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Realive  作者: ichita
12/20

12話:延長された最期の言葉

MCの声が再び会場に響き渡った

「さあ、ここでまたまたイレギュラーなご提案です!視聴者参加型コーナー、いきましょう!皆さん、今から俊くんの“最期の言葉タイム”!聞きたいかどうか、投票していただきます!!」


瞬間、モニターには視聴者コメントが次々と流れる。


『狂ってて最高』

『聞きたすぎる』

『死ぬ前の声、ゾクゾクする!』

『まってまって、これ聞かない選択肢ある?』

『はいはいスパチャぽいぽい』


MCがニヤリと笑いながら続ける。

「さあ、視聴者の多数決の結果……見事、全員一致!アディショナルタイム、3分間延長決定です!視聴者のスパチャも番組制作班が全部チェックしてま~す!この番組は視聴者の皆様の言葉を大切にしていきますので、引き続きご覧くださいませ☆」



「あははは!最高に狂ってるね、この番組。どこの誰が見てるんだか知らないけどさ、世の中の怖さってのもあるんだよって、教えてあげる♡」


その顔は、まるで何もなかったかのように明るく、にっこりと微笑んでいた。だが、どこか全てを諦めて今までの仮面を捨ててしまった中身のなくなった、抜け殻のようだ。

俺は椅子の上で小さくため息をついた。

「…くそっ…またルール変更かよ……」

悪趣味、としか考えられない。呆れて左右に首を振る。

「へぇ、融通きくんだ、この番組。いいじゃん!!!」

よーすけはルール変更に興味を示して納得しているようだ。急なハイテンションでスタジオに大きく響きわたる。さっきから気分の上下が大きすぎて一貫性がない。もしかしたらこいつも何か企んでるかも。

「逆に考えろ、自分が理不尽にされる場合だってあるんだ」

「燃え滾るじゃん」

「今はやめとけ」

タクヤはよーすけを鎮めるように、横で声をかける。

もう皆ルール変更について、もはや驚きはない。それよりも、この生々しい空気に、視聴者という見ている大勢の誰かが、確実にこの状況を楽しんでいるという事実だけが、胸に重くのしかかってくる。


この空気で口を開くものはいなかった。

俊の脱落が決まった以上、言葉を挟む必要もなかった。もしかしたら"自分じゃなくてよかった"なんて思っているかもしれない。

俺はそうなりたくなかった、でも、正直…助かった自分がいる。それに、胸をなでおろしていたのは確かだった。


俊はカメラに向かって丁寧に頭を下げ、優しく微笑む。

その姿は、弁当を一緒に食べた時の鏡の前でとっていたポーズと重なってしまって、俺は考えるのをやめろ、と自分に対して何度も首を振る。


「それじゃあ、特別サービスってことで。ありがとう、視聴者のみんな」


軽くウインクまでしてから、静かに口を開いた。

「あのねー、秘密、教えてあげる!」

声色は明るく、いつもの俊だった。


「俺、めっちゃモテモテだったから、そいつにも困ってたわけよー。んで、腕切ればさ、"リスカして可哀そう~"って、もっと心配してくれる人が増えるでしょ?最高じゃん、愛されるって。みんなが俺に注目するの。…でも、遠藤は度が過ぎててキモかっただけ」


最初は冗談混じりに語っていたトーンが、徐々に低く、冷たくなっていく。


「馴れ馴れしく接しやがってさ、俺はお前のものじゃないって何度も“心の中で”叫んだよ。"頭の中"ではぶん殴ったよ、踏みつけもしたよ。それでもしつこく声かけてきて…。もう二度とあいつの声なんか聞きたくない、って思ってさ」


俊は少し笑って、それからぽつりと続ける。


「俺だって実際に手を出すとは思わなかったよ?…もう限界でさ。それで、黙らせよう!って思って、薬買った。市販薬でも色々あるんだよね。別に専門薬じゃなくてもさ」


俺は反射的に口を挟んでしまった。

「…薬?」


俊はこくりと頷く。

「うん、目的は“オーバードーズ”。まぁそんな甘いもんじゃないけどね。副作用どころか、内臓ぶっ壊れるくらい大量に用意したんだ。もういっそ、殺してやりたいって思ってさ、苦しむ姿を想像したら楽しみで仕方なかったよ」


タクヤも低く呟く。

「……副作用だけじゃ済まないな。それ、本当に死ぬぞ」

「そーう。でもね、それ以上に、飲ませてる時が最っ高に楽しかったんだあ!!

