第117話 最強、搭乗、そして趣味。
忍の趣味と難しい話になります。
朝九時頃、窓から朝日を照らす新大阪駅のホームで、異様な二人が柱近くにいた。
一人は黒いハット帽を被り、黒一色のビジネスシャツ、スラックス、革靴。腕組みし、柱へ凭れている忍。
隣はグレーのレディーススーツに身を包み、秘書感の雰囲気を醸し出す雅がいた。
「あの馬鹿は来ると思いますか?」
「来てもらわないと、鬼塚かイカれドレッド頭と一緒に仕事を組まされる事になる。鬼塚は兎も角として、あの伊波だけは協調性が無ければ、人を簡単に殺そうとする危険人物だ。できれば吹雪がいい」
「あの男は来ますか? 過去、忍様は吹雪の友達である南雲を半殺しまで追い詰めたじゃないですか。来るとは思いませんが……」
最早、誰も慣れ過ぎて覚えていないだろうという記憶を雅は掘り下げ、吹雪が来ない理由を述べた。
「……だろうな。その時は諦めるしか――その必要はなくなったな」
忍が目前で察知し、その場所を雅へ指差しする。
雅が振り向くと、そこにはキャリーバックを引いて転がしながら、忍達へ近づく吹雪の姿だった。
吹雪はダルい雰囲気で忍達へ近づいた。
「……」
「まさか来るとはな?」
「考えることがあってな。アンタについて行けば、弱点や強さが分かるかもしれないって思ってな。まあ、俺にとったら気紛れだ」
本心半分と嘘半分で着いて来る理由を返答する吹雪。
「そうか。分かればいいな、俺の弱点と強さ。まあ、そんな簡単に馬鹿なお前にヘマをする事なんてないがな?」
ニヒルな笑みで吹雪を挑発しながらホームへも忍は向かった。
「……あまり怪しい動きをするなよ? 私は護衛だから少しでも怪しかったら――迷いなく暗殺してやる」
脅しではない雅の殺害予告に、背中がゾクリと大きく震えた吹雪だ。
「……はいはい、ちゃんと気をつけますよ」
確か、一回雅には中途半端で負けてんだよなと、苦い過去を思い出しながら忍の後へ着いて行くのだ。
忍達は予算をふんだんに使ったのか、グリーン車で三席分を予約していたのだ。それも一車両だけ貸し切りでだ。
「す、スゲェ……」
普段、新幹線ては普通の座席でしか座れない吹雪には新鮮だった。大きな座席、ゆったりとできそうなリクライニングチェアで仰天していた。
「雅、悪いがシャンパンの用意を頼んできてくれないか?」
「分かりました。おい、私の目から離れたからと言って、忍様に変な真似するなよ?」
雅は殺気立った鋭い睨みで、再び吹雪へ警告していた。
「しねぇよ。さっさと行け、ヒステリック暴言女」
「コイツ……まあいい、貴様は後で締めるとして――忍様、ゴールドかブリュットならありますよ?」
「ブリュット、それと適当に何か菓子類も購入してくれないか? 新たに加わった協力者を歓迎する為に」
「……不服ですが了解しました」
少し間だけ開いたが、ここは何とか気持ちを抑え込み、準備する為、雅は次の車両へと向かった。
「……アイツといたら生きた心地しねぇな」
雅から解放された事で、一安心した吹雪は不安な気持ちを吐露した。
「そうか? 必死に護衛してるように見えて可愛いと思うが?」
そんな畏怖に駆られている吹雪を見た忍は、最前列の席へと着席した。
「その護衛が仲間に殺気放つって馬鹿じゃねぇのか?」
「過去に雅は一度だけ裏切られた事がある。そのショックで、出会った当初から俺を毛嫌いしていた。これでも結構許している方だ。立ち話は辛いだろ? 隣の席へ座れ、少し話そう」
なんと忍から吹雪を誘ったのだ。
雅から警戒されているのを分かっていながらも、自分から隣の席を叩いて誘うのだ。
「……」
後で雅から恨まれるなと思いながら、渋々とした表情で、忍に従って隣へと座った。
「東京に着いたら伊波というドレッド頭の男には気をつけろよ?」
突如と忍が吹雪へ伊波について警告してきのだ。
こんな善意で教えてくれるのは裏があるんじゃないかと吹雪は疑っていた。
「これはマジだ。ちゃんと聞いとけ……伊波一翔の犯罪歴を見たら、パンドラの箱を開けた気分になった」
そう言いながら『ダークネスホール』から一枚の書類を吹雪へ手渡した。
「……おいおい、これって何かの冗談なのか? これは人の皮を被った悪魔じゃねぇかよ!」
吹雪が驚愕することに無理はなかった。それもその筈、犯罪歴が一枚の紙でビッシリと埋めつくされていたからだ。
内容は『強姦、殺人、殺人未遂、脅迫、詐欺、人身売買、密輸、公務執行妨害、住居不法侵入、放火、脱獄』等の数え切れないぐらいの量だったのだ。
「俺も何かの冗談かと思った。ちゃんと死刑判決も出てた……だが、死刑所まで搬送した刑務官が伊波に半殺しにされ、銃殺しようとしたが『覇気』で防がれる始末で、お手上げの状態だった。そこで政府は伊波を閻魔に押し付けた」
「……こんな問題児を閻魔さんに押し付けたのですか? 強く反対されたんじゃないのか?」
