第137話 交渉。
今回は選択をするという回です。
エレベーターのドアが開かれると、激しい風圧が入り込み、猛烈な寒さを感じた。
「……やあ、待っていたよ。品川修二くん」
そこへ屋上中央に、白いラウンドテーブルがあり、上には豪華な食事が配置され、二人の男女がいた。
一人の男はピースレインボービジネススーツを着用し、品川とは違う灰色のセンター分けショート、紫色の丸眼鏡を装備、顔はキザな雰囲気を醸し出す男だった。
男は海外の新聞に注目しながら、砂糖入りミルクなしのコーヒーを飲む。
「敵が目前といるのに、えらい余裕じゃねぇか? あぁ!? テメェには人質がいるから俺なんか大したことしないと思ってんのか?」
品川は憤怒という演技をしながら、ゆっくりと中央へ接近する。
「……」
赤いロングドレスを着用し、赤い薔薇の髪飾りを装飾し、赤いヒールを履き、全身を赤一色に染められた。
怯えた様子の木戸がいたのだ。
「……」
その様子を見て、品川はラウンドテーブルを右足で思い切り蹴り上げる。
「まだコーヒーが残ってたのに……残念だな」
まるで自分がした事は関係ないという感じで返答し、品川は右手で胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げて、顔近くまで持ってくる。
「いきなりなんですか? オーダーメイドのスーツなんですよ。シワになるとクリーニングする時、多く取られるんですよ……!」
そんな男の言葉なぞ聞かずに、品川は左拳で男を殴った。
男は大きく吹き飛ばされ、グッタリと倒れたのだ。
「よし、木戸逃げるぞ」
「待ってください! 私が動くと……」
木戸は震えた手で何かを持っていた。
品川が確認すると、左右の指の間に金属板が重なり、良く見ると赤と青のワイヤーが無線機と繋がっていた。
「C4ですよ。桐崎流星に繋がっている命綱ですよ……」
男は「あ~痛かった」という事を呑気に話、立ち上がる。
「自己紹介まだでしたよね? どうも『アトラス財団』副社長をしてます。虹矢清張です」
唇が切れ出血部位をハンカチで拭い、平然とした様子で自己紹介を始めた。
「品川さん、アイツ強いですよ。桐崎さんが手も足も出なかった」
「……まあ、大体分かる。今のパンチは首が千切れねぇ程度に殴ったが、アイツは首の回る速度だけで相殺しやがったからな」
品川の感覚と細かい仕草探索で、説明された木戸は呆然とするしかなかった。理由は何を言っているのか分からないからだ。
「いやはや、首が捥げる程のパンチ力って、もはや殺人兵器ですね。けど、もう単純なパンチは喰らいませんよ。覚えました」
「……」
冷静に分析したという表情をしている品川だが、内心では「あ~覚えられてしまった」という軽い思いだった。
「でも、品川さん。一発は一発です……お返ししますよ」
その言葉と放ったと同時に虹矢は目前と出現した。
ちゃんと見えていたので、別に驚愕はしなかったが、腹部に猛烈な燃焼を感じ、大きくバックステップで虹矢から離れた。
「……」
直ぐ様、品川は腹部に触れ負傷確認をする。
(熱い上に冷たい……火傷と凍傷してやがる。どういう事だ?)
品川は虹矢を何したのか確認する。
触れた後だが、掌からは熱気や冷気すらも発していなかった。
「!?」
「解せないという面持ちですね。熱気も無ければ、冷気じゃない……不思議な現象ですから初見の方には難しい問題……」
「『虹』だろ? お前の覇気」
虹矢が説明している最中に品川は見事当てた。
当てられた虹矢は無表情で黙り込み、必死に図星を隠そうとしていた。
「二重攻撃かますには二つの覇気を持ってないとできない。それを一つにして、攻撃しようとするのは至難の技。だったら、一つの物質に二つの性質を放てば、今の現象を起こせる。考えられるのは、七つの性質を持つ『虹』しかないと思った」
「でも、熱くて冷えるってドライアイスがあるじゃないですか」
「ドライアイスは二酸化炭素と冷たさの固まりだ。それに分類される覇気は、『氷』か『空気』だ。『氷』は俺の手札、『空気』なら酸素を減らして俺を無力化すればいい」
(す、凄い考察力! な、なんか頭いい事ばっか言って分からないけど、なんとなく勝てるかもしれない!)
