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嫁ぎ先が滅びた出戻り王女の再婚〜最強は、だいたい無気力でできている〜  作者: 薄氷薄明


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「門前払いされたので帰って寝ます」

 魔法大国エシャンの王都は、暴力的なまでの『光』に満ちていた。

 白亜の壁は陽光を反射して眩しく輝き、街の至る所にある魔導具が、逃げ場のない輝きを放っている。


 ガタゴトと、アシュリーを乗せた漆黒の遮光馬車が、王城の正門前で停止した。

 だが、待てど暮らせど門が開く気配はない。


「……ケリー。どうしたのかしら。随分と静かだけれど」


 馬車の中で、アシュリーが掠れた声で問う。


「……アシュリー様。門番が申すには、現在『魔導障壁の調整中』とのことで、入城には特別な身元確認が必要だ、と。そのまま馬車を下げ、外で待機せよと命じられました」



 それを聞いたアシュリーは、ハンカチで口元を押さえながら、静かに目を細めた。

 調整中? 身元確認?

 王自らが望んだ政略結婚で、嫁いでくる王女を門の外で待たせる。それが魔法大国エシャンの『礼儀』だというのなら――。


「……随分と、舐められたものですわね」


 アシュリーの声は静かだったが、そこには修羅の国メネスの第四王女としての、『矜持』が宿っていた。

 自分一人が耐えれば済む話ではない。門の外で王女を晒し者にするという行為は、母国メネスへの宣戦布告に等しい侮辱だ。


「ケリー、サリー。……引き返しますわ。近くの街で宿を探してちょうだい」


「……よろしいのですか、アシュリー様」


「ええ。準備もできていない国に、無理やり押し入るほど私は野蛮ではありませんもの。……門番の方に、これだけ伝えてちょうだい。『エシャン王国が私を迎える準備を整えるまで、近隣の街で待機しております。準備ができましたらお知らせください』と」


 ケリーが外へ出て、主の言葉を淡々と告げた。

 門番たちは鼻で笑い、『敗北者が逃げ帰るか』と嘲笑を浮かべていたが、彼らは気づいていない。アシュリーが託した言葉が、どれほどの『爆弾』であるかを。



 馬車を回す際、アシュリーはほんの一瞬だけ、自ら扉を開けて外の空気に触れた。

 門番たちに、自分の姿を刻み込ませるために。


 肌が焼けるように熱い。

 じわりと滲んだ灰が、光に溶けて舞った。


 その瞬間――王城の正門前に異変が起きた。


「な……っ!? おい、見ろ! あれはなんだ!?」


 陽光を浴びたアシュリーの指先、そして肩から、キラキラとした幻想的な光の粒子が立ち昇り始めたのだ。

 白い肌が、ダイヤモンドを砕いたかのような神々しい輝きを放ち、風に舞っていく。


(……ああ。やっぱり、ダメだわ。『死にかけている』……『削れてる』……。早く宿を見つけて……コホッ!!)


 周囲の人々には、侮辱を受けてなお気高く、光り輝く姿に見えただろう。

 だが実際には、アシュリーが命を削って放った、痛恨の抗議であった。



 それから数時間後。

 アシュリーは宿のスイートルームを占拠していた。

 厚手のカーテンを何重にも引き、光を排除した『完璧な闇』。


「……ああ、落ち着きますわ。やっぱりお城より、こちらの方がずっと素敵ですこと」


 アシュリーは寝椅子でくつろぎながら、筆を走らせていた。

 一通は、父王ガドフリーへ。

 もう一通は、弟エレベルへ。


『お父様、エレベル。エシャンに到着しましたが、あちらの準備が整っていないようで、門前払いを受けてしまいました。ですので、今は近くの街でのんびりしております。……もし、エシャンから何か連絡があれば、私が無事であることと、準備が整ったという連絡を待っているとお伝えくださいね』


「ケリー、これを。……あの門番が私の言葉を伝え忘れてしまうかもしれませんから、必ずメネス側からも『確認』を入れてもらうように伝えてちょうだい」


「畏まりました、アシュリー様」



 翌朝、国王ヴィンセントが事態を知ったのは、執務室に届けられた一通の報告書――ではなく、メネス王国からの『超特急の親書』によってであった。


『我が娘アシュリーが、貴国の正門前で入城を拒否されたと報告を受けた。……魔法大国エシャンは、我がメネス王国との盟約を破棄するという認識でよろしいか』


 ガドフリー王からの、あまりにも直接的な『問いかけ』。




「…… 彼女は、城に来ていないのか?」


 ヴィンセントは椅子を蹴って立ち上がった。


 彼はアシュリーのために、魔法不要の設備を使った離れを手配していたのだ。


 だが、現場の門番が勝手な判断で彼女を追い返し、その結果、アシュリーは街の宿で『のんびり』と引きこもり、実家へチク……報告を入れていた。



「……門番を今すぐ捕らえろ! ……アシュリー王女がどこにいるか探せ!」


 ヴィンセントは眉間を押さえ、胃の奥が焼けるような痛みを感じた。


(……あり得ない。メネスの王女を門前で止めた? これは、失態では済まない)



 その頃アシュリーは、真っ暗な部屋で、何事もなかったかのように目を閉じていた。

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