11話:悲劇のヒロイン
「俊……」
タクヤは目を見開いてぽつりと呟くと、続けてぺー君も口を開く。
「俊、そんな無理せんでええんやで?辛いなら、そっとしまっときや…」
「そう、俺すごく辛い…ねえ、可哀想じゃない?好きだって粘着されてただけなのに…俺が殺されちゃうだなんて……」
カメラから上手い具合に視線を外し、まるでドラマのような絵面だった。 俺は眉を顰めて言った。
「皆知ってたのか…?俊お前、収録始まる前に俺だけには知って欲しいって言ってなかったか?」
ぺー君とよーすけはそれぞれ言う。
「ま、まぁ俺は内緒にはされてたけど、知っとった」
「俺も知ってた…、知ってたけど、今みると、う………わあ、俊が、俊が歪んで、腕がっ、真っ赤で…、そんな、そんな、腕がないよ」
俊の傷をみて喋りながら、意味不明な事を言い出すよーすけ。
「腕はあるが傷だけがあるんだ、よく見てみろ」
タクヤが冷静にフォローの言葉を入れるとぐらぐらしていたよーすけの目は少しだけ俊に戻って、こくりと頷いた。
「ほんとだ、赤い」
俺はタクヤにこの事を知っていたか?とアイコンタクトを送るが、知らない様子で首を横に振って肩をすくめた。タクヤだけが知らなかったらしい。俊はタクヤを頭の回る厄介者として見せなかったんだろう。それも計算の内か。
視聴者のコメントもも盛りあがっていく。
そのコメントが嫌でも俺たちの目に入って、モニターはチカチカと嫌な光を放つ。
目に、そして脳に語りかけるように。
『仕込みじゃん』
『こりゃ今日の脱落決まりかも』
『腕痛いならもう痛む必要なんてないっ!脱落!解決!』
『もう苦しまなくていいんだよw』
俊の望む方向とは逆方向へ進んでいる、コメント。
誰も可哀そう、なんて思っていない。
『可愛かったのに演技おつ』
『裏で手回ししてたの?好感度さがる』
『こういう奴嫌いだわ』
『消えろ』
『泣くなだるい』
『うわw嘘っぽw』
『おい同情買おうとすんな』
すると、ぽそっと俊が言った。
「んでだよ………」
出演者も静かに視線を向ける。
すると、今までの表情を一変させた。
無人のカメラは自動的に俊の顔をアップで映す、一瞬でも見逃しがないように。
「なんでだよ!!!見ろよこの腕!やべーだろ!?何十回も切ってんだよ!見てても辛いだろ、可哀想だろ、なあ、可哀想って思えよてめえら!!!」
プチン、と何かが俊の中で切れたようで態度が豹変した。
拘束された椅子動きそうな程暴れた。瞬時に腕の拘束はされ逃げ出せないよう再び絞められたが、その暴れ具合が醜くもモニターに映し出される。
「お、おい、俊!落ち着け!」
俺が声をかけても収まることはなくスタジオにいるそれぞれを1人ずつ、順番に睨んでいった。動きが小さくなると、俊が鼻で笑ってから低い声で言う。
「なんでさぁ、なんでそうやってお前らは役にたたないわけ?どいつもこいつも、役立たず、って事かよ。大人しく俺の言った通りに望んだ通りに動けばいいのにさ!俺が生き返るべきだろ!」
視聴者コメント欄では、既に俊を非難する声が流れている。偶に容姿で擁護されるコメントもあるが、それこそごく一部で、もうそれを見て諦めたかのように語り出した。
「ぺー君、君は役にたたないね?最初の方から組んでたのに情報全然引き出せないし、今日は俺に同情を集める筈だったのに、失敗しやがってさあ。台無しじゃん?折角泣く表情まで作ってきたのに」
ぺー君は名指しされた事にどきっとしたのか、一瞬びくっとしながらも俊へまっすぐな視線を向け懸命にフォローする。
「ちょ、そ、それは、…悪い、俺が不器用やったからアンタがただメンヘラみたいな流れになってしもて。でもほんまに心配だけはしてたんやで?その腕、痛いよな、こんな場所で会う前に話聞いてやりたかったわ」
「ちっ……、俺を使っていい人アピールしないでくれない?メンヘラとか、単語もマジむかつく」
その舌打ちだけでもスタジオ内に響く。続けられた文句も俊の声とは思えない低さと落ち着いたトーンで、ペー君を確実に刺す。
