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Realive  作者: ichita
10/20

10話:計画の始まり


昨日の様に討論タイムがはじまる合図と共に、タイマーが動きだす。

10分。


たった10分でこの中が脱落と、選ばれてしまうのか。

控室で少し話してしまった事によって、それぞれに少しでも情が湧いてしまっていた俺も居る。だって、助けたいのは山々なんだ。だがそれをする術もなく、今こうやって拘束されれている。いっその事、弁当会なんて参加しなければよかったか…?

いや、今それどころじゃない、みるみるうちにタイマーは時を刻んでいく。


視聴者のコメントはいつも通り流れていく。

『早く討論始めろ!』

『今日は静かすぎない?』

『またお通夜かよww』

『事故会かな?』


「ねぇ!」

最初に声を出したのは俊だった。

出演者の視線が一斉に向かい、カメラも顔を映す。

「俺、さっきジュンに言ったんだけどね…。やっぱりみんなにも言っておこうと思って。…実は、他殺だったんだ。みんなは思い出してきた?もし、自殺とか自ら生きていくのが苦しいって人がいたらね、俺はその人を優先させてあげたい」


少し潤んだ目に、他人を思いやるような言葉。そしてさみしそうな表情に視線を斜め下へと落としている。視聴者コメントも揺れ始め、完全に視聴者の人気を取りに行っていると、そこにいる出演者全員はすぐに察した。

分かりやすい演技だ。

「おうおう、俊、優しいなぁ。…俺も周りに"自殺したから辞退"って、そういう願望があるなら引き留めへんよ?でも俺はちゃうねん。……俺は事故やねん」

ぺー君は俊の提案に同意しながらも、自分の死因をしれっといれてきた。その表情はいつもと変わらず笑顔ではなかったが、あくまでも単なる会話としての言葉だった。

「俺もー、完全には思い出してないけど、ん~事故だったと思うなぁ。生きてたら、配信続けたいしぃ。まぁ、俺でもいいよ?いいネタになるからね、へへへ」

退屈そうに言うよーすけだったが、カメラが向くと肩を竦める。口から出ている血を隠す様にそっぽを向く。しかしカメラは見逃さない、それをわざとアップにしてくる。いやらしい奴らだ。


『ここでも配信者魂w』

『俊くん天使すぎる、今回も推し決定』

『死因嘘ついてるやつ絶対いる』

『フィルターじゃね?』


討論の間にも流れていくコメント。

するとタクヤがゆっくりと俊の方へと視線を向けた。

「なぁ、俊。他殺は誰にどうされたかっていうのは思い出せているのか?」

俊がわかりやすくうーん、と考える動きをしてぶりっこをする。

「うん、確か、カッターでぐさっとやられちゃったかな。グサグサ何度も。……思い出すと、…つらい、ね…っ」

語りながらも、少しずつ、ゆっくりと声が震える。俺はこれが演技なのか本心なのかわからない。先ほどの腕を見てしまったから、そいつが更に読めなくなっていた。あの傷は本物で決してペンなどで書かれたイカサマではない。

ぺー君は拘束の限界の限り、身を乗り出して言う。

「ほな、俊は他殺、俺は事故、ジュン、タクヤ、アンタらはなんやねん?もう思い出してないとかの段階ちゃうやん、割とみんな思い出してるやろ?」

ペー君は自分から順に時計回りで視線をやった。そして最後に俺へ視線が突き刺さる。


記憶…。

脳に浮かび上がってくるたびに、俺は胸がぐっと締め付けられる。俺は…俺は…

「俺は、多分、火事系の、事故」

思い出してきている事を、正直に言った。

それ以上の言葉は喉につっかえて出てこなかった。単語しか出てこない。次に口を開いたタクヤは机に目を落としていう。

「俺は、言うのが情けないが…、まぁ言わなきゃ始まらないから言う。塾の帰りにテストの答案用紙を見てたら車か何かが突っ込んできた。その時の衝撃で車だかトラックだか、何だったかは覚えてない。空気が圧迫されて痛みが走ってた間に意識が薄れていた気がする。………が、俺にしては阿呆過ぎて言い出せなかった」


『タクヤっぽい』

『まじでただの事故やん』

『てかジュンくんの火事本当?』

『めっちゃ思い出してるやん』

『完全な記憶回復』

コメントがどんどん流れてくる。


俺はタクヤの死因を聞いて顔を見るが一切ブレがない。そうだったのか…。それに対して俺は全然言葉に出せない。なんだかいつも真面目で、勉強も出来て、偶にふざけて笑って、そんなタクヤが不注意なのか、運転手のミスなのかで、命を奪われてたなんて。

もう現実に存在がない、という実感がわかなかった。


「じゃあさ、この中唯一“他殺”だった、っていう人が一番可哀想って事ぉ?」

よーすけが首を揺らしながら上目でその視線を俊に向けた。そのままよーすけは言葉を続ける。

「まぁ、事故も本意として望んでないとしてぇ、他殺っていうのは……こいつを殺す!っていう明確な殺意があったんじゃね?って事は、俊にも何か原因あったんじゃんー?」

それを聞いていた俊のアホ毛がゆらりと揺れ、突然泣き出した。

スタジオの参加者は目を丸く、コメントは大いに盛りあがっていく。俺は焦ってコメントと俊に視線を行き来してしまう。


「俺、っ、俺は悪くないよ!その刺してきたのは別のクラスで、俺の事が好きだったらしいんだけど、期待に応えられないって言ったら…」

俺は視線を泳がせて、泣きそうな声に対して何とかしようと思いつい口を出した。

「お、お前は、色々と…苦しんでいたんだなもんな…」

俺なりにフォローを入れたつもりだ。さっき見たあの腕が物語っていたから。

だけど、そう発言した俺に俊は鋭い目つきで睨んだ。討論が始まる前とは全く違う顔。

え、何か俺、発言を間違えたのか…?

