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第1話 AI、小説書けるじゃん

Aは、小説を読むのが好きだった。


正確に言えば、書くことには興味がなかった。文章を書くのは仕事でもないし、趣味でもない。休日にパソコンへ向かって物語を作るくらいなら、誰かが書いた作品を読んでいたい。


特に、Web小説をよく読んでいた。


気に入ったジャンルの作品を続けて読んでいると、だんだんと困ったことが起きる。面白い作品を読み終えてしまうのだ。次に読む作品を探して、ランキングや検索結果を眺める。条件に合いそうな作品を開く。数話読んで、少し違うと思って閉じる。


そんなことを繰り返しているうちに、Aの頭の中には「こういう話が読みたい」というアイデアだけが増えていった。


主人公はこういう性格がいい。最初から無双するのではなく、しばらく苦労してほしい。この世界には、こういう仕組みがあってほしい。終盤では、最初から張っていた伏線がつながってほしい。


思いつくたびに、Aはそれを頭の中で少しだけ膨らませた。しかし、実際に書こうとは思わなかった。アイデアを考えるのと、小説を書くのは別の作業だ。場面を作り、人物に台詞をしゃべらせ、情景を説明し、何話も続く形にまとめる。そこまでやるのは、さすがに面倒だった。


ある日、Aは生成AIとの会話を終えたあと、ふと画面を見た。


普段から、AIには仕事の相談をしている。考えを整理したり、文章を要約したり、コードの問題点を探したりする。こちらが材料を渡せば、AIはそれを整理し、別の形に変えてくれる。


ならば、とAは考えた。


アイデアは自分が出す。文章を書く作業は、AIに頼めばいいのではないか。


思いついたAは、新しい会話を開いた。


まず、自分が読みたいと思っていた話の断片を入力した。主人公の性格。舞台になる世界。物語の始まり。途中で起きてほしい出来事。そして、最後にどうなってほしいか。


入力しながら、Aは自分でも驚いた。断片的なアイデアだと思っていたものが、書き出してみると意外に多い。主人公の目的があり、障害があり、仲間がいて、終盤に向かう流れもぼんやり見えていた。


AはAIに尋ねた。


「この設定で、物語全体の構成を考えてください」


AIはすぐに案を返した。


主人公が最初に直面する問題。そこで出会う人物。中盤で明らかになる秘密。終盤で回収される伏線。最終決戦と、その後の結末。


Aは画面を読みながら、気に入らない部分を直していった。「この人物は、もっと慎重な性格にしてください」「この展開は早すぎるので、二つの段階に分けてください」「この伏線は終盤で意味が変わるようにしたいです」。


AIが案を出し、Aが判断する。Aが修正を求め、AIが展開し直す。その繰り返しは、思っていたより楽しかった。


自分一人で考えていると、アイデアは同じ場所をぐるぐる回る。しかしAIに投げると、予想していなかったつながりが返ってくる。もちろん、採用できない案も多い。それでも、案が出てくるだけで次に考える材料になる。


しばらく会話を続けた結果、物語は十五話程度の構成になった。


各話で何が起きるのか。主人公が何を目指すのか。どこで状況が変化するのか。最後にどこへ着地するのか。細部まで決まっているわけではないが、少なくとも物語全体の道筋は見える。


Aはそれを、マスタープロットとしてまとめた。


そして、そのプロットをAIへ渡して依頼した。


「第1話を書いてください」


返ってきた文章を、Aは半信半疑で読み始めた。


主人公が登場する。自分が考えた設定に沿って、世界の説明が始まる。人物が会話をする。Aの頭の中にあったキャラクターが、画面の中で動き始めていた。


もちろん、細かな表現はAの想像とは違う。思っていたより説明が多いところもあれば、逆にあっさりしているところもある。だが、物語として読める。


次の話を生成させると、主人公は最初の問題に巻き込まれた。さらに次の話では、AIが補った設定によって、A自身が考えていなかった場面が展開された。


Aは、その場面を読んで少し笑った。


大筋は自分が決めている。それなのに、細部がどうなるのかは自分にも分からない。先の展開を知っているはずなのに、読者のような気分で続きを読める。


数話を書かせたところで、Aは椅子の背もたれに体を預けた。


「これ、本当に小説作れるじゃん」


最初は、単なる思いつきだった。


自分が読みたい話を、AIに書かせてみる。それだけの遊びのつもりだった。


しかし、画面の中には、確かに物語があった。


Aはすぐに続きを生成させた。自分の考えた主人公が、この先どう動くのかを見たかった。


このときのAは、まだ知らなかった。


AIに小説を書かせること自体は、思っていたより簡単だ。だが、何話も書き続け、最後まで読める作品にするには、別の問題が待っている。


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