「いや、アッサリと閻魔は引き受けた。引き受ける条件を飲む代わりとしてな?」
「条件?」
「政府が持っている所持金を月間で一割から二割回収するという条件で引き受けたんだ」
「少なっ!」
「あぁ、一般人にしては少ないと感じるだろうな。だが、それが国家予算からとなったら、どう思う?」
吹雪の思考は停止した。当たり前である、いきなり国家予算から二割引かれていると知った時は、対応どころか考えが纏まらないのである。
「……閻魔光を甘くみるなよ? あの悪魔は人類創造期前まで存在している奴だ。人間を創った事にも関係しているからな」
「どうして?」
「最初は善意で世界を満たしたかったらしい、けれど善意だけでは世界が完成しないって事が分かった。だから、閻魔の親父……神が人間に欲と悪意を与えた」
「悪意? 善意で世界が満たされれば、全員が殺人犯に殺されず幸せに過ごせるのにか?」
吹雪の考えは悪意さえなければ、善意で楽な世界ができると思って返答したのだ。
「それが本当の幸せという形か? って言われてみれば皆が目指す所なんだろうな。けれど、悪意と欲が無ければ、この新幹線というグリーン車は存在せず、この携帯電話等は存在しなかった筈だ。iPhoneを作ったスティーブ・ジョブズを知っているだろ? アレも人間の悪意と欲で産まれた物だ」
「スティーブ・ジョブズは画期的な発明で便利な物を作ったじゃねぇか、何処に悪意があるんだよ?」
「真実か定かではないが、スティーブ・ジョブズはビル・ゲイツから盗作をし、世界にWindowsを広げた。元を辿れば盗作という悪意と欲だ。そして時が経てば、iPhoneを作り上げた。社員が限界だという所まで追い込み、他人の苦しみで為し得た物だ。これも悪意と欲だ。自分の名誉として、世の中に残る善意の皮を被った悪意で世界は満たされている」
「確かにそうだが、ソレってお前の考えだろ? もしかしたらスティーブ・ジョブズだって善意があったかもしれねぇだろ?」
「残念だが、綺麗事で全て並べても俺達は悪意と欲で生かされている。これが事実というのは覆せない、よく考えてみろ。今、世の中に流れているニュース、メディア等は全て視聴率取りの悪意で報道されている。法律で定められている名誉厳守なんて、なんの役にも立ちやしない。全て筒抜けだ。嫉妬で嫌な所を晒し、強欲で人から奪い、色欲で破滅させ、怠惰で思考を放棄さけ、貪欲で狂い、憤怒で他人を殺し、放漫で何も気づかず終わる。これが俺達の生きている人間社会の悪意だ」
「……」
「では、それで純粋な悪意の伊波が開き直って全てが許されている訳だと思うか?」
「そうなのか?」
「政府には対価を払わせた。この結果で政府は閻魔に口出しもできなくなった。多分、上手くマウントを取ったとしても、それを利用される。何故なら人間は自分の恥だけは晒したくないからな?」
「……閻魔さんが伊波を引き取ったのは政府が死刑できなかった事を隠蔽する為か!」
「その通り、人間を創った側からすれば自らの悪意で自滅するのが分かっている。ならば、こっち側は善意で待ち、悪意が自滅する。そして面白い事に人間は怠惰だから何度でも繰り返す。弱味を作り、また自滅する。本当の善意を知るまで繰り返さられるんだ。生きている限りな」
「……」
「この話を聞いて、お前の視点はどう変わった?」
ここまで話を聞いてくれたので、忍は吹雪へ感想を尋ねた。
「……なんだろうな。良く頭では理解できるんだけどよ……悪意とか善意って曖昧なんだなって思った」
吹雪は分かりやすく頭を抱えていた。
「そうだな」
「だから、ウダウダ考えるのは止めて、アンタに任せようと思った。この流れに身を任せて、自分で判断しようと思った。これが俺の感想だ」
スッキリとした表情で忍へ自信満々と返答したのだ。
「……なら、お前は俺達の仲間だ。暫くの間はな?」
「あぁ、それでいい」
「お待たせしました。ブリュットです」
そうしているとワゴンカーで押して出現した雅が帰って来たのだ。
「遅かったな?」
普段なら素早く来るのにと疑問を持った吹雪は雅へ尋ねたのだ。
「あぁ、貴様に出す菓子を選んで遅れた……どうぞ、お食べください」
雅はペット用の皿を出して、そこに大量の柿の種を入れて、吹雪へ差し出したのだ。
「……よし、表出やがれ。テメェの風なんか俺が冷やして無効にしてんやんよ!」
「あぁ、いいだろう! 貴様なんぞ四肢を切り刻んで二度と歩けなくしてやる。この腐れテンパめ!」
二人が喧嘩している間に、黙々と忍はグラスにブリュットを注ぎ、優雅に飲んでいた。
(少し輝の気持ちが分かったかもな)
懐からイヤホンを取り出して、お気に入りであるL'Arc~en~Cielの曲を楽しむのだった。
いかがでしたか?
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