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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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9話

 頭の中が、一瞬だけ真っ白になる。

 

 幼馴染? ……誰が? 誰と? 

 

 視線が、ゆっくりと奈々の方へ向く。

 

 奈々は、青ざめた顔でこちらを見ていた。

 

 あれは、俺を見てあんな顔をしてるんじゃない。

 今のこの状況を見て、勇気を出さなかった故に引き起こしてしまったと後悔してる顔だ。

 

 

 だから——

 

 

(勘違いするなよ、塚田)

 

 

 胸の奥で、ドス黒い粘ついた感情が沸き立つのを感じる。

 でも、それを押し込める。

 

 

 こんなのは、想定外じゃない。

 

 

 想定外に見えるだけで——ちゃんと意味はあるはずだ。

 

 

 ゆっくりと、口元が歪む。

 

 

 ……ああ、なるほどな。

 やっと分かった。


 

「お前、そういう役か」

 

 

 視線を、目の前の男——快人に向ける。

 

 

 幼馴染、ね。

 いかにもそれっぽいポジションだ。

 

 

 最初から近くにいて、家族同然と見られて……最後は主人公には勝てないポジション。

 

 

 ——よくある、引き立て役だ。

 

 

「……そうか、そうだったんだな」

 

 

 ぽつりと呟き、余裕たっぷりに笑みを浮かべる。

 

 息をすると血の臭いでくらくらするが、不思議と痛みは気にならなかった。

 

 

「納得したわ」

 

 

 軽く首を鳴らす。

 周囲のざわめきが、少しだけ大きくなる。

 

 誰かがスマホを構えているのが見えた。

 

 

 ……好きにしろ。

 そんなもの、どうでもいい。

 

 

 大事なのは——こいつに打ち勝たなきゃいけないって事だ。

 

 

 ゆっくりと、快人の方へと一歩踏み出す。

 じっとりと彼の目を見つめながら。

 

 

「幼馴染ってことはさ」

 

 

 視線を外さずに言う。

 

 

「ずっと一緒にいたってことだろ?」

 

 ピクリと快人が身動ぎする。 

 

「それで、今その距離って——」

 

 

 口元が、わずかに歪む。

 

 

「お前は脈無し。分かる?」

 

 

 快人は言葉を返さない。

 

 

(図星、か)

 

 

 奈々の方へ視線を向けるが、互いの視線は交わることはない。

 

 

 でも、全部分かってるよ。

 助けを求めてるって。

  

「奈々」

 

 

 もう一度、名前を呼ぶ。

 さっきより、少しだけ強く。

 

 

「大丈夫だから」

 

 

 ゆっくりと、言葉を落とす。

 

 

「俺がちゃんと——」

 

 

 快人に肩を掴まれた。

 強い力でギリギリと指が食い込む。

 

「もうやめろ」

 

 ……まったく、こいつは何を言ってるんだ?

  

 俺は呆れながらもその手を外そうとして……外せなかった。


「奈々は……お前のおもちゃでも彼女でもないんだ。奈々の意思を尊重しろよ」



 その言葉が、妙に重く響いた。

 

 ——奈々の意思を尊重しろ。

 

 

 ……。


 

 

「……分かってるさ」

 

 

 小さく呟く。

 

 

 ヒロインを守る壁。

 

 主人公の前に立ちはだかるイベント。

 

 

(ちゃんと、段階踏んでるってことか)

 

 

 納得した。

 

 

 ゆっくりと息を吐いて、肩の力を抜く。

 

 

「……いいよ」

 

 

 ぽつりと呟く。

 

 

「今日は、ここまでにしとく」

 

 

 そう言って——奈々の方を見る。

 

 

 相変わらず、目は合わない。

 

 

 でも、それでいい。

 

 

 軽く口角を上げて、指先で小さくウインクを送る。

 

 

「またな、奈々」

 

 

 その一言を、やわらかく投げる。

 

 きっと伝わってるはずだから。

 

「……で?」

 

 

 視線を、目の前の男に戻す。

 胸ぐらを掴んでいる手。

 

 

「いつまで触ってんの?」

 

 

 少しだけ、声を低くする。

 

 

「離せよ、噛ませ犬」

 

 

 その瞬間、ぐっと掴む力が強くなる。

 

 ……胸の奥が、ひやりとした。

 

 

(……いや、ビビる理由ないだろ)

 

 

 すぐに思考を上書きする。

 こんなの、ただのモブだ。役割持ちの障害物ってだけ。

 

 

「……なんだよ、図星だからってイキってるのか?」

 

 

 そのまま、拳を振りかぶる。 

 

「さっきの借り、返してやるよ」

 

 

 一直線に——振り抜く。

 


 

 だが、止められる。

 手のひらで包むように受け止められ、そのままぴたりと動かない。

 

 

「……」

 

 ……は。


 

 すぐに、口元を吊り上げて余裕の笑みを見せる。


「……ふぅん?」

 

 

 軽く鼻で笑う。

 

「やるじゃん」

 

 

 掴まれたまま、余裕を崩さずに言う。

 

「で、それで勝った気になってんの?」

 

 

