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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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5話

今日から朝と晩2話ずつ投稿します!

読み飛ばしに注意です!

 期末試験が終わった。

 

 最後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気に弾ける。


「終わったー!!」


「マジで解放感やばいって!」


 


 あちこちで歓声が上がる。

 机を叩く音、笑い声、奇声を発する声。


 そしてその喧騒は、すぐに来る夏休みの話題一色になる。 


「でさ、夏休みどうする?」


「花火大会行こうぜ!」


「海もいいよなー、去年行けなかったし」


「カラオケも行きたい!」


 キラキラした予定が、ぽんぽんと飛び交う。

 語り合うクラスメイト達の顔は同じくらいキラキラしているが、俺は話す相手も居らず、机に肘をついて、頬杖をつく。 

 

 表面上は興味なさそうにしているが——耳は、しっかりと会話を拾っていた。




 花火、夏祭り、海。


 ……ラノベでよくあるやつだ。

 イベントごとに距離が縮まって、気付いたら——みたいな。



 視線を落として、カバンから取り出したラノベに目を通す。


 今読んでいるのは、自分を誰かが観察して書いているような——まさしく今の俺を表しているような作品。

 ぼっちで陰キャな主人公が、クラスのアイドル的存在と友達になる話。……友達と言い張っているが、もう実質付き合っているも同然な二人が、色んなトラブルを越えて絆を深め、いよいよ夏休みでは花火大会で浴衣デートをする。

 


 初めて着る浴衣に照れるヒロイン。


 人混みではぐれそうになって、手を引く主人公。


 ……そのデートで、花火が打ちあがる瞬間……!! ヒロインが主人公に告白するけど花火の音で掻き消されてしまう!!

 『何だって?』と聞き取る為に顔を寄せた主人公へ、一度微笑んだヒロインが……主人公にき、キスをする……ッ!!!



「ふ、ふぉぉぉぉっ!!!」



 いかん、つい昂ってニヤニヤと興奮が……!


 周りを見て、誰も今の絶頂を見られていない事を確認して、ほっとして再びラノベの挿絵へと視線を落とす。



 間違いない、俺はラノベ主人公だ。だってあれだけ沢山の作品を見て、主人公らしさをインプットしてきたんだ。

 

 それに――ヒロインだっている。

 


 視線を、ほんの少しだけ横に向ける。


 奈々が、楽しそうに女友達と話している。

 さっきの流れで、予定の話をしているみたいだ。


 笑って、頷いて。


 

 俺は奈々の桜色の綺麗な唇に視線を奪われていた。

 

 キス……奈々と、キス。



 悶々とする心を落ち着かせるように再びラノベへと視線を落として耳を澄ませていると、奈々の声に気になる単語が混ざったのが聞こえた。


「浴衣……お母さんが買ってくれたんだ」


「へー! いいね! 奈々、それで夏祭りいこ!!」


「うんっ!! あ、工藤君とかも誘う?」



 浴衣……っ!! 大和撫子を体現したような天使の奈々が、浴衣を着たら……。

 

 それと、工藤? 誰だっけ……ああ、勉強会の時のモブか。……あいつらとも行くのか。


 


 まあ、そりゃそうか。

 奈々は誰にでも優しいし。


 

 ——でも。



 指先で、ページの端を軽く弾く。 


(ちゃんと、分かってるはずだ)


 みんなの前で、露骨にはできないだけで。

 ……タイミングってやつがある。


 


 直接じゃなくて、自然な流れで。

 そういうのも、賢い奈々は、ちゃんと考えるタイプだ。

 


 だから——



(そのうち、来るだろ)


 


 小さく息を吐く。

 焦る必要はない。


 夏休みは、まだまだこれから始まるのだから。


 


 *   *   *



 なんやかんやと時間は流れ——気が付けば、長期休暇まであと二日となっていた。


 教室の空気は、すでに完全に夏休みに傾いている。


 

 授業なんて上の空。

 先生の声も、どこか遠くに聞こえる。


 

 ノートを取る音よりも、ひそひそと交わされる予定の話の方が、よっぽど大きく感じた。

 ……なのに。



(まだ、来ない)

 

 ノートへの落書きを続けていたペン先を止める。



 奈々は、いつも通りだ。

 誰にでも優しくて、誰とでも話して、夏休みの予定も普通にみんなと決めている。



 ——俺のところには、何も言ってこない。

 

 こういうのは、タイミングってやつなのは分かっている。

 

 みんなの前で露骨に誘うタイプじゃないのも分かっている。

 ……分かっているけど。



 指先で、トントントンと机を軽く叩く。


 さすがに、少し遅い。

 ここまで来て何もないのは、逆に不自然だ。



 焦らされるのも嫌いじゃない。

 すれ違う時間も大切な思い出になるってラノベでも言っていたからな。


 だから、きっと機会がなかっただけだ。


 


 だったら——


(俺が作ればいい)

 


 ほんの少し、流れ(シナリオ)を整えてやればいいだけだ。


 ラノベマスターの俺からすれば、簡単な事さ。


 


*   *   *


 


 ――放課後。


 チャイムが鳴ると同時に、教室は一気にざわめき始める。


 「あと1日ー!!」

 「フゥーっ!!」

 

 頭が常夏の馬鹿が騒ぎ立て、眉を顰める生徒よりもその陽気さに誘われ、笑みを浮かべる生徒の方が多い。

 だが、俺の顔は鉄仮面だ。


 何が楽しいのか、何故そんなに頭ハッピーセットになれるのか分からないからだ。



 騒めきの中で、俺はゆっくりと立ち上がる。

 奈々の動きを、視界の端で捉えながら。

 

(……今日は、早いな)



 もう帰るつもりらしい。


 なら、ちょうどいい。


 