ぺー君は瞬きをしながらそれを見逃さずに突っ込んでくる。

「なんやジュン、思い当たることあったんか?」

「あ、いや、その」

例の事実を隠すべきか言うべきか、俺の一言で脱落者が変わるのが怖い。リスカの痕跡、それはこの後の運命を決めるのにも大きい気がする。この狂った番組の視聴者の大好物でもありそうだし…。

そしてもしもの時、脱落する前に俺にだけでも話したいっていうあいつの負担も、心配だった。視聴者コメントでいろんな詮索もされている。


『俊がなんかやったんじゃね』

『よーすけのあれは正論、ジュンは参加しろ』

『なんか俊は演技っぽい』


残り数分。

少しでも話さなきゃ。


「兎に角さ、俺は、俊にはもう少し生きてほしいと思うよ。こいつなりにも色々抱えて生きてきたわけだからさ、なんつーか…大変だったというか」

本当は全員を庇いたかったけど、今これで精一杯だ。でもこれって他を犠牲にして俊を助けるというのか?と発言した後に俺は眉間に皺を寄せた。

「大変ってさ、みんなそーじゃない?ほら、その腕、沢山“腕を切ってた”からと言って、別に他のメンバーである俺らも同じ苦悩抱えたりしてんじゃないの?ねえ」

よーすけがへらっと笑うと口端から微かに血が滲んで、更に拘束されている手先が異様に変に震えている。カタカタと、何かを求めている様に。


『切ってたってなに??』

『何が起こった?w』

『ジュン優しすぎね?』


俺は腕を沢山切っていた、と聞いた瞬間あの夥しい数の赤い線が頭に過ぎる。

…なんだ、俺以外に知っている人がいたのか。


「あ、あかんで、あれ、ああいうのは人によってはトラウマってのになってな!?話出して突っ込んだらあかんねんで!いくら関西人でも黙っとったわ!」

ペー君がよーすけに向かって慌てて声をかける。

腕の傷、知っていたのは俺とよーすけだけじゃなかったようだ。ペー君まで知っている、討論前は俺にだけ話しておきたくてって、言ってなかったか…?

あれは俊によって仕組まれた罠、つまり…演技だった?

俊はぺー君の方にも睨みをきかせた。

カメラは見逃さないように俊の顔をアップで映す。


「あは、お前さあ、腕のそれを最終手段で出そうとしてたんでしょ?もう使えないよ、そんなんで同情してもらえる世の中だったら、こんな番組なりたたないじゃん。俺に見せたのは不正解だったねえ?もう顔がぐるっと歪んじゃってるよぉ??」

目の焦点は俊の隣の空間。へらへらと肩だけで笑うよーすけ。何だろう?さっきまでは普通に話していた気がしたのに、雰囲気がちょっと変わった気がする。

「…狂ってる奴に言われたくねぇよ」

俊がマイクで拾えないくらいの小さい声で言った。


『証拠見せろ』

『腕切ったってもしかして?』

『あっ(察』

『見せろ俊』

コメントで腕を見せという単語が並んでいく。


暫く俯いて表情を隠し懸命に次の手を考えている様に見えた。すると顔を上げて爽やかな笑顔を見せた。そしてどこかにいるかもわからないMCへ向けて声をかける。

「MCさーん、みんな俺腕の素肌が見たいそうでーす。手の拘束外せない?ちゃんと戻すからさあ」


突然モニターにMCが映りにこにことした表情は変わらず。

特別ルールとして一時的に俊の手の拘束を外すことをアナウンスする。

「今回は特例として、俊くんの希望にお応えしまーす!視聴者も盛り上がっている事ですから、スパチャもどんどん募集してますよ!!ただし、外せるのは30秒だけですよー!この番組は視聴者様のお気持ちを優先してお送りいたしまーす!」


「そんなん許されるんかいな!」

ペー君が突っ込みを入れると、ガシャン、と俊の両手の拘束が解ける。そのまま逃げる事は出来ないかと考えたが、足も首も拘束されているし、手の届く場所に変なしかけなどない。首輪が爆発するのも俺らは目の前にして知っているから、変に動かないと確信しているのだろう。

俊は拘束が外れた右手で左腕のセーターを可能な限り捲り上げた。片腕が顕になり、無数の赤い線がその肌に刻まれているのがモニターに大写しになる。

俺が見た時と一緒で、本物の傷、赤い線が重なっている。

少し薄くなっている箇所もあれば、最近のものか、濃い線、太い線、様々に。


『えぐ』

『予想以上に多いやん』

『ガチでやってんな』

『メンヘラにスパチャあげる』

『うおお~~wwこりゃいいw』

『普通に草』

と視聴者コメントが次々と流れる。


その傷を改めて直視することはしたくないが、痛々しさだけはしっかりと胸に刺さった。あの傷の数だけ、俊は傷ついてきた…。

それなのに、タクヤ以外はどこか平気な顔をしている。

事実を知っていたという事は既に傷を見せていたという事か。

それでいて平然としているのはこの空間が狂っているからか、脱落者の処刑を見て慣れてしまったのか、もう俺にはわからなかった。

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