 快人の目が敵意で細められ、周囲のざわめきがまた一段大きくなった。

 

 

 誰も止めようとはしない。 

 ある者は楽しげに、ある者は困惑して視線を俺達へと向けている。

  

 全員の手にはスマホが握られ、そのレンズは全てこちらへ向いていた。

 

 


 

 その多くの視線に晒された中で、俺はふっと肩をすくめた。

 

「……ま、いいや」

 

 

 掴まれたままの手首を軽くひねって力を抜き、攻撃の意思は無いと空いている手をヒラヒラと振ってみせる。

 


「今日はこれで許してやるよ」


 

 ゆっくりと歯を見せて笑って見せた

 

「でも勘違いすんなよ」

 

 吐き捨てるように言う。

 

「奈々の気持ちは——こっちに向いてるから。邪魔すんなよ」

 

 

 軽くウインクを飛ばすと、快人は困惑に包まれたような顔で力なく腕を下ろした。

 


「またな」

 

 

 そのまま踵を返す。

 

 ざわめきが背中に刺さるが全部、どうでもいい。

 

 

(決まった……けど、何か腹立つな)

 

 

 一歩、ゆっくりと踏み出し二歩。

 三歩目を踏み出そうとした瞬間——

 

「シュッ!」

 

 

 振り向きながら躊躇なく、拳を振り抜いた。

 

 

 ——ガツン、と鈍い音を立てて拳か快人の顔面に直撃する。

 

 

 自分でも分かる。正に完璧なタイミングだった。

 

 

(油断したな)

 

 

 手応えに口の端を吊り上げるも、次の瞬間には視界がグラリと揺れて、空を見上げていた。

 

 

「……あ?」


 空が青い。

 

 熱いアスファルトに焼かれ、カッと顔か熱くなる


 モヤつく視界に理解が追い付かない。

 


 

 頬に走る鈍い痛み。

 

 口の中に広がる、鉄の味。



 (……殴り返されたのか?)

 

 

 思考が、追いつかない。

 

 

 視界が滲む。

 涙か、汗か——分からない。

 

 喉に、ドロリと熱いものが流れ込んだ。

 

 

「……ッ、げほっ……!」

 

 

 思わず咳き込む。

 

 

 血の味が、むせ返るほど濃くなる。

 

 

 鼻からも、何かが垂れてくる感覚。

 

 

 呼吸が乱れ、肺が焼けるみたいに痛い。

 

 

 それでも——口元は、弧を描くように歪んでいた。

 

 

「……ははっ……」

 

 

 掠れた笑いが、漏れる。

 

 

「いいじゃん……」

 

 

 ふらつきながら、ゆっくりと体を起こす。

 

 

「やっぱこうでなくちゃな」

 

 

 血を吐き捨てる。

 

 

「イベントってのは……盛り上がらないと意味ねぇだろ?」


 ふらつく足を踏ん張りながら、もう一度拳を握る。

 

 視界はまだ滲んでいるが関係ない。

 

 もう一歩、踏み込もうとした——その瞬間。

 

 

「やめてっ!!」

 

 

 甲高い声が、空気を裂いた。

  

 駆け寄ってきた奈々が両手を広げて、俺と快人の間に立つ。

 

 

 肩が、小さく震えている。

 

 

「もうやめて……!」

 

 

 声も身体も全部が震えていた。

 その瞳には、涙が滲んでいる。

 

 

「お願いだから……やめてよ……」

 

 

 絞り出すような声。

 

 その一言で、握っていた拳がふっと軽くなる。

 

 

 自然と力が抜け、ゆっくりと——腕を下ろした。

 

 

「……」

 

 

 じっと、強い意志の籠もった瞳で俺を見つめる奈々。

 

 涙で濡れた瞳。

 震える肩。

 きゅっと結ばれた形の良い艷やかな唇。 

 

 ……。

 


 ここまで来て、やっと——本音、出してくれたね。

 

 きっと、怖かったんだろう。

 でもそれ以上に——俺が傷つくのが嫌だったんだ。

 

 だから、止めに入った。

 

 

 ……分かるよ。

 

 

 全部。

 

 

「……分かった」

 

 

 小さく呟く。

 

 

「奈々がそう言うなら、やめる」

 

 

 それだけ言って、ほぐすように軽く肩を回し、 垂れる鼻血を指でぬぐう。

 

 

 血がついた。

 でも、気にならない。

 

 

「今日はこれで終わりな」

 

 

 快人の方を一瞥する。

 

 ……もう、あいつはどうでもいい。

 

 視線を奈々に戻す。

 

 

 さっきよりも、柔らかく笑ってみせた。

 

 

「ありがとな」

 

 

 その一言だけ伝え、くるりと背を向ける。

 

 

 ざわめきが、背中に流れていく。

 

 

 誰も、俺を引き止めてこない。

 ゆっくりと歩き出す。

 

 

 足取りは、軽かった。

 

 

(これで——距離、縮まったな)

 

 

 口元が、自然と緩む。

 

 

 空は俺の心のように、やけに明るかった。

 

 

(次こそは、ちゃんと誘えるな)

 

 

 そう思いながら、俺は帰路についた。

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