 足早に教室を出て、廊下へ。

 

 他のクラスから吐き出されていく人の流れが、外へ外へと続いていく。


 

 偶然を装って、ちょっとぶつかっても良い。むしろ不慮の事故と言う事で抱き締めてしまってもいいだろう。

 その流れで、奈々の家まで送りながら夏休みの約束をする。

 

 毎日話せるように、SNSのROADも交換しよう。

 何なら、毎日遊びに行っても良い。奈々となら、きっと楽しめるはずだ。



 校舎を出て、校門前で壁に寄りかかりスマホを取り出す。

 画面を見ているふりをしながら、ただタイミングを待つ。

 




(こういうのは、自然にやるのが大事だからな)

 

 ——少しして。


 聞き慣れた声が近付いてきた。

 


 奈々だ。

 友達と一緒に歩いてくる。

 

 でも大丈夫、彼女はここから寄り道する予定がなければ――


 

 校門前に差し掛かると、奈々は名残惜しそうな表情を浮かべ、友人達へ手を振った。


 ——そう、奈々は友人達とは別方向の家なんだ。



「いよいよだ。気合い入れろ……俺!」


 俺は駆け足で物陰に隠れる。


 スマホを握り締める手が汗でぬるぬるするが、一度しっかりとズボンで拭い、持ち直す。

 歩きスマホによる衝突事故だ。



 コツコツとアスファルトを叩くローファーの靴音に耳を澄ませ、タイミングを合わせて飛び出す。

 ——偶然を装うように。


 ドンッと誰かとぶつかる衝撃。

 俺は揺るがないが、ぶつかった相手はその場で転び、尻もちをついてしまう。


 その相手はもちろん――


「いたたた……あ、あれ? 白井君……?」


 尻もちをついた奈々が、驚いたようにこちらを見上げていた。



(……やば、思ったより強くいったか?)



 思ったよりも強くぶつかってしまい、転んだ衝撃でスカートが捲れ、奈々の白い下着が僅かに覗いていた。


 無論、俺はそんな奈々のあられもない姿に目が釘付けになってしまい、思考が停止してしまっていた。


「ッ……!」


 スカートを押さえながら、慌てて体勢を直す奈々。


 その動きに、再び視線が引っ張られる。




 違う、今はそうする場面ではない!


「ご、ごめん。大丈夫か?」



 自然に手を差し出す――が、奈々はその手を取らず、自分で立ち上がった。


 そしてそのまま、少し距離を取った。



「ご、ごめん……私こそ。ちゃんと前見てなかったな……はは……」


 引きつったような笑顔を浮かべる。

 ほんの少しだけ、声が固い。


 ……まあ、突然ぶつかったんだし、無理もないな。

 

 

「……ごめん。ほんとに大丈夫か?」


 もう一度、念押しするように言う。

 それに奈々は小さく頷いた。



「うん、大丈夫……びっくりしただけ」


 


 スカートの裾を軽く整えながら、視線を逸らす。

 ……やっぱり、驚かせたな。


「悪い。ちょっと考え事しててさ」


「ううん、私も前見てなかったし……」


 お互いに、無難な言葉で場を整える。

 会話が途切れ、沈黙が落ちた。



 ——今だ。


「そういえばさ!」


 できるだけ自然に、声をかける。



「もうすぐ夏休みだな」



 奈々が顔を上げる。


 

「うん、そうだね」


 柔らかい返事。

 いつも通りの声。


 流れは掴んだぞ。


「なんか予定とか、決まってるの?」


 

 まずはジャブ程度に軽く聞く。

 あくまで、世間話の延長だ。


「うーん……」


 奈々は少しだけ考えるように視線を上げて。


「友達と、花火大会行く話してるくらいかな」


 花が咲いたような、可憐な笑顔を見せてくれた。


 


 ――さぁ、ここからだ。


「へぇ、いいな」



 軽く笑って、肩をすくめる。

 

「俺、そういうの行ったことなくてさ」


 少し間を置き、奈々の反応を見る。



「そうなんだ」

 


 短い返事。 

 それ以上は、続かない。


 

 ……いや、まだだ。まだ終わらんよ!


「花火とか、近くで見たら結構迫力あるらしいしさ」


 言葉を足す。


「一回くらいは、誰かと行ってみたいなって思ってるんだけど」 



 ——ここで、来るはずだ。 

 奈々、絶好のチャンスだ。俺を誘ってくれ。

 


「……そうだね。きっと素敵だと思うよ」



 返ってきたのは、困ったような笑顔と、その言葉だけだった。


 

 思考が止まる。 


「……あ、ごめんね。私そろそろ行かなきゃ」

 

 時計を見る仕草。

 呆然とし続ける俺に奈々は少しだけ微笑みながら、ひらひらと手を振った。

 


「ごめんね、また学校で」


 軽く会釈して、そのまま歩き出す。


 


「……ああ」 

 


 反射的に、声を返す。



 奈々は振り返らずに、そのまま人の流れに紛れていった。


 


 少しの間、その場に立ち尽くす。


 

 何故?

 何故奈々は俺を誘わなかった?

 何故だ……。

 

 こういう場面って、好意を抱いているヒロインから誘うものなんだろ!?

 

 ラノベではそうだった。 

 精一杯の勇気を振り絞って、去り際にシャツをちょこんと摘まんで、誘うのがヒロインだろ!?




 ……いや、違うな。

 これはタイミングが悪かっただけだ。


 きっとそうだ。


 さっきのは、流れが早すぎた。


 奈々も、衝撃を受けて考える余裕がなかったんだろう。



 ……焦る必要はない。 


 夏休みは、まだ始まってすらいないんだから。



 ——次は、上手くやる。

 

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