残り1分、タイマーが刻んでいく。
「よーすけ、君、配信者だよね。君も何も役に立たない、俺に同情すらみせない。廊下で会った時さ、あの傷見せたのに何も思ってなかった感じしたね?君を飼うのは無理だと思って諦めたけど、本当に心がない奴だな」
よーすけは口端から流れる血を舌で舐め取りながら言い返す。先ほどの変な具合はどこへいったのか、通常のやる気のないテンションに戻っていた。いや、逆に怖い程声が低くなっているような気がする。
「あんなの見せられて、俺可哀想と思って!なんて、どんな悲劇のヒロインごっこしてんの?やっすい演技して、見た目がいいとかで、もてはやされてたんだろーけど。…お前、考え甘すぎるよ。そんな悲劇、意味ないから」
ゆらりと首を傾げヘラヘラと返した。
それには俊も言い返せず、ただ唇を噛み締める。
『いいぞよーすけw』
『スッキリ』
そして、俊の視線が俺に向く。心臓が飛び跳ねた気がした。
「 ジュンさぁ……お前、一番卑怯だよ」
その言葉にぴくりと体が震える。
「できればみんなを助けたい?その方法を探してる?…はっ、馬鹿かよ。今の状況飲み込めてないわけ?みんな死んでるの。それでやっとみんな死ぬの。それを待ってる、それだけの話。理解できないまま助ける方法を上っ面で探してるの?…そういうの、優しい面した卑怯者だよね」
俊の正論に胸が痛む。…助けられることなど、不可能。その言葉が深く俺の胸へ突き刺さる。
続いて 視聴者コメントでは
『それな』
『いや正論すぎて』
と肯定派も現れる。
俊はそれを見てもなお、態度を変えずいつもの笑顔を消して機嫌の悪い顔のまま発言を続けた。
「結果はもういいよ、俺が爆弾落としてやる。……俺は、本当に他殺だよ。…でも、その前に人を殺そうとした。その俺しっつこい粘着野郎をな!!」
今までに見せたことのない、笑顔なのに引き攣って楽しんでいるような。これは鏡前で練習した顔なのか?いや、そんな事はなさそうだ。初めて見る、これが俊の本当の素顔なのかもしれない。
タクヤは多分驚いているだろう、いつも冷静だが何度も瞬きをしている。ぺー君も、よーすけも黙って俊に注目をして口を挟まない。
「遠藤を、お前が…殺人未遂って事か?」
俺の微かな記憶に出てくる、ポニーテールで暗めな男。
「そう、あいつを最初に殺そうと思ったのは、このオ、レ」
「じゃあお前は…他殺って言ってたけど本当は遠藤を殺すつもりで…」
あの暗めな男の顔も思い出せないが、根暗のイメージが強く、俊を力ずくでやれるとは思えない。
俺が考えていると、 ここでタイマーが鳴った。
スタジオモニターには『投票締め切り!』の文字が大きく映し出される。
視聴者コメントが一斉に流れた。
『悩んだけど…やっぱ俊かなぁ』
『ごめん俊、でもあざとすぎる!』
『よーすけは残したい!』
『他が黙ってるの怖い』
『俊、ドンマイ…』
コメントが荒れる中、スタジオに警告音。
モニターに【脱落者:俊】の文字が表示された。
数秒の沈黙の後、MCの声が響いた。
『視聴者投票の結果…今回の脱落者は……俊くんに決定しましたー!色々といいドラマが聞けましたねー!視聴者の皆様いつも応援ありがとうございます!今回もスパチャいただきました!』
俊はやっぱりな、というような苦笑を浮かべると、静かに深呼吸をした。 同時に頭のアホ毛も落胆したように揺れる。
「折角感動するドラマにしたのに、俺の演技がどーとか言っちゃってさ。ちゃんと演じられてたじゃん俺……」
その低い声から一変して、またいつもの、いや演技の笑顔であざとくみんなに好かれるような俊の表情へ戻る。そのままカメラに向き直り、拘束されたまま視聴者に微笑む。
「時間外だけどさ……俺がどうやって人を殺したか、知りたい?」
静かに、けれどどこか挑発するような笑みで言い放った。声も高くそれは今まで全て演技で作られていた事を想像させた。




