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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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4話

「あーあ、遅くなっちゃったな。……でも、人助けしたんだからいいか」


 家に帰ると、室内はやけに静かだった。



「月ー? ただいま—」


 声をかけても返事はない。 

 ……それはいつものことか。


 

 靴はある。

 帰ってきてるのは間違いない。


 


 リビングに入っても、誰もいない。

 テレビもついていない。


 ……珍しいな。

 あいつ、だいたいソファでスマホいじってるのに。



 軽く眉をひそめ、階段の方に視線を向けると、階段も二階の廊下も照明は点いておらず、暗いままだった。


 

「寝てるのか……?」 

 


 少しだけ、気になる。

 放っておいていいのかどうか。


 ……いや。兄として、妹を守る義務があるんだ。


 

 俺は階段を駆け上り、月の部屋の前まで行くと迷いなく部屋のドアノブを回した。



 「……あれ? 鍵かかってる」


 何度かガチャガチャと回してみるが、開く気配もない。


 「はぁ……手のかかる妹だ」


 

 俺は仕方なく、自室に戻って財布の中にある合い鍵を手に、再び月の部屋の前までとんぼ返りした。


 ガチャリと鍵が開く音。そのままノブを回して室内へと踏み込む。



「月、無事か? 大丈夫か?」



 ドアを開けた瞬間、少しこもった空気が流れ出てきた。

 いつも通りカーテンは閉め切られ、部屋の中は薄暗い。


 

 ベッドの上で毛布を被っていた月が勢いよく身を起こした。


 


「んなっ!? なんで……勝手に入ってこないでよ!!」


 顔をしかめてこちらを睨む。

 ……相変わらずなツンツン具合だ。



「ノックしただろ、声もかけたしさ?」



「ふざけんなっ! だからって勝手に入ってこないで!」


 間髪入れずに怒鳴り声で返される。

 その必死さに俺は苦笑しながらも、頭を掻きながら笑顔で答えた。


「あー……あはは、とにかく月が無事で良かったよ」 


「うっさい!! 死ね!!」 


 声や言葉は強いが、視線が泳いでいる。それに声もどこか震えている。


 本当は心細かった……そんな目だ。



 

 ……月も15歳。高校受験も控えてるし、苛立ってああいう言い方しかできないだけだろう。


 世の親達よ、思春期の子は大変だぞ。俺みたいにちゃんと寄り添ってあげなきゃだめだ。

 じゃないと、一人殻にこもってしまうから。

 

 俺にはちゃんと分かる。妹の悩みも悲しみも。

 ……近々月の中学も見に行ってあげなきゃな。 

 

 贔屓目に見なくても我が妹は可愛いし、変な虫が付かないようにお兄ちゃんは必死なのだ。




「まぁまぁ、体調は大丈夫なんだな?」



「別に。普通だから」


 

 月はそっぽを向きながら答えた。

 そのまま、布団を引き寄せて距離を取る。



「何かあったら俺に言うんだぞ……っと、そうだ。今日夕飯何がいい?」


「……いらない」


「だめだ、食べなきゃ元気出ないだろ?」


「いらないって言ってるでしょ!」



 ……やれやれ、イヤイヤ期かな。

 俺は我儘ばかりの妹へ肩をすくめながら、部屋の外に出た。


 「分かった分かった。何か美味いもの作っておくから、後で食べろよ?」


 月は、何も答えなかった。

 ただ、潤んだ瞳で俺を上目遣いで見る姿が全てを物語っていた。

 目は口ほどに物を言うって言うもんな。



『我儘ばかりでごめんね、お兄ちゃん』


 月の瞳はそう語っていた。


「良いってことよ、妹よ」




 俺はニッと爽やかに笑みを見せて、ドアを閉めた。


「さぁー! やるぞー!」


 今日はから揚げ買ってからマヨ丼にしよう。そうしよう。


 妹の素直じゃない甘えに、自然と口角が上がり鼻歌が溢れ出す。

 

 ああ、俺の妹は本当に可愛い。



*   *   *



 から揚げを買いに外に出た俺は、初夏のムワッとした風に顔を顰めた。

 

 確か、この前買ったラノベでは、魔法が突然使えるようになった話を読んだんだっけ。



「風の精霊よ、冷たい風を運べ!」


 ……なんてな。

 つい羞恥心でニヤニヤしながら、俺は店へ足早に歩いた。



 途中、近道で通った公園では発情したカップルが周囲の目を気にする事なくいちゃついていた。



「はぁ……家でやれよ。いや……爆発しろ」


 通り過ぎ際に軽く睨んでやると、彼氏のほうがビビったような顔を浮かべていた。


 強者は目だけで相手を威圧し、戦意を奪う。

 それを実感して、俺はちょっとだけ気分が晴れた。


 

 ……ほら、負け惜しみに負け犬が吠えてら。ゲラゲラと下品に笑っちゃってさ。 

 関わりたくないね。


 

 

