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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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18話 月

 今日は、珍しく兄が帰って来るのが遅かった。

 ぱぱっとシャワーを浴びて、冷蔵庫から食料を調達して部屋へと引きこもる。


 出来る事なら、このまま帰ってこなければいいのに。




 しばらくして、玄関が開く音がする。

 兄が帰ってきた。


 もう一度ドアに鍵がかかっているのを確認し――それだけじゃ足りないと思い、椅子や毛布などでドアを固めた。



「月ぃ~!!!」



「っ……」



「ちょっと聞きたいことあるんだけど」



 ドアの向こうで足音が止まり、ドアノブが回る音がした瞬間、心臓が強く跳ねた。


(やだ……)


 


 息を殺す。


 音を立てないように。


 気配を消すみたいに。



 ガチャ。


 鍵が外れる音。



 ぞわっと背中が粟立つ。


 


(なんで……)



 合鍵を使ってくる。当たり前みたいに。


 ドアノブが回る。


 でも、開かない。


 さっき、慌てて置いたバリケードが仕事を果たしてくれているから。



 ガン、ガン。



 ドアを叩く音。


「……おい、月。なんで開かない?」



 やめて。


 声が出ない。

 恐怖で喉が固まってる。


「おかしいなぁ……建付けが悪いのかな?」


 やめて。

 

「今開けて助けてやるからな!!」


 

 やめて!!



「待ってろ月ぃ!!」 


「うっさい!! 壊れてないから!!!」


 


 思わず叫んでいた。

 

 息が乱れる。

 胸が苦しい。


「入ってくんな!!」


 心からの拒絶の叫びに、しばらくの沈黙が流れる。



 ——よかった。 


 そう思ったのも束の間。


 


「開かないんだろ? 任せとけって!」


「違う!! 開くから……開けないでよ!! 着替えてんの!!」

 


 嘘。

 でも、それしか言えなかった。


 

「あ~……そりゃ悪い。ごめんな」

  

 ようやく外の気配が止まる。


 ……でも、ドアにもたれかかるような、ギシッと軋む音。

 

 そこにいる。

 



「なあ、月」



 声が落ちる。妙に真剣な声。

 

「ちょっと相談乗ってくれない?」


 


 ——嫌な予感がした。


 直感で分かる。


 これは、絶対まともじゃない。



「……は?」


「恋愛相談……ってやつ」


 


「……はぁ!?」


 ぞっとする。


 あの兄が、恋愛?


 思わず寒気が背中を走った。


 でも、聞くしかない。

 聞かなければ終わらないから。





 兄の口から語られるのは、同じクラスの委員長さん。奈々さんの話。


 天使だの、好かれてるだの、チャンスを作ってあげただの。


 ズレてる。

 現実と合ってない。兄の妄言なんだって、考えるまでもなく分かった。



 なのに、本人だけが納得して、都合の良いように解釈して笑ってる。



(やばい……)



 喉が乾く。

 心臓が、うるさい。


 そして気付いてしまう。

 

 ——兄を止めないといけないと。


 今、ここで。


  


「おい、聞いてるか? 俺も恥ずかしいんだぞ?」


「……聞いてる」


 頑張れ、私。

 


「……やめときなよ」


 低い声で、ようやく絞り出す。


「は?」


「そういうの……やめた方がいいって言ってんの」


 

 私の言葉は、届かない。

 理解されてない。

 言葉が、全部耳をすり抜けていく。


 

「いや、なんでだよ。別に悪いことしてるわけじゃないだろ?」


 呆れたような声で兄が続けた。


「むしろ勇気が出ない奈々に代わって俺が動こうかなって思っただけだよ。結果は同じなんだから。ドラウェモンの大阪理論と一緒さ」

 


「……馬鹿じゃないの」


「は?」


 もう、隠せなかった。

 怖い。狂ってる。

 兄は人として大事な物が、壊れてる。


 

「月さ、ちょっと過剰反応すぎじゃね? 俺が取られるからって、俺の妹である事は変わらないだろ?」

 


 ……馬鹿じゃないの?


「こういうのってさ、タイミングとか流れが大事なんだよ。今はちょっとそれがズレただけで——」




「違う!!」


 ドアに手をつく。


「そういう問題じゃないから!!」


 ドアを殴りつけて、板一枚の向こう側にいる兄へぶつけるが……届かない。


 

「……まあいいや。月にはまだ難しかったか、ごめんな」



 足音が遠ざかっていく。


 静かになる。



 私は、その場に崩れ落ちた。



「……なに、あれ……」


 兄であって、兄でない。

 人の形をした何かだと、改めて気付かされてしまった。



(お父さん……お母さん……怖いよ……)


 無意識のうちに涙がぽろぽろと零れ落ちる。

 私は、これからどうなってしまうのだろう。


 兄が……このまま暴走を続けたら、どうなってしまうのだろう。



 きっと、今日も寝れない夜を過ごす事になるんだろうと、強く目を擦った。



 

 

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