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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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10話

「……ただいまー」

 

 いつも通りに帰宅する。 


 そのまま廊下を進みリビングのドアを開けると、今日は珍しく月が居た。

 

「……え」

 

 微かに漏れるような声を出して、視線が俺に……正確には俺の服へ向けられる。

 

 

「……なに、その……」

 

 

 言葉が続かない。

 

 

 ……まあ、無理もないか。

 

 

 シャツには飛び散った血が乾いて赤黒くなっていて、顔にも乾ききってない赤い跡が残ってるんだから。

 

 

「ちょっとな」

 

 

 肩をすくめる。

 

 

「邪魔されちゃって」

 

 

 軽く笑う。

 まるで、大したことじゃないみたいに。

 

 

「……は?」

 

 

 月の声が、かすれる。

 

 

 その手に握られているスマホが、わずかに震えていた。

 

 

 画面は明るく、動画が流れていた。

 視線を向けて少し見てみる。

 

 

 ……ああ。

 さっきの、か。

 

 

(もう回ってんのかよ。早いな)

 

 

 内心で感心する。

 

 

 俺が殴って。

 殴られて。

 奈々が止めに入って。

 

 ——全部、映ってる。

 

 今見ても、アニメのワンシーンみたいだ。

 

「本当だったんだ……」

 

 

 ぽつりと、月が呟いた。

 その声は、明らかに震えていた。

 

 

「ああ、俺がやった」

 

 

 苦笑しながら肩をすくめてみせる。

 

 

「ちょっとしたイベントだって」

 

 

 軽く言いながら、キッチンへと向かう。

 

 

「イベントって……何それ……」

 

 

 月の声が、背中に刺さる。

 でも——気にしない。

 

「いやさ、昨日相談した奈々の事なんだけど。誘おうとしたら邪魔が入ったんだよ」

 

 

 手をひらひら振る。

 

 

「でも大丈夫。ちゃんと勝ったから」

 

 

 そう言って俺は冷蔵庫を開けた。

 妙に喉が渇いているんだ。

 

 

「……勝ったって……どこが……?」

 

 

 月はソファーから立ち上がり、そろそろとリビングのドアまで後退っていく。

 

「奈々との距離、今日でかなり縮まったからさ」   

   

 

 ペットボトルの蓋を開けて、一気に流し込む。

 

 

「はぁ……っ!?」

 

 

 月の声が、裏返った。

 

 

「何言ってんの……!?」

 

 明らかに動揺している。

(ふふ、そうだろうな。お兄ちゃんはもう奈々の彼氏同然になってしまったんだから)


追撃するようで悪い気もするが、少しドヤ顔をしつつ続けた。


「明日、奈々の家行ってくるわ」

   

「はぁ!? ちょ、ちょっと待って……!」

 

 月はふるふると首を横に振る。 

 

「本当にやめた方がいいって!!」

 

 

 必死な声。

 さっきまでのそっけなさとは、明らかに違う。

 

「なんでだよ」

 

 

 俺はきょとんとして、首を傾げてみせた。

 

 

「むしろ今が一番いいタイミングだろ? 今日でだいぶ距離詰まったし、吊り橋効果もあるし」

 

 

 冷静に分析しても、成功するとしか思えない。 

 


「向こうも、もう俺を意識して夢にも見てくれるはずさ。俺が奈々の夢いつも見てるんだから」

 

 

 だからこれは、確信なんだ。

 

 

「違うって!!」

 

 

 月が叫ぶ。

 その声は、何故か悲鳴のようだった。

 

 

「それ、そういうのじゃないから!! それ以上その奈々さん? に関わらないで!」

 

 

 ……何言ってんだ?

