬいぐるみインフルエンサーだしありえなくもない。さっきの討論で口から少し血が出てたし。
んー、誰も何も繋がらない。俺の考えすぎなのだろうか、残りの3人は特に隠し事なく参加をさせられてる。ただそれだけなのかもしれない。
はぁ。
俺は机にある水を飲み喉を潤した。死んでんのに水が体に染みるぜ…。
「ん、水?」
そういやトイレで顔を洗った後、タクヤからハンカチを借りた時、血の臭いがしたのを思い出した。聞こうと思ったけどスルーされたっけ。
まさかとは思うけど弁当回の時、俺が間違えて覗いてしまった部屋ぬいぐるみまみれ、写真まみれの部屋…。 ナルシスト配信者の控室かと思ってた。
だけどネームプレートを確認してなかったから確定ではない。よーすけ本人の部屋かと思ったが冷静に考えれば、違う。
自分の部屋に自分の写真を飾るか?控室に置けたって事は、鞄にいつも入れてるから取り出して飾れたという事だろ?鞄以外に私物の持ち物はないし。
弁当食う前に、俺の部屋に助けてってよーすけが入ってきて、それを迎えに来たのもあいつ。
タクヤだった。
もしかしたら。あいつ……?
あの狂気の部屋。
あいつの性格とは離れすぎているけど、思い出せばよーすけとは別の学校の癖に、討論とか行動で擁護する事が多かったような。
俺は仲が良い奴を疑いたくない。
だが、疑いはもう確信に傾いてしまっている。
気づけば俺は部屋を飛び出してタクヤの控室をノックしていた。…しかし反応がない。
…あぁわかる、多分タクヤ、お前はあの部屋に……。
「おー、何してんねや」
俺の体はびくっと跳ねた。突然ぺー君が後ろから声をかけてきたのだ。
「また休憩中に人の情報探ってんなあ、ジュン」
「…」
「そないしたら、自分が標的にされるんちゃうん?」
「……お前、やけに冷静だな。最初とは全く印象が違うようにみえるけど」
ぺー君はいつもの八重歯を出しつつも、口角を上げるだけで明るげな印象は消えていた。
「何人脱落したと思ってんねん。そら、俺かて何も考えてないわけやあらへん。あんな怖い光景見とったら……。みんなで最初スタジオに来て、残酷な光景見て、弁当食ったと思ったらあの始末や」
控室の間にある壁に腰をかけた。
「でも、俺はお前が何かを企んで嘘をついているようにも見えない。それにタクヤだって…、…よーすけだけはわからないけど」
「そういう所やで」
冷静な口調で言われる。
「俊が最後に言うてたん、あれ、警告やと思うけど。俺も思ってん。ほら!……一応討論で戦う身としてな!ヘタレとつまらん試合したくないからな!」
俺が顔を顰めていると途中からいつ無理やりいつもの笑顔に戻り、テンションをあげ明るく肩をポンと叩いてぺー君はスタジオに入っていった。そして一歩踏み入れた所で振り向いた。
「詮索しすぎると、自分が潰れるで」
俺はその言葉が素直に沁みた。
これ以上、詮索したら、自分が潰れる。
タクヤの居ない控室。 時間ごとに傷をつけてスタジオ入りするよーすけ。
関係ないわけがない。あの傷をつけているのは多分ー……
「ジュン」
はっとして顔を上げる。
タクヤが横に居た、背が高くて異様に圧がある。
「お、おう!タクヤ。スタジオ入り、するのか?」
動揺しすぎて当たり前の質問をしてしまった。
「あぁ、どうせ時間内に行かないと爆発して処理されるだけだからな」
声が震えてしまうがどうしようもない。何故か今まで信用していたこの存在に恐怖感を覚えていた。友達なんだから、しっかり話し合いたいのも山々だが次の討論タイムまでのリミットがそれを許してくれない。
がちゃり、と奥の控室からふらふらと出てくる、よーすけが出てきた。今度はちゃんとセーターを着ていた。近づいてくると顔の異変がハッキリと視界に入る。
「お、お前、顔!!!」
首をぐらぐらさせ、先程より頬が腫れている。そして何より…
「なんで、唇に…」
口端が三往復くらい、縫われている。まるでぬいぐるみのように。
「はあ、これ?うん、失敗しちゃったっていうか、ちょっと見た目よくないよね。でもそろそろ、俺!こいらの仲間になれそうかも。わかるんだわぁ、リスナーの声が聞こえてくるもん」
ポケットから顔を出しているぬいるぐみを両手で持つと、その場でくるくる周り、その後もぶつぶつと意味のわからない事を言っている。 説明しながらも身体の芯から震えている様子で小刻みに指が揺れている。
言葉を返そうとすると、タクヤが急によーすけの腕を引っ張り、口の縫い目を確認する。そして目をまっすぐに見て、低く小さい声で言った。
「しっかりしろよ」
よーすけは生唾を飲んで頷き、硬直したように立っている。タクヤが腕を開放し背中を押してやると、逃げるようにスタジオへと入っていく。
タクヤはその姿を見下ろすように視線で追った。背が高いから見下ろしてるように見えるだけなのかもしれないけど。その目は異常に見えた。よーすけを上から下まで観察しているような、見張っているような。
そして、俺には何も言うことなく、よーすけの後に続くようにタクヤもスタジオへ向かいながら、「お星様が、キラキラ…‥…」と、聞き取れなくらい小さい声で呟いて歩いて行った。
あの歌…。
暗闇で聞こえてた歌…。
俺は時間ギリギリまでスタジオに入れなかった。自分の額に手をあてて、周りで起きている出来事を理解したくない気持ちでいっぱいで、頭を振った。次は、誰が脱落するんだ。
助けたい、だなんて思っておいて結局誰かを疑って。
もうわからない。
俺の脳も心も、色んな絵の具が混じっていくように、ぐしゃぐしゃになっていた。




