表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

20話 月

 私は、スマホを握ったまま固まっていた。


 画面には、さっきから何度も同じ動画が流れている。


『学校前でケンカしてて草』


 見たくないのに、目が離せない。

 ——私の兄が、誰かと殴り合っている映像。


 血が飛んで、周りが騒いで、女の子が泣きながら止めに入って。


 ……これ、本当にお兄ちゃん?


 嘘だよねって、何度も思った。


 でも、何回見ても——同じだった。

 指先が、震える。


 スマホを落としそうになるのを、ぎゅっと握り直す。


 その時だった。


「……ただいまー」


 声。


 ドアが開く音。


 反射的に顔を上げた。


 そこに立っていたのは——


「……え」


 声が、勝手に漏れた。


 視線が、顔じゃなくて、服に吸い寄せられる。


 シャツにこびりついた、赤黒い染み。


 乾いた血。


 顔にも、拭ききれてない跡。


「……なに、その……」


 言葉が出てこない。


 さっきまで画面の中にいた()()が、目の前にいる。


 現実と動画が、ぐちゃぐちゃに混ざる。


「ちょっとな」


 兄は、肩をすくめた。


「邪魔されちゃって」


 ケラケラと笑ってる。

 なんで笑えるの。


「……は?」


 声がかすれる。


 手の中のスマホが震えているのが、自分でも分かった。

 兄の視線が画面に向く。


 まだ流れっぱなしになっている動画。


「……ああ」


 軽い声。


 もう回ってんのかよ。早いな——とでも言いたげな顔だった。



「本当だったんだ……」


 自分でもびっくりするくらい小さい声が出た。


「ああ、俺がやった」


 あっさり。

 本当に、何でもないみたいに。


「ちょっとしたイベントだって」


 イベント。

 

 またイベント。

 何それ、意味が分からない。

 頭が追いつかない。


「イベントって……何それ……」


 やっと出た言葉は、それだった。


 兄はもうこっちを見てなくて、キッチンに向かっていく。


「いやさ、昨日相談した奈々の事なんだけど。誘おうとしたら邪魔が入ったんだよ」


 軽い口調。

 さっきの映像と、全然繋がらない。


「でも大丈夫。ちゃんと勝ったから」


 勝った?

 どこが?


「……勝ったって……どこが……?」


 気付いたら立ち上がっていた。


 怖い。

 距離を取りたくて、無意識に後ずさる。


「奈々との距離、今日でかなり縮まったからさ」


 ごくごくと音を立てて、コーラを飲む。

 口の端から零れた黒い液体がシャツに零れ、染みを作っていく。


「はぁ……っ!?」


 思わず声が裏返った。


「何言ってんの……!?」


 本当に分からない。

 同じものを見てたはずなのに、どうしてそんな結論になるの。


「明日、奈々の家行ってくるわ」


「はぁ!?」


 頭が真っ白になる。


「ちょ、ちょっと待って……!」


 慌てて首を振る。


「本当にやめた方がいいって!!」


 声が震える。


 止めなきゃいけないって、はっきり分かった。


「なんでだよ」


 きょとん、とした顔。

 本気で分かってない顔。


 ……うそでしょ?


「むしろ今が一番いいタイミングだろ? 今日でだいぶ距離詰まったし、吊り橋効果もあるし」 


 違う。

 違う違う違う。


「向こうも、もう俺を意識して夢にも見てくれるはずさ。俺が奈々の夢いつも見てるんだから」



「違うって!!」


 ほとんど叫んでた。


「それ、そういうのじゃないから!! それ以上その奈々さん? に関わらないで!」


 怖い。

 このまま行ったら、絶対に何か起きてしまう。

 直感で分かる。


(お願いだからやめて)


「……はぁ」


 返ってきたのは、ため息だけだった。

 それも、心底呆れたようなため息。


「やっぱり月にはまだ難しいか」


 ……あぁ。


「いいから気にすんなって。上手くやるからさ」


 終わった。

 何を言っても、もう止まらない。


 そう、分かってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