 ほんと、分かってないな。

 

 

「はぁ……」

 

 

 小さくため息を吐く。

 


「やっぱり月にはまだ難しいか」

 

 

 肩をすくめ、もう一度ペットボトルのコーラを呷る。

 

 

「いいから気にすんなって。上手くやるからさ」

   

 迷う必要なんて、ない。


 俺は、主人公なんだから。

 


*   *   *



 翌日、俺は昼過ぎから奈々の家に行った。


 一応インターホンは鳴らさなかった。

 昨日ああいうことがあったし、いきなり家に行くのは流石に重いからな。

 

 だから、少し離れた場所の日陰で様子を見ることにした。



 蝉の声が狂ったように夏空に響いていて、クマゼミの鳴き声が次第に物騒な鳴き声に聞こえて来た。

 

『シネシネシネシネシネシネシネシネ……』


 あぁクマゼミよ、何故そう荒ぶられるのか。

 聞き続けていると俺まで狂ってきそうだ。



 しばらくして、奈々が家から出てきた。


 待った甲斐があった。



「奈々ーっ!!」

 


 走って駆け寄った瞬間、奈々は「あ、ごめん忘れ物!」と言ってすぐに家に戻ってしまった。


 ……ドジっ子だな、奈々は。


 それから待てども奈々が出て来る事はなかった。月の夕飯も作る関係で、19時に引き上げた。 


 

***


 

 二日目。


 

 今日も奈々の家に行った。

 もしかしたらと思って、少し早めに待機。

 

 すると、清川家から車が出ていくのが見えた。

 俺の前を通り過ぎていく車の後部座席に奈々の姿があった。


 


 親と一緒に外出か……。

 まあ、夏休みだしな。家族で出かける日もあるだろう。


 仕方なくこの日は早めに帰った。


***

 


 三日目。


 


 今日も少し時間をずらしてみた。

 

 月の昼飯は用意してきた。だから今日は長丁場でも大丈夫。




 昼前にどこかで見たような連中が奈々の家にやってきた。


 どこかでみたような女子が二人と塚田快人。そしてモブ1と2が奈々の家までやってきた。


 


 ああ、あの時のやつか。

 ……まあいい。


 今俺が出て行ったら、あの日の二の舞になってしまうからな。今日のところは、先約に譲ってやろうじゃないか。

  


***


 


 四日目。


 


 今日は完璧なはずだった。


 やっと、奈々が一人で出てきた。

 


 今度こそ、と思って物陰から歩き出した瞬間——

 家の前に車が止まって、奈々が乗り込んだ。


 


 ……迎えか。


 

 俺の前を悠々と通り過ぎる車を見送るしかなく、その場に手にしていたスポーツドリンクのペットボトルを叩きつけた。

 


 


***


 


 五日目。


 


 流石に分かってきた。


 奈々は、とにかく忙しいんだな。


 家族、友達、予定。

 人気者って大変だな。


 でも、そういう合間に会いに行くのが、主人公ってやつだろ。


 

 ちなみに、今日も会えなかった。


 


***


 


 六日目。


 


 今日は姿すら見えなかった。


 カーテンも閉まってたし、外出してたのかもしれない。


 ……ちょっとだけ、寂しいな。




***

 


 七日目。


 


 また会えなかった。


 ……いや、違うな。会えないんじゃない。


 タイミングが悪いんだ。


 ラノベでもよくあるすれ違いの期間。


 会えない間に互いに気持ちが募っていく。

 自分の気持ちが分かってくる。

 

 そして——再会イベントで想いを伝えるんだ。


 これは布石。


 焦るな。


 焦るな俺。



***


 

 奈々の家に通い始めて、何日が過ぎただろうか。

 

 会いたい。

 でも会えない。

 

 想いばかりが積もっていく。

 

 奈々。

 

 あぁ……奈々。


 何で会えないの? 何で?


 何で何で何で何で何で何で何で何で何で???


 俺は毎日、こんなに狂うほど君を想っているのに。

 毎日、君を見守っているのに。


 何で、会えないの??


 もう明日は、花火大会だよ……?



 奈々……ッ!!




  



***




 迎えた花火大会当日。

 ここまで来たら、もう分かる。


 これは、今日のための伏線だったんだ。


 これで全部、繋がったよ。


 奈々もきっと、分かってたんだ。

 


(今日こそ、決める)




 俺は、浴衣姿の奈々を想像しながら、家を出た。


  


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