第2話 なんか文章がおかしい
最初の数話は、順調だった。
AはマスタープロットをAIに渡し、話数を指定して本文を書かせた。生成された文章を読み、気になるところがあれば修正を指示する。大きな流れは崩れていない。主人公は目的に向かって進み、設定もおおむね守られている。
自分の考えた物語が、少しずつ形になっていく。それだけで十分に面白かった。
ところが、十話を超えたあたりから、Aは文章のあちこちに引っかかりを覚えるようになった。
最初は、気のせいだと思った。
読めないわけではない。意味も通じる。物語も進んでいる。誤字が大量にあるわけでもない。それでも、読み進めると妙に疲れる。
Aは文章を少し戻して、原因を探した。
短い文が連続している。
主人公は剣を抜いた。敵を見た。息をのんだ。次の瞬間。踏み込んだ。
こうした短文が、場面の要所だけでなく、特に強調する必要のない場所にも並んでいた。
さらに、一語だけの行が目につく。
「静寂。」
「困惑。」
「そして――」
単独で使われれば、演出として成立する表現だ。文章の流れを一度止め、読者の注意を集める効果もある。しかし、何度も繰り返されると、意図的な演出ではなく、文章を細かく切る癖に見えてくる。
改行も多かった。ほとんど一文ごとに段落が変わる。会話の応酬ならまだ分かるが、本文まで同じ調子で分断されているため、画面を縦にスクロールするたびに文章が途切れた。
Aは、いくつかの話を並べて読み比べた。
同じ傾向が、どの話にも出ている。
体言止めが多い。短い文が続く。意味のまとまりではなく、文ごとに改行される。場面を盛り上げるための表現が、盛り上げる必要のないところにも現れる。
Aは、これまでAIに出していた指示を思い返した。
「小説を書いてください」
おそらく、それだけだった。
もちろん、マスタープロットは渡している。登場人物や世界設定も書いてある。だが、どんな文章にしてほしいかという執筆方針は、ほとんど指定していなかった。
Aは試しに、AIへ追加の指示を出した。
「短文を連続させないでください。一語だけの独立行や、不要な改行を避けてください。段落は意味のまとまりで構成し、短い表現は演出上必要な場合に限定してください」
そして、同じ場面をもう一度書かせた。
返ってきた文章は、明らかに読みやすくなっていた。
文と文のつながりが自然になり、本文が一文ごとに途切れることも減った。一語だけの行も、必要な場面に絞られている。
Aは少し考えた。
AIは、文章を書けないわけではない。指示をしなかったから、AIが得意な形式で文章を組み立てたのだろう。短い文や頻繁な改行は、目立たせたい場面を作るには便利だ。しかし、それを全体へ適用すると、作品の文体としては不自然になる。
問題は、文章表現だけではなかった。
初期に決めた設定と、後半の文章にも少しずつズレが出ていた。
主人公がまだ知らないはずの情報を、本文が先に説明している。慎重な性格として設定した人物が、ある話では妙に大胆な判断をしている。最初に重要だと考えていた出来事が、話数を重ねるうちにあっさり処理されている。
どれも、物語を完全に壊すほどではない。
だからこそ気づきにくかった。各話をその場で読んでいると、多少の違和感として流してしまう。しかし、全体を続けて読むと、少しずつ別の物語へずれているように感じられる。
Aはマスタープロットと本文を交互に開いた。
プロットには、確かに書いてある。主人公が何を知っていて、何を知らないのか。どの人物がどの場面で考えを変えるのか。物語の重点をどこに置くのか。
それでも、本文では一部が弱くなっている。
Aはそこで、最初に考えた結論を修正した。
AIに小説を書かせることはできる。しかも、かなり書ける。問題は、AIへ仕事を渡すときに、物語の情報だけを渡せば十分だと思っていたことだった。
設定や展開を伝えるだけでは、望んだ文章にはならない。何を重視するのか。どの表現を避けるのか。どの程度の情報を、どの順番で使うのか。そうした条件まで含めて、仕事として渡す必要がある。
Aはメモを開き、今回の問題を書き出した。
短文を連続させない。一語だけの独立行を多用しない。不要な改行を避ける。意味のまとまりで段落を作る。そして、初期設定と本文のズレを確認する。
最初はただ、自分が読みたい小説を作りたかっただけだった。
だが、気づけばAは、AIに小説を書かせるための指示を設計していた。
Aは新しいメモを保存した。
次に書かせる作品では、この方針を最初から渡してみることにする。
そう考えたとき、Aの頭には次の方法が浮かんだ。
「短編なら、うまくいくのではないか」




