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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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16話 月

 学校から帰って着替えた私は、今日もリビングでのんびりとテレビを眺めていた。

 ふと時計を見ると、もうすぐ兄が帰ってくる時間。


 ……もう、感覚で分かるようになってしまった。


 テレビを消して自分の部屋に戻り、今度はしっかりと鍵をかける。

 



 数分も立たずに玄関から鍵の開く音が聞こえて来る。

 次いで、少し大きめの足音。


 全部、分かる。


 ……分かりたくなかったのに。


 ベッドの中で息を殺す。

 スマホの画面は真っ暗にして、音も切っている。


 気付かれないように。

 気配を消すみたいに。


 ——ドアの向こうで、声がした。


「月ー? ただいま—」


 ……返事なんて、するわけない。


 喉の奥がひゅっと縮む。

 心臓の音がうるさい。


 そのまま時間が過ぎるのを待つ。


 階段を上がってくる音がしない。

 ……少しだけ、安心する。


(行った……?)


 そう思った瞬間。


 ドアノブが――ガチャ、と鳴った。


「……っ」


 鍵。

 ちゃんとかけててよかった。


 息を止める。


 そのまま、終わってくれればよかったのに。


 ——足音が遠ざかる。


 でも、嫌な予感がした。……すぐに戻ってくる気がして。





 その予感は、外れなかった。


 ガチャリ、と音がした。


(……嘘でしょ)


 鍵を、開けられた。


 頭の中が真っ白になる。


 ドアが開く。


「月、無事か? 大丈夫か?」


 

 その当然のような普通な言い方。

 ……怖い。



「なんで……勝手に入ってこないでよ!!」


 嫌だって叫んでるのに。全然伝わってない顔をしている。


「ノックしただろ、声もかけたしさ?」


 違う。

 そういう問題じゃない。


 距離を取る。

 布団を引き寄せる。


 これ以上近付かれたくない……。



「とにかく月が無事で良かったよ」



 ニチャリと笑みを見せる。



 ……なんで笑ってるの? なんで笑えるの?

 怖い。気持ち悪い。


「うっさい!! 死ね!!」


 言葉が強くなる。

 そうでもしないと、無理だから。


 でも、全然効いてない。


 むしろ——嬉しそうな顔をしてる。


(なんで……?)


 理解できない。

 この人、何を見てるの?

 私を見てるはずなのに、全然違う何かを見てるみたいで。



「体調は大丈夫なんだな?」



「別に。普通だから」


 早く出ていってほしい。

 それだけ。


「夕飯何がいい?」


「いらない」


「だめだ、食べなきゃ元気出ないだろ?」


「いらないって言ってるでしょ!!」


 声が震える。

 何を言っても、伝わらない。


「分かった分かった。何か美味いもの作っておくから、後で食べろよ?」


 ——勝手に決める。


 勝手に優しくする。

 勝手に分かった気になる。


 ドアが閉まり、足音が遠ざかる。


 ようやく……息ができる。


 身体の力が抜けて、ベッドに崩れる。


 目の奥が熱い。


 でも、泣いたら負けな気がして。


 歯を食いしばる。


(……どうしよう)


 ただただ、スマホを握り締めるしかなかった。




*   *   *



 

 兄がどこかへ出かけたのを見て、私は急いでシャワーを浴びに行く。

 夜にゆっくり浴びようものなら、兄が偶然を装って洗面所に入って来るし、あわよくば浴槽のドアも開けようとして来る。


 ……絶対にそれだけは嫌。

 

 だから、隙を見て入るしかないの。



***

 


 風呂から出て髪を乾かす。まだ完全には乾いていないけど、そろそろ兄が帰って来る頃合い。

 ——逃げなきゃ。



 玄関のドアが開く音。



(……遅かった)



 帰ってきた兄は、さっきよりも少し機嫌がよさそうだ。



(……最悪)


 息を整える。

 逃げ場なんてない。


 早く部屋に戻ろうと洗面所から出た瞬間、兄と目が合った。


「……風呂上がりか」


 その視線が、私の顔から下に落ちていくのが分かる。


 反射的に身体を腕で隠す。


「……何見てんの」


 低い声が出る。

 ……気持ち悪くて。


「……別に??」


 嘘。

 完全に見てた。


「変態……!」


 一歩下がって距離を取る。

 それでも、まだ近い。


「はいはい、ごめんねごめんねー」


 軽い。

 全部軽い。

 何も伝わってない。

 

 本当に……最悪。



「ほら、から揚げ買ってきたぞ」


 袋を見た瞬間、身体が反応する。


 悔しい。


 でも、空腹はどうしようもない。


「……それ、私の?」


「そうそう」



 足早に近寄り、奪うみたいに袋を受け取って中身を確認する。

 パックに入ったから揚げが二つと、袋にパンパンに入ったから揚げ。


 ——確認するまでもない、袋のは兄のだ。



「……このままでいい。ご飯はいらない」


 早く離れたい。


「いや、ちゃんと作った方が——」


「いいから!」


 遮って背を向け、逃げるみたいに階段を上る。


「おい! 俺の分も——」


 

 それは……仕方ない。

 戻るしかない。



 必要な分だけ取って、これ以上関わらないように。


「……部屋で食べるから。……ありがと」


 目を合わせない。

 合わせたら、何か崩れそうで。


 全速力で部屋へ戻ってドアを閉め、鍵をかける。


 背中をドアにつけて、そのままずるずると座り込む。


 手が震えてる。

 

 やっぱりあいつ……私の身体を見てた。


 キモい、気持ち悪い……。


 

 せっかく美味しそうな香りを立てるから揚げが手元にあるのに、私は吐き気でふらふらとベッドに倒れ込まざるを得なかった。




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