第7話 成果物をレビューする
Aは、生成された本文をレビューするための依頼文を作った。
これまでAIには、本文を書かせることしかしていなかった。今回は役割を変える。本文を新しく作るのではなく、すでにある本文を確認させる。
Aは、詳細プロットと生成済みの本文をAIへ渡した。
「この本文をレビューしてください。詳細プロットに沿っているか、必要な出来事が抜けていないか、キャラクターが設定から逸脱していないか、前後の整合性に問題がないか確認してください。また、文章表現に不自然な癖がないか、読みやすさに問題がないかも指摘してください」
依頼を送ってから、Aは少し待った。
返ってきたレビューには、いくつかの指摘が並んでいた。
まず、出来事の抜けがあった。
詳細プロットでは、主人公が相棒の言葉を受けて一度立ち止まることになっていた。しかし本文では、その場面が短く処理されている。結果として、次の決断へ移るまでの流れが急になっていた。
次に、人物の行動について指摘があった。
主人公は慎重な性格として設定されている。それなのに、本文では十分に考える描写がないまま、危険な行動を選んでいる。行動そのものが間違いではないが、選択に至る理由が不足している。
相棒の台詞にも問題があった。
軽口の形を取っているものの、その台詞だけを読むと主人公をからかっているように見える。本来の意図である心配や信頼が、本文から伝わりにくい。
文章表現については、Aがすでに気づいていた問題も挙げられた。
短い文が連続している箇所。一語だけの独立行。意味のつながりが弱い位置での改行。どれも数か所に限られていたが、場面によっては文章の流れを途切れさせていた。
Aはレビュー結果を読みながら、少し意外に思った。
自分でも気づいていた問題がある一方で、自分一人で読んでいたときには見逃していた問題もある。
本文を書かせた直後は、どうしても内容の方へ意識が向く。主人公が何をしたのか。話が予定どおり進んだのか。自分が考えた展開になっているのか。
そのため、文章の一部が不自然でも、物語が先へ進んでいると見過ごしてしまう。
レビューという工程を別にすると、確認すべきものが変わる。
Aは、指摘された箇所を一つずつ本文へ反映した。
主人公が決断する前に、過去の経験を思い出す描写を追加する。相棒の台詞には、軽口の裏側にある気遣いが伝わる行動を添える。抜けていた場面は、次の出来事とのつながりが自然になるように書き直す。
文章の癖が出ている箇所は、前後の文脈に合わせて段落を組み直した。
すべてをAIの提案どおりに採用したわけではない。
レビューは、答えをそのまま受け取る工程ではない。どこに問題があるかを見つけるための材料だ。修正するかどうか、どのように直すかはAが決める。
修正後の本文を読むと、話の印象が変わっていた。
主人公の決断が重くなった。相棒の言葉にも、二人の関係がにじんでいる。出来事の抜けが埋まり、場面と場面の間もつながった。
文章が劇的に別物になったわけではない。
だが、読み手が引っかかる場所が減っている。何となく薄いと感じていた場面にも、必要な意味が加わっていた。
Aは、生成とレビューを分ける効果を実感した。
生成するときは、本文を作ることに集中する。レビューするときは、要求を満たしているか、問題がないかを確認する。同じAIを使う場合でも、役割と目的を分けることで、見えるものが変わる。
考えてみれば、これは特別な方法ではない。
コードを書けばテストをする。設計書を書けばレビューする。文章を書く場合でも、初稿を書いたあとに読み直す。
それなのに、AIが作った本文については、なぜか最初から完成品のように扱っていた。
Aは、自分の工程表を更新した。
詳細プロット。
本文生成。
本文レビュー。
問題点の抽出。
修正。
必要なら、修正後の本文をもう一度レビューする。
この手順を加えると、小説を書くという作業が、さらに開発工程らしくなった。
Aは、レビュー用の確認項目を別のメモへまとめた。
詳細プロットに沿っているか。
必要な出来事が抜けていないか。
キャラクターの設定や認識に矛盾がないか。
前の話、次の話との整合性が取れているか。
文章表現にAI特有の癖が過剰に出ていないか。
そして、読んでいて自然か。
最後の項目だけは、簡単に機械的な条件へ置き換えられない。
だからこそ、人間が読む必要がある。
AIにレビューさせることはできる。しかし、レビューの結果を採用し、作品として何を残すのかを判断する役割まで手放すつもりはなかった。
Aは修正した本文を保存した。
これで、長編を書くための方法が一通りそろったように思えた。
アイデアを考える。AIと壁打ちする。作品全体の設計を作る。執筆する範囲を分ける。必要な情報を渡す。本文を生成する。レビューする。問題があれば修正する。
最初は、ただ小説を読みたかっただけだった。
Aは工程表を見ながら、苦笑した。
どう見ても、これは小説の書き方というより、何かを作るための開発手順だった。