 やっと到着したから揚げ屋。ニンニクや油の香ばしい匂いが漂っていて、空腹を更に加速させる。


 俺は迷いなくももから揚げを6つ。月の分の低カロリーなむねから揚げを2つ注文する。


「少々お待ち下さいー」


 店員の言葉に会釈し、椅子へと腰掛けてスマホを取り出す。

 検索するのは『小説を練ろう』のランキングページ。


「良い時代だよなぁ。無料でラノベが読めるんだから」


 サッとスワイプし、並ぶ似通ったタイトルの中から、琴線に触れそうな物を感覚で選び取る。

 

「俺みたいなラノベのプロでなきゃ、見逃しちゃうね」


 自分で呟いていて面白くなって、つい吹き出して笑ってしまう。

 

 

 カウンターに座る美人なお姉様がチラリとこちらへ視線を向けた。

 目が合うとすっと逸らされるが、悪い気はしない。


 

 外はもう暗く、窓に反射する自分の顔を横目で見る。


 

 ……悪くない。



 少し伸びた髪が目元に掛かり、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 ちょっぴり癖のある跳ね方も、むしろ味ってやつだ。



 ——いかにも、主人公っぽい。

 


 口元に指を添えて、思慮に耽るような仕草をしてみる。


 

 ……うん。このくらい余裕がある方が、様になる。


 


 ふと、ガラス越しに映る店内の様子が目に入る。

 さっきの女性が、こちらをちらりと見て——すぐに、別の方へ視線を逸らした。



 ……ほらな。ああいうの、分かりやすいんだ。

 視線に敏感な俺だから分かる。目が合った瞬間に逸らすのは、意識してる証拠だ。


 

 ——まあ、無理もないか。

 自分でも、ちょっと出来すぎてると思うし。


 

 軽く前髪を指で整えると、素直にその形をキープしてくれる。

 癖っ毛だけど、その点だけは便利でありがたい。



「テイクアウトお待ちのお客様ー」


 おや、存外に早い。ちょっといたずらでキメ顔のまま受け取ってみるか。



「はい」


「っ――ご注文のお品物です、ありがとうございました」



 店員のお姉さんの顔が僅かに固い。


 急に正面から来られたら、心の準備も出来てないもんな。

 軽く頷いて、袋を受け取る。


「どうも」



 いつもより少しだけ低めの声で挨拶し、そのまま背を向けて出入り口の自動ドアの前に立った。


 開く自動ドアのガラスに、もう一度自分の姿が映った。

 

 ふ……悪くない。


 少なくとも、さっきよりも心地締まって見える。



「まいっちゃうよね」


 独り言ちる俺を肯定するように、袋の中のから揚げ達の温もりが、じんわりと手に伝わる。



 ……さて、可愛い妹の元へ帰るか。




*   *   *




 玄関のドアを開けると、家の中にふわっとシャンプーの甘い残り香が広がっていた。


 月はもう風呂に入ったみたいだ。


「ただいまー」



 靴を脱いで顔を上げた瞬間——洗面所から現れた月と鉢合わせた。


 髪はまだ少し湿っていて、入浴で血行が良くなったからか、頬がほんのり赤い。

 半袖のパジャマから伸びる四肢は細く、淡い桃色の肌はハリがあった。


「……風呂上がりか」


 ふと、視線が下へと落ちていく。

 すぐに外す——つもりだった。



「……何見てんの」



 ぴたっと動きを止める。

 聞こえて来る月の声が低い。

 


「……別に??」


 軽く肩をすくめる。


「そんなじろじろ見てないだろ」 


「見てたから言ってんの!! 変態……!」



 言いながら、一歩下がる。

 胸元を庇うように回した手には力が入っているのか、パジャマに皺を刻んでいた。



 ……ほんと、過剰反応だな。


「はいはい、ごめんねごめんねー」



 そこで、俺は手に持っていた袋を持ち上げた。



「ほら、から揚げ買ってきたぞ」



 一瞬で、月の視線がそっちに向いた。

 


「……それ、私の?」



「そうそう。から揚げ丼にするつもりだけど」



 言い終わる前に、ツカツカと足早に近付いてきた月に袋が奪われる。

 そのまま月はすぐに中身を確認した。



「……このままでいい。ご飯はいらない」 


 即答。


「いや、ちゃんと作った方が——」



「いいから!」


 ぴしゃりと遮られる。

 


 そのまま、くるりと背を向けて階段を上っていく。

 足音が、いつもより少しだけ速い。


「お、おい! 俺の分のももから揚げも入ってるんだぞ!? 


 抗議の声に、階段を登る足音が止まる。


 僅かな間の後、静かに階段を降りてきた月がむねから揚げの入ったパックだけを取り出して、残りのから揚げの入った袋をズイと突き出してきた。

 

 ただし、目は合わせないまま。


「……部屋で食べるから。……ありがと」


 それだけ言って、再び階段を駆け上っていく。

 その後、ドアが閉まる音がいつもより強く響いた。



 ……やれやれ。


「素直じゃないなぁ」


 思わず、苦笑が漏れる。


 あれもあれで、あいつなりのやり方なんだろう。




 軽く首を回して、キッチンの方へ向かう。 

 とりあえず、俺の分は作るとしよう。名付けてからマヨデラックス丼だ!


 



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