品川は説明しているが、人質である木戸は馬鹿を発揮していた。
師匠といい弟子といい馬鹿と一緒にいると移るらしい。
「……当たりです。私は『虹の覇気使い』、七色にはそれぞれの性質があり、それだけ戦い方があるという事ですよ」
虹矢は身体を『虹』へと変化し、品川の周囲に柱を構築し、中へ閉じ込めた。
(ちとマズイな)
逃走できないとなり、流石の品川にも焦りが見え始めた。
すると虹の壁から拳が飛んで来た。
品川は難なく回避できた。が、次に背後、左右と四方八方から拳と蹴りが飛んで来る。
「……舐めんなよ!」
チクチクとしつこい攻撃に我慢できなかった品川は、自分を爆炎へと変化させて、虹の中で爆発する。
「くっ!」
爆発により虹矢は強制的に能力が解除され、大きく吹き飛ばされる。
虹矢は肩で息を繰り返していた。余波の影響が凄かったのか、スーツはプスプスと音を立てながら焦げていた。
「流石は『太陽の覇気使い』。その覇気、その絶大なる腕力、その冷静な思考能力……全てにおいて|youlook amazing《素晴らしい》」
そう言って虹矢は舌舐りしていた。
「な、何……コイツ……気持ち悪い……」
その様子を隣で見ていた木戸は、不快感を表していた。
「おい、まだ終わってねぇぞ。折角、身体が暖まってきたんだ。テメェには爆弾を解除してもらわねぇとな?」
品川が右腕で薙ぎ払うと、爆炎は一瞬で消化した。
「はあ~流石ですね。このまま戦い続けてもジリ貧なだけです。ですから……交渉しません?」
「……こっちの目的は分かってんだろ? テメェの意見はなんだ?」
「私達と手を組み、表の人間を支配し、覇気使いだけの世界にしません?」
それはあまりにも考えた事のない馬鹿げた話で、そんな事の為に他人を傷つけ、ここまで大袈裟にしたかと思うと……
「ふざけんな……ぶっ殺してやる」
あまり品川から出ることのない言葉で、それは日常の冗談で使うとは違い、純粋な殺気だった。
「あ~それですよ。その本気で私を殺そうとする……人間じゃ放てない有り得ない殺意。やはり貴方と木戸さん二人が欲しい」
虹矢も頬を赤らめさせ、身体を小さく震えさせ、密かに絶頂していた。
(品川さん怖いけど……この虹矢っていうオッサンも気持ち悪い怖さだ……動けない! 今、勝手に動いたら……すぐにでも死んでしまいそうだ)
品川による猛烈な殺意。
虹矢による異質な変異。
この異能な二つが衝突し、木戸の本能は正常なので、係わるなという命令が出されていた。
「交渉は……決裂と判断しても?」
「当たり前だ。テメェみたいなイカれたクソ野郎は……存在する事が間違いだ!」
品川は虹矢へ真っ直ぐ向かって走った。
すると虹矢は不敵に笑い、身体を虹化させた。
(後ろか!)
あの高速移動で予想したのは背後へ回って、攻撃かと思い、振り向いた。が、その判断は間違っていた。
「品川さん!」
木戸の声が聞こえ、そっちを確認する。
「私は貴方達みたいにバトルジャンキーじゃないんで、そんな事せず知略で戦うんですよ」
虹矢は木戸の両腕を両手で掴んでいた。
「……テメェ」
「この爆弾は人質である桐崎と無線で繋がってるんですよ。もし、人質がいらないなら……どうぞ、私を殺しに来てください」
品川は選択を迫られている。
ここで殺意を抑え人質を優先するか、感情を優先させ虹矢を殺すか。
いかがでしたか?
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