第3話 短編ならうまくいくのでは?
Aは、最初の長編を書き続ける前に、別の条件で試してみた方がよいと考えた。
問題は、AIに小説を書かせることではない。長い物語を、最初から最後まで安定して扱わせることにあるのかもしれない。
ならば、物語を短くすればどうなるだろう。
Aは新しいアイデアを一つ選んだ。今度は、五話程度で完結する短編にする。
前回と同じように、まずAIとの会話から始めた。
主人公は誰なのか。どんな状況から物語が始まるのか。何を目指すのか。途中で何が起き、最後にどのような変化があるのか。
Aは思いついたことを話し、AIから返ってきた案を確認した。気に入らない展開は削り、足りない部分は追加する。長編のときとやっていることは変わらない。
ただし、今回は物語の範囲を最初から五話に限定した。
最初の話で状況を示す。二話目で問題を大きくする。三話目で主人公が選択を迫られる。四話目で解決へ向かい、五話目で結末を描く。
そこまで整理すると、マスタープロットは長くなりすぎなかった。
Aは前回の失敗も、最初から指示へ組み込んだ。
短文を連続させない。一語だけの独立行を多用しない。不要な改行を避ける。段落は意味のまとまりで分ける。強調表現は、本当に必要な場面だけで使う。
さらに、登場人物の設定も簡潔にまとめた。
主人公は慎重だが、決断すべき場面では逃げない。相棒は軽口が多いが、重要な場面では主人公を支える。二人の関係は、話が進むにつれて少しずつ変化する。
AはAIへ、これらの情報を渡して本文を生成させた。
最初に返ってきた文章を読む。
前回よりも、読みやすい。
もちろん、完全ではない。表現が少し説明的なところもあるし、Aが思っていたより感情の動きがあっさりしている部分もあった。しかし、一文ごとに文章が途切れる感じは減っていた。
Aは第1話を修正し、同じ方針で第2話を書かせた。
そこで、別のことに気づいた。
短編では、AIが物語全体を見失いにくい。
五話分の構成なら、今書いている話が全体のどこにあるのかを把握しやすい。主人公が何を知っているのか。次に何が起きるのか。最後へ向かうために、どの情報を出す必要があるのか。
長編のときには、こうした情報が大量にあった。そのため、重要なものとそうでないものの区別が曖昧になっていたのかもしれない。
五話目を書き終えたとき、Aは最初から最後まで通して読んだ。
物語の流れはつながっている。人物の行動にも、大きな矛盾はない。最後の場面には、最初に決めた結末が置かれている。
Aは、前作との違いを考えた。
AIの性能が急に上がったわけではない。同じように会話をし、同じように本文を生成させている。
変わったのは、AIへ渡す仕事の大きさと、指示の内容だった。
前回は、長い物語を一度に扱わせようとしていた。そして、文章の書き方については、ほとんど何も指定していなかった。
今回は、短い範囲に区切り、前回の問題を具体的なルールとして伝えた。
Aは、その結果を記録した。
「長さを小さくすると、全体を把握しやすい」
「過去の失敗を、次の生成条件へ反映すると改善する」
どちらも、仕事でAIを使うときには当たり前に考えていることだった。
大きすぎる仕事なら、分ける。うまくいかなかったなら、原因を整理して次の手順を変える。
それを、Aは小説を書く段階になって初めて意識した。
短編を一つ完成させると、Aはもう一つ別のアイデアを試した。
やはり五話程度にまとめる。AIと壁打ちをする。マスタープロットを作る。執筆方針を追加して本文を生成する。読み返して、気になる箇所を修正する。
作品が変わっても、手順は使えた。
短編なら、マスタープロット全体を渡しても情報量が大きくなりすぎない。AIが設定や展開を参照しやすい。A自身も、各話の役割を確認しながら進められる。
何本か作ったところで、Aは確信した。
うまくいく条件は、AIが賢いかどうかだけでは決まらない。
AIに何を、どの大きさで、どんな指示と一緒に渡すか。その設計によって、出力の安定性は変わる。
そう思うと、短編で得た成功を、もう一度長編で試したくなった。
五話で作れるなら、十話でもいけるかもしれない。
十話でいけるなら、もっと長い作品も作れるはずだ。
Aは新しいメモを開いた。
次に書く作品の目標話数を入力する。
50話。
数字を見た瞬間、少しだけ不安になった。
しかし同時に、試してみたいという気持ちもあった。
AはAIとの新しい会話を開始した。