ちょっと話あるからって放課後に理科室に呼んだら、まんまと来てさ!」

ころころと俊の表情が豹変する。


「苦しそうでさ、“もう飲めない”って拒否るんだけど、髪掴んで無理やり口に捩じ込むの。吐いても吐いても、また飲ませるんだ。鼻つまんで、水と薬を喉仏まで押し込んでさぁ、逃がさないように。謝るから、とか言うからぶん殴ってやったよ。地面に倒れて、蹴ってみたら、すかっとした~!でも汚くて俺の足が汚れちゃった」


その言葉に、俺は背筋が凍った。 人間ではなく物だと思っているのか。


俊は、目を閉じたまま、まるでその時の感触を味わうように言葉を続けた。

「今まで鬱陶しかった奴の、あの苦しんでる顔……ほんっと、よかった」


興奮した顔で天井を仰ぐ。あの俊が、これほどまでに……。


しかし、それも束の間。次に顔を上げた俊は、まるで別人のように真顔に戻っていた。

「……なのに、あいつ。カッター持ってたんだよ。不覚だったな。こっちは痛ぶってたのに、最後の最後で刺されちゃってさ。ポケットから出てきたと思ったら刃が出てくる音が聞こえて、俺、……負けちゃったよね。」

言葉が途切れると、しばしの沈黙。


「一回は腹、二回目もその辺だっけ、痛みでぐらっとして俺の方が床に倒れちゃって」

思い出すように言葉を紡いでいく俊。

「何回刺されたんだろうな、何回俺を切りつけたんだろうな、そこまでの記憶は思い出せねーや。って事は、俺、その途中で死んだんだろうな」

声と静けさ、寂しさがこのスタジオの空気を一体化した。


すると、それまで黙って聞いていたペー君が口を開いた。

「…でもさ、そのアンタの腕についた痛みって、本物の心の痛みやと思うで。これまで我慢してたんやな」


ペー君の声は、驚くほど静かだった。 俊はその言葉に、わずかに肩を震わせると、何も言わずに顔を伏せた。



カメラがその顔を映し出す。

その頬には、演技もしていない本当の俊の顔に、一筋の涙が流れていた。


―――


場違いにMCが明るい声でアナウンスを入れる。

「さあ、アディショナルタイム終了です!視聴者の皆さん、たっぷり楽しんでいただけましたか?」


モニターにはコメントが次々と流れてくる。

『泣けた…』

『鬼畜すぎてわろた』

『正直、同情した』

『逆にあの世で推すわ』

『ヤバい回だったな』


そして、MCがさらに明るく続けた。

「では、お待たせしました!みんなのアイドル俊君にふさわしい処刑を、開始しまーす!!」


俊の椅子が地面の仕掛けと一緒に机から離されカメラ映りが良くスペースがある場所へと移動した。スタジオの床から左右に一本ずつ太い棒が出てきて、頭蓋骨部分を押しつぶせるような、正方形の大きな鉄が内側に1個ずつ付いている。

落ち込んでいた俊が、恐怖で混乱して叫び出す。

「お前らなんて、生き返っても無駄なのに!!!」


ああ、これにプレスされるんだ。

見れば誰もが分かるような仕掛けだった。


「俺の顔がこうなるのも、お前らのせいだからな。もっと見たいとか思ってた奴ら、お前らが原因なんだからな!!!」

俊は恐怖で椅子から抜け出そうと足掻くも、びくともしない。


他のメンバーも演出の違いに目を泳がせ、つい俊の方を見てしまう。

「俺は疑ってるからな!誰も信じない。タクヤ、お前だって隠してる!どうせお前みたいな奴だって裏切るんだろ!」

叫ばれタクヤは返そうとするも、それは小声で俊にまで届く声量にはならなかった。

「とばっちりだ…!」


椅子の機械が動き出しそうな稼働音が聞こえ、暴れても解けない事を悟ると、動きが落ち着き、その視線が俺に向いた。


「ねぇジュン」


「…へ?」


「お前、多分、落ちるよ」


そして、俊はその時が来る、と思ったのか目の前にあったカメラに顔を向け笑顔ではっきりと言った。

「はぁ、素の俺で好かれたかったなぁ」


ガシャンっ!!!!!

左右の正方形の鉄が真ん中をめがけて磁石がくっつくかのように、隙間を埋めた。


スタジオ内に鉄の音だけが響いた。


その真ん中にあった俊の顔は一瞬で粉砕され、機械で押しつぶされた隙間から飛び切り散っていないあのアホ毛と、血肉、瞬時に飛び散った血痕がまだ色鮮やかに流れていく。

首から上がなくなってしまったその俊は、前の脱落者と同じくスタジオの床が開くと、そのまま崩れた顔を見せずに奈落へと消えていった。


『処刑お疲れさまでした!』

『泣いた』

『いいシーンだった拍手』


開いた口が塞がらない。

全ての後継が衝撃的過ぎてどこに目をやっても先ほどのつぶれた瞬間の飛び散る血が頭に蘇る。

「おえ…っ」

隣の席のペー君もしっかり見てしまったのか、吐き気を我慢しているようだ。

タクヤも死に際の言葉で動揺しているのか、めずらしく頭が若干揺れている。

よーすけは…消えていった床をじっと見ていた。


暫く俺も、ペー君も、タクヤも、よーすけも。 スタジオにはただ、途切れた呼吸音だけが残った。




モニターが消え、拘束が解かれ、休憩時間になると照明が落ち、俺たちはそれぞれの控室に向かう。 その暗闇の中で誰かがまた歌っていた。


「ぴっかぴかでー、お星様がキラキラ、お昼に夜に、こんにちわ~、さようならー